084 準備が充分
ミーナのスキンシップですっかり元気を取り戻したナツキが案内してくれたのは、ここ刀剣王国で生産が盛んな米をすり潰して作る、いわゆる餅を出す店だった。
昔からある食べ物らしいが、俺も当然知っているから懐かしいし、なんとなく嬉しい。ナツキも好んで食べる訳だ。
餅を初めて見るセレノは、伸びる白い物体を目を輝かせながら頬張っていたが、一方俺は一つだけ我儘が言いたくなった。
あんこも食いてぇ、と。
ただ詳しい作り方も知らないし、大豆は一応あったが小豆がこの世界に存在するかも分からないので、それを口に出すことはなかった。
……ナツキはそんな俺を見て笑っていたが。
そんな感じでナツキとミーナの案内による観光で数日を過ごしていると、エイジから後続の冒険者達がギルドに到着したとの連絡を受けた。
早速ギルドに向かうと、商業王国で見た冒険者達が確かに集まっていた。俺達と目が合うと戦斧の男がこっちに歩いてくる。
この男が今回の依頼のリーダーらしく、他の三つのパーティは見ているだけのようだ。
「もう着いていたんだな。あんたらだけいなかったから少し気になっていた」
複数のパーティで依頼を受ける時は、一緒に行動するのが基本だったが……まだ始まってないし別にいいよな。
「依頼を受けてから次の日には出発していたんだ」
「なるほど、行動が早いな。……これから副ギルドマスターの所へ行く、一緒に来てくれ」
「分かった」
簡潔に内容を伝えられ、それに従う。
一応俺達は比較的最近金級になったばかりなので、それ以前に金級であるベテランパーティには従っていくつもりだ。
副ギルドマスターの部屋にぞろぞろと集まった冒険者達は、相変わらず複雑そうな顔で明後日から調査を始めるように指示された。
戦斧の男……ベイルによると、そんな顔をするのは刀剣王国の人間が攻撃魔法に頼ることに前向きでないかららしい。
確かに数日過ごした中で、すれ違う人は皆剣の類を携えており、杖を持っている人、つまり魔法師は滅多に見なかった。
魔法王国が魔法第一主義であるように、ここ刀剣王国も似たような考え方なのだろう。
……俺からすれば、どちらに偏ってもバランスが悪いから、無駄な考え方だと思うが。
話が終わった後、俺達以外の冒険者は皆すぐに近くの宿に向かっていった。移動の疲れを依頼中に引き摺らない為だ。
その点、早めに到着していた俺達は、今日もナツキおすすめの美味い飯屋に行ったりしてゆっくりと過ごした。
こういうのはやはり余裕を持って動いておくべきだな。
二日後。
俺達冒険者一行は、事前に決められていた集合場所の街の裏門に集まり、既に集まっていた刀剣王国の冒険者一行と共にロレス森林地帯方面へと出発した。
馬車がすれ違えるような大きな道は存在せず、道中に数カ所ある村に寄って被害が無いかの確認をしながらの徒歩移動になる。
村でも休息は取る予定になっているが、距離によっては野営も当然しなければならない為、金級でも旅慣れた者でないと中々に厳しい環境になっている。
無論、今集まっているメンバーにそのような心配はないが。
道中はパーティ間の簡単な動きについての共有が行われた。誰が前衛でどんな武器を扱い、誰が後衛でどんな魔法を使うのかの確認だ。
これをやっておかないと、味方同士の武器や魔法でお互いの足を引っ張り合いかねないのだ。
金級ともなればある程度察せるようにはなるが、それでも依頼達成の安全性、安定性を考えると、共有しておくに越したことはない。
野営を挟んで二日目、そろそろ一つ目の村、イオタ村が見えてくる丘で、先頭を歩いていたベイルが脚を止めた。
「……ん?なんだか変なニオイが……まさか」
そう呟いて今度は走り出す。
「おいベイル!待て!」
ベイルのパーティメンバーがそれについていき、孤立を防ぐ。
「ニオイ……確かに臭いね」
「……そうか?どんなニオイだ?」
動物に近い感覚を持つミーナも何かのにおいを感じ取ったようだ。正直俺には分からなかった。
「うーん……ものが焦げるニオイ?」
「え……それってまさか」
俺だけでなくその場にいた全員が同じ事を考え、ベイルのパーティに合流しようと走り出す。
先で立ち尽くしていたベイル達の視線の先、丘の向こうには……黒煙の上がる小さな集落があった。周辺には、真っ黒な鳥型の魔物が見える。
今まさに襲撃されているところだった。
「……もうこんなところまで来ているのか……まずいな」
「……ということは、これより先はもう既に……」
「……その可能性が高いな」
ベイルは唇を噛み締め、村を睨む。
「ベイルさん……指示を」
「……分かった。……皆!これより昨日決めておいた作戦三を開始する!レーブのパーティメンバー、ミーナとナツキは加速魔法を使い街に戻ってギルドに緊急報告、その他は全力でイオタ村の奪還だ!」
「「了解!!」」
ミーナはすぐに自分とナツキに<加速>を使い、俺を見て頷く。
「頼んだ」
俺が頷きを返すと、二人は来た道を引き返していった。
作戦三……襲われた村に到着した際、それが街に近かった場合、ギルドに緊急的に報告して応援を呼び、その間残った戦力によって全力で敵を抑える、というものだ。
当然作戦は一とニもあり、街との距離感で緊急度を変えていたが、今回は最悪に近い事態だった為、一番緊急度の高い三が実行された。
そしてその引き返す役は、加速魔法を唯一使えたミーナ、そして同じパーティの前衛であるナツキが選ばれた。
本来、安全面からパーティは一緒に行動するべきだと決められているが、後衛である俺やセレノがいるとスピ―ドがどうしても落ちてしまう為、このような人選に決まった。
……本当は、勇者であるナツキを下がらせたくはないのだが……
「……なんとかなってくれよ」
前方で、魔物の醜い叫び声が聞こえた。




