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080 本心が出没

「……え?じゃあ召喚魔法は?あの人達は?」

「そんな魔法は存在しない。研究しているのは事実らしいが、成功した訳じゃない」

「……えぇー……だったらあれはなんだったんだよぉ……」


 力なく項垂れるナツキ。まあそういう反応になるだろうな。


 ナツキが冒険者になったのは、神聖王国の城にいるのが怖かったから、詳しく言えば城の人間が怖かったから、だった筈だ。

 それが神様の体裁上の理由だけでそんな環境が選ばれたんだから、ナツキにとってはただ迷惑なだけだ。

 それも何の説明もなく。俺の場合は全て知った上での召喚だったから殆ど混乱はなかったが、気が付いた時にいきなり洞窟にいて、ゴブリンなんかに追われたなら……俺は冷静ではいられなかっただろう。


「……で、どうするんだ?」

「……なにが?」

「神聖王国に戻るのか?」

「そんなの、決まってるよ。戻る訳ないじゃん」

「なら良かった。これからもよろしくな」


 ナツキの目の前に手を出すと、曇り一つない笑顔で握り絞められた。

 大した理由も縁もないのに、苦しいと思う場所に戻る必要なんてない。ナツキにはもっとこの世界を楽しんでほしい。


 それで、あわよくばこの世界に留まってくれたら……




「随分とさわやかな顔になったけど、決まったの?」

「うん。戻らないことにした」

「そっか。戻るならヘンデルさんに会いに行ってもよかったけど……依頼終わってからでもいいかな」

「そうだね。この依頼大きそうだし、良い報告ができるんじゃないかな」

「たしかに!頑張ろう」


 部屋を出て合流するなり、ナツキとミーナはそんな話をしていた。



 俺はナツキが神聖王国に戻る必要はないと思っていたのと同時に、戻るべきではないとも考えていた。

 今回の依頼が神様の言っていたものだとするならば、勇者の力が必要になってくるのだ。

 ハンネスの言っていた、出生不明の男というのも怪しい。それがもし、ナツキと同じような召喚者だとすると、その可能性はやはり高いだろう。


 だが、これはあくまで俺の推察でしかない。それにナツキに余計なプレッシャ―を与えるのもよくないと思って、本人には伝えなかった。

 今はミーナという恋人もいるし、あまり邪魔はしたくない。



 仲睦まじいナツキ達を眺めながらそんなことを考えていると、いつの間にか隣に座っていたセレノが俺に質問を投げかけてくる。


「説得でもしたんですか?」

「ん?んー……まあそんなところかな」


 全部話す訳にもいかなくてとりあえず肯定すると、セレノは何故かクスクスと笑い出した。


「何か可笑しかった?」

「ふふ……寂しかったのかな、と思って」

「別に笑うところじゃないだろ……でも、寂しい、か……それはあるかもしれないな」


 セレノも言うようになったなと苦笑しながらも、俺は寂しいという言葉に納得していた。

 この世界に留まってほしいという気持ちからもそう取れるし、実際ナツキ達と一緒にいる方がより楽しいと思っている。

 神聖王国に戻ったところで二度と会えなくなることはないだろうが、折角なら一緒に行動していたい。


 セレノは、案外俺よりも俺のことを分かっているのかもしれない。



「お?お前達もう帰ってきてたのか。なんかあったのか?」

「あっそうだった!」


 厨房からひょこっと顔を出したロベールを見て、肝心なことを忘れていたのに気がついた。俺にとっては最重要と言ってもいいことなのに。


「話がある。エミリーも呼んでくれ」

「話って何ー?」

「……」


 ロベールの下から同じようにひょこっと顔を出したエミリー。……真面目な話の前に笑わそうとしてくるのは止めてくれ。


 まあそういうところもこの親子の良い所なので、特に指摘せずにテーブルに座らせる。



「今日急に決まったんだけど、俺達は明日から刀剣王国に行くことになった」

「いきなりだな」

「そう、いきなりだった。だから宿の手伝いが明日から出来なくなるんだ」

「そうか、分かった」


 ……何か言われるかと思って身構えていたのだが、意外にもあっさりとした反応で、逆にこっちが焦る。


「……大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。いずれそうなるということは俺達も承知の上だった。このままお前達をずっと頼ろうなんてことは考えていなかったぞ」

「うんうん」


 隣に座るエミリーも真面目な顔で頷いている。


「そっか……でも、睡眠魔法も出来なくなるぞ?」

「それも仕方ないだろ。これからはまた普通にやっていくわ。……ま、お前達の給料を差し引いてもかなり稼がせてもらったからな。当分は客が少なくなっても大丈夫だぜ、へっへっへ」

「むっふっふー」

「……なら大丈夫そうだな」


 気持ち悪い顔で笑い合う親子。大丈夫って言うなら気がかりがなくなって助かるが……なんか腹立つな。

 とは言え、この反応に悪気が一切無いことは俺にも分かっている。敢えてこういう反応をとることで、俺達から不安と心配を取り除こうとしているのだ。

 本当に、何処までも気が回る親子だ。


「まあそういう訳だ、気兼ねなく行ってこい」

「おう。ありがとな」

「終わったらまた帰って来てくれると、私は嬉しいかなー」

「ああ、それはそのつもりだ。な、セレノ」

「はい。ここにいるのは楽しいので」

「セレノー!可愛いやつめー」

「エミリー!?ちょっと……レーブくん助けてくださ……」


 セレノがエミリーに襲われるが、俺は対処もせず笑いながら見届ける。


「大分前から思ってたけど、ここは家みたいなもんなんだ。だから遠慮なく世話になり続けさせてもらうよ」

「ああ……是非そうしてくれ」


 俺の言葉を聞いた宿屋親子は、嬉しそうな笑顔を返してくれた。

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