085 争闘が開幕
「行くぞぉぉ!」
「「うおぉぉ!!」」
リーダーのベイルの気迫溢れる号令で、残った冒険者達が全力で村に向かって走り始めた。
だが、今ここにいるのは二十人弱だ。敵の正確な数は不明、悪魔に遭遇すれば、村の奪還どころか全滅してしまうかもしれないという状況。
それでも、立ち向かわなければならない。その為に俺達が派遣されたのだから。
真っ黒な鳥型の魔物が此方に赤い光の灯った目を向け、一斉に向かってくる。
『グェェェ!!』
「<強撃>!」
魔物の叫び声とほぼ同時に、ベイルの強化魔法が全体にかかる。
「おらぁぁぁ!!」
『グェ!?』
ベイルは軽々と巨大な戦斧を振り回し、一体の黒鳥の翼に大きな傷をつけ、
「はぁっ!!」
『グェ……』
体制を崩したところに、ベイルのパーティメンバーがすぐさま追い討ちをかける。慣れ切った連携に、黒鳥はあっけなく倒された。
「皆もとにかく数を減らしてくれっ!」
「そのつもりだ!」
他のパーティも一体ずつ黒鳥を相手取る。効率よく倒されていくところを、戦闘向きでない俺達は後方で見守っていた。
が。
『グェェェ!!』
「っ!うしろっ!」
いつの間にか後ろに回り込んでいた一匹の黒鳥が、俺達に向かって突っ込んできていた。セレノの声で気付いた俺は咄嗟に横に跳び退く。
セレノも無発声法で風魔法を撃ちながら横に跳び退いた。思わぬ魔法の発動に黒鳥は反応しきれず直撃したが、大した傷にはなっていなかった。多少威力を落としたのだろう。
ただ、牽制目的の魔法なので、それで問題ない。寧ろ発動速度、発射速度、消費魔力のどれをとっても高水準だった。
さらに、ナツキ達との訓練中の俺の動きから着想を得たであろう動きを、実戦のしかも奇襲相手にかます順応力の高さ。
器用なセレノだからこそできる芸当だ。これに治療魔法があることを忘れてはいけない。
「よく気付いたな」
「ちょっとだけ魔法で周囲に風を吹かせていたんです。それが後ろから乱れたので」
「……すごいな」
『グェ!グェ!』
セレノの成長速度にまた驚きつつ、声のする方へ目を向ける。奇襲を失敗した上に一撃もらったことで苛立っているのか、俺達の周りを執拗に飛び続ける。
「っ!大丈夫か!?」
「問題ない!こっちでなんとかする!」
他のパーティが俺達に気付いて声を掛けてくるが、そっちも余裕はない筈だ。二人しかいないのを気にかけてくれているのはありがたいが、足手纏いには思われたくない。
それに、セレノも相当仕上がっている。ここは俺達だけでも時間稼ぎくらいはできるだろう。
『グェェェ!』
正面から突っ込んできた黒鳥に剣を向け、上手い具合に受け流す。数日前にナツキに仕込まれていたから、付け焼き刃ではあるものの機能はしている。
多少腕は痺れたが、ナツキやミーナに比べたら……こいつのは大したことない。
身を翻して再度突っ込んできた黒鳥を、俺は受け流しながら今度は睡眠魔法も使う。
「<麗夢>!」
『グェェッ』
光は確かに当たった。が……黒鳥は平然と飛び去った。……あいつには、睡眠魔法が効かないのか。
しかし、俺が魔法を使ったことで、黒鳥は俺に無闇に突撃するのをやめ、様子を窺うようにまた旋回を始めた。
「くそ、どうする……?」
睡眠魔法が効かないのはこいつが初めてで、どう対処すべきか迷う。フォレストドラゴンですら効くのにな。
……いや、待てよ。
フォレストドラゴンには、威力を極限まで高めたものをぶつけたから眠った。普通にやったのでは、多分眠らない。
そして、こいつは眠らなかったが、様子見という行動を取った。つまり警戒はしているということだ。
全く効かないのなら、恐れることなく攻撃を仕掛け続けてくるはず。ということは?
俺は魔力を練り始めた。俺の考えが正しければ、威力を高めればあいつも例外ではない。
『ッグェェェ!』
俺の動きに気付いたのか、慌てた様子で突っ込んでくる黒鳥。しかし威力が乗っていなかった為、難なく流すことができた。
焦って連撃を仕掛けてくるが、二度目の突撃を俺は正面から受け止め、
「<麗夢>!」
溜めた睡眠魔法をぶつけた。一瞬動きが止まったところを地面に叩きつけ、翼に剣を突き刺して縫い付ける。
「セレノ!」
「はい!……<風刃>!」
少し威力を高めた風の刃が素早く飛んでくる。しかしそれでも貫通はせず、決定打にはならない。
「なっ……」
「俺に任せろ!」
跳び上がったベイルが、黒鳥の首めがけて戦斧を振り下ろす。
それは難なく首を通過し、黒鳥の命を刈り取った。




