079 裏面が存在
「「悪魔……?」」
悪魔と言われて、俺やナツキだけでなく、セレノ、ミーナを含めたこの世界の冒険者の殆どが首を傾げた。
そんな中、一人顎に手を当てて考え込んでいた魔法師の女性が、徐に口を開く。
「悪魔……本で読んだことがあります。魔物の中でも人に近い姿、知能を持っている凶悪な生命体である、と」
「その通りだ。その上、人よりも高い魔力を持っているらしく、一度暴れられると太刀打ちできなくなるそうだ。過去に出現した時は、出生不明の一人の男が止めを刺したらしい。その男の詳しい情報は何処にもなかったから定かではないが」
聞く限りかなりの危険度だが、冒険者達が知らなかったどころかハンネスでさえ伝聞口調なのは、それだけ出現率が低いということか。
……それより、出生不明の男、というのが気になる。これが神様が言っていた話だと断定すると、その男の正体とは。
「……ヤバいのは分かった。それで、俺達は何をすればいいんだ?」
戦斧の冒険者が聞く。結局のところ、聞きたいのはそこだ。自分が何をすればいいのか、それが分からなければ何も始められない。
「君達には、悪魔の取り巻きの相手をしてもらう。刀剣王国の冒険者は攻撃魔法を使わないから、効率が悪い。それに、低級適性の雑魚でも化ける可能性がある以上、戦力を惜しんでいられないんだ」
「……分かった。だが悪魔本体はどうするんだ?」
「悪魔は白金級にやってもらう。まだ連絡がついていないが、やるなら確実に倒さなければならないからな。恐らく金級では手に負えない相手だ」
「……白金級が来るなら何とかなるか」
自分達が悪魔自体の討伐に集められた訳ではないのを察していたのだろう、白金級と聞いた男からは、安心と悔しさが同時に滲み出ていた。
「……というわけだ。特に質問が無ければ、明日からにでも刀剣王国に向かって欲しい。……やってくれるか?」
正直に言って、自ら行きたいと言って手を挙げるタイプの依頼ではない。苦戦することが分かり切っている難しい依頼だ。
だが、冒険者達は皆やる気に満ちた表情で頷いていた。これが冒険者達の矜持の表れか。
「ありがとう。着いてからの行動はあっちの副ギルドマスターから指示を受けるようにしてくれ。既に早馬が向かっているから、話は通るはずだ」
話が終わり、冒険者達が後ろの入り口から退出していく。一番奥、副ギルドマスターに一番近い席に座っていた俺達が最後に出ようと立ち上がると、
「君、ナツキ、か?」
「え?」
突然ナツキがハンネスに名前を呼ばれる。
「黒髪の青年、宛に手紙を預かっていてな」
「はあ……確かに僕ですが」
「誰からかは伏せられているが……事情は察さないでおく」
「……あ、ありがとうございます?」
おずおずと手紙を受け取るナツキ。横目で見てみると、その手紙には豪華な装飾が施されていた。確かに訳アリに見える。
部屋を出てすぐに手紙を読みだしたナツキは、ああ、と何かを思い出したような声をもらす。
「内容を聞いても?」
「……神聖王国に戻ってこい、だってさ」
「……ああ」
すぐに相手が誰か理解した。ナツキに対して神聖王国に戻ってこいなんていう相手は、一つしかない。
「戻るのか?」
「う―ん……正直戻りたくないんだけどね」
「それなら俺から話がある。宿に戻って話そう」
「話?分かった」
戻ると言われても説得するつもりだったから、それならもなにもなかったな。
……ナツキは、あの国に縛られる必要なんてないんだから。
宿に戻って、男同士の話をすると言って二人に移動してもらうと、久々に二人だけの空間が出来上がった。
「こういうの懐かしいね」
「そうだな。最初に会った時はそっちから話があるって言ってきたけど」
「そういえばそうだったね」
それがもう五年程前になることに驚く。当時帰りたいと言っていたナツキも、それだけの月日をこの世界で過ごしたことになる。
……その気持ちは、今も変わらないのだろうか。
「で、話って?」
「ああ、そうだった」
別のことを考えてしまっていたが、それはひとまず置いておく。今の本題はこれじゃない。
「ナツキって、今までに喋る動物に会ったことある?猫とか」
「ああ、たしか鼠なら……ってなんで知ってるの!?」
鼠とはまた……狸より酷いな。
いやそんなことより、この反応なら言っても大丈夫そうだ。
「神様から話あったんだな」
「あ、うん……レーブも会ってたんだ」
「この世界に来る前には既にな」
「えー、俺なんて放置されてたのに……」
「それはな……多分お前の召喚スタイルに関係がある」
「……ん?どういうこと?」
神様がどこまで説明しているのかは分からないが、俺との違いや召喚の流れについての理解は浅いようだ。
なら、ここでちゃんと共有しておくべきだと思う。似たような境遇の者として。
「俺は向こうで死んで、魂になって彷徨ってたところを拾われたんだ。その時に話しかけられた。ナツキは身体ごとこっちに来てるから、そういうタイミングがなかったんじゃないか?」
「……うーん、確かに気づいた時にはあの場所にいたからね。会話する余地はなかったように思う」
腕を組んで考えるナツキ。俺も詳しく聞いていないから考察でしか話せないが、大体そんなところだろう。
まあそれもそうとして。
「……ここからが本題。俺はその魂を死者に宿らせることで身体を得ているから、一応はこの世界の人間なんだけど……身体ごと来たナツキは違う。だから、別世界の人間であることに不自然が出ないように、説明できるようにする必要があったんだと思う。全部考察だけど」
「……んー、なるほど?」
いまいち分かっていなさそうな反応だが、このまま話を進めさせてもらおう。俺が言いたかったのはここからだ。
「因みにナツキは、なんで神聖王国に召喚されたと思ってる?」
「え?それはあの国の王様達が召喚魔法?の研究をしてたからじゃないの?」
「やっぱり聞いてないか。……俺も後から聞いた話だけど、お前がそこに召喚されたの、神様にとって都合が良かったってだけらしいぞ」




