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082 勝敗が不明

「え?やだよ」

「いいじゃん、魔法を使う相手を想定した訓練もしたいんだよ」


 口が塞がらなくなるような訓練を見せつけられた後、ナツキはなんと俺とも訓練したいなどと言い出した。

 まさかそんなことを言い出すとは思っていなかった俺は、全力で拒否する。


「やる必要ないだろ。魔法を出される前に持ち前のスピードでワンパンすればいい」

「もし撃たれたらまずいじゃん」

「それでもお前は余裕で対応出来るだろ」

「うーん頑固だなぁ……」

「頑固で結構。お前には勝てないから絶対やらない」


 ナツキには諦めてもらう。目で追えない相手なんて、既に負けているようなものだ。俺に勝ち目はない。


「相手がミーナならやってくれる?」

「は?」

「やろうよ!」

「……」


 ……しまった。ナツキには勝てないから嫌、つまりナツキじゃないならやってもいい、という風に取れる発言をしてしまった。

 ミーナも妙にやる気で、尚更断り辛い。


「別に勝ち負けはどうでもいいんだよ、あくまで訓練だから。それに、多少怪我してもセレノさんが治してくれるんじゃない?」

「えー……」

「レーブくんが戦ってるところ見たいです」

「……仕方ないなぁ」


 セレノに目で助けを求めても、キラキラした目が返ってきて、結局受け入れざるを得なかった。俺はセレノの欲求には応えてあげたくなるんだよな。


「よし決まり。ミーナ、加速魔法はやめておこうか」

「分かった!初めてだなぁ、レーブと戦うの」


 うーん、随分と舐められたものだ。でもそうでないと全く見えなくなるからありがたい。なんとも情けない話だが。


「俺は何をすればいいんだ?」

「ミーナがレーブに対して攻撃を仕掛けるから、それを迎撃するか回避する感じで」

「迎撃か……了解」


 迎撃に適した魔法なんて持ち合わせていないが、無理矢理やってみるしかない。

 しかし、こういう時の戦い方も経験しておくと、どこかで役に立つかもしれない。……というか寧ろその為の訓練だったな。

 


「じゃあ、いくよ?」

「……おう!」


 俺の返事とほぼ同時にミーナが姿勢を低くし、此方に突っ込んでくる。それまでの訓練の様子からそう来るだろうと思っていた俺は、


「<麗夢(ドリーム)>」


 正面に魔法の光を複数出して、自分は全力で体を横にずらし、ミーナの進路上から出る。

 しかし俺が睡眠魔法を使えるのを知っているミーナは、当然素早い足捌きで回り込んできた。


「<麗夢(ドリーム)>」


 同じように進路上に光を置き、今度は全力で後ろに下がる。回り込まれるとすぐ目の前にミーナが来てしまうことが分かったからだ。とにかく距離を取るべきだと考えての行動だ。

 が、ミーナは魔法を回り込むことはせず、なんと姿勢を極限まで低くして下を潜ってきた。

 これはもう逃げられない。


「もらっ、た……?」

「かはっ……」


 拳を作って飛びかかって来たミーナに頭突き(・・・)され、俺はミーナごと後ろに吹っ飛んだ。動かなくなったミーナを庇いながら地面を転がり、なんとか止まる。


 ……身体中が痛い。特に胸の辺りが。そして吐きそう。



「大丈夫!?」「大丈夫ですか!?」


 見守っていた二人が駆け寄ってくる。懐を見ると、すやすやと眠るミーナが。


「いてて……これ、どっちの勝ちなんだ……?」

「……勝負に勝ったのがレーブで、試合に勝ったのがミーナかな?」

「うーん……それを言うなら逆じゃないか……?勝負に勝ったのはミーナで、試合に勝ったのが俺じゃ」

「そんなのどうでもいいです!」


 セレノは俺達の会話を跳ね除け、治療魔法を使い始めた。すぐに体の節々の痛みがすーっと消えていく。吐き気もなくなった。

 

「まだ痛いところはありますか?ミーナに怪我は?」

「ありがとう、俺は今ので治ったから大丈夫だ。ミーナは分からないから一応回復を頼む」

「分かりました」

「……ごめん、必要以上に心配かけたな」



 ミーナを止めるには、睡眠魔法を当てるしかなかった。近接戦闘メインの相手に慣れない近接戦闘で挑むのは自殺行為だからだ。

 しかし、馬鹿正直に魔法を撃つだけでは当然躱されてしまう。だからはじめから、突っ込んできたところに魔法を置く形で当てようと考えていた。追尾性能はあるが、ミーナの速さには追い付けないからな。

 そんな見かけは単純な戦略を掻い潜れたことで油断したミーナは、手が届く寸前で俺の無発声法に対処できなくて眠ってしまった。勢いはそのままに。


 それがまさかここまで転がる程になるとは思っていなかった。ミーナの勢いが想定より遥かにあって、耐えることも抑えることもできなかった。



「見たいと言ったのは私なので、謝らなくてもいいです。……それより」


 ……しかし、案外セレノは俺とミーナが怪我をしたことに関しては気にしていないらしい。

 それよりも別に気になることがあるようで、微妙に眉を寄せている。その視線は、俺の腕の中。


「ん……?あ、ああナツキ、突っ立ってないでミーナを回収してくれ」

「ああ、ごめん。レーブならいいかと思ってたよ。それより、さっきの助言忘れてるみたいだなぁ」

「それよりって、お前なぁ……それでも彼氏かよ」


 眠りこけるミーナをナツキに預けながら俺は呆れる。その発言を本人に聞かれてみろ、どうなっても知らんぞ。

 ……こっちは妙な柔らかさを感じて罪悪感さえ覚えたというのに。


 いやそんなことより、うちの彼女というか妻の機嫌が悪い。こういう顔は余程のことがないとしないのに。

 ……ミーナにがっつり触れてたのがそんなに気に食わなかったのだろうか。


「……他意は全くないからな?」

「それは分かってます。ただ……」

「……ただ?」

「……なんだか、ムズムズしました」

「……」



 ……それって、嫉妬、とかいうやつでは……?


 溜息が出る程の可愛さに、俺はセレノを撫で回したい衝動にかられたが……宿でもない上にナツキという人の目もあったので、流石に抑え込んだ。

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