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078 有事が発生

 翌日、万全の状態になった俺達は、朝食を終えてすぐ冒険者ギルドへ向かった。……昨日休んだから、せめて今日は早めに行こうという、罪滅ぼし的な感覚だ。

 なお、遅寝早起きを強いられたロベールに若干睨まれたが、俺が申し訳なさそうに手を合わせると、破顔して手を立てて横に振った。ただからかわれただけだったようだ。


 どうせならと一緒に来たナツキ達と共に冒険者ギルドに入ったところで、丁度昨日の職員と目が合い、俺達の活動用の服装を見て安堵を浮かべられる。が、しかしすぐに顔を曇らせた。……何かあったのだろうか。


「すみません、昨日何かありましたか?」

「え?いえ、そういう訳では……貴方達に指名依頼をすることになりましたので」

「ギルドからですか?ということは……また新人研修かな」


 あまりいい記憶がなくて俺が眉を顰めると、職員は首を横に振った。


「そうではなくてですね……金級以上の冒険者を対象とした、かなり重要なものになるので、副ギルドマスターから話を聞いていただくことになります。……よろしければ奥の大会議室へどうぞ」

「……分かりました」


 わざわざ副ギルドマスターから説明されるほどに深刻なものらしく、それはそれで気分が悪くなる。

 しかし、「よろしければ」とは言いつつも、恐らく断れない類の依頼なので、大人しく話を聞くことにする。

 普段の自由が保障されているのは、こういう有事の際には強制で駆り出されるからだ。……直前に休めてよかった。



 ここを通るのは二回目だなどと懐かしみながら大会議室までの広めの廊下を歩いていると、ナツキが俺の横に並ぶ。


「何があったんだろうね」

「さあ。でも大会議室なら俺達だけじゃないはずだから、本当にヤバいやつなんだろうな」


 大会議室は、討伐隊を結成する時くらいにしか使われないらしい。ということは、つまりはそういうことになるだろう。


 気が進まない中、見えた大きな扉を押し開けると、奥側に発言者用の大きな机、手前側にたくさんの椅子と机が並べて置かれた空間が広がっている。

 そこには……まだ誰もいなかった。


「張り切って早く来すぎちゃったな」

「皆朝弱いですからね……」

「う―ん……こんなことならもう少し寝ておけば良かったなぁ」

「確かに……ふわぁ……」


 冒険者の殆どは夜中まで酒を飲むので、その分起きてくるのが遅いのだ。……酒なんて飲んでいないはずのナツキ達が欠伸をしているのは知らないが。

 それを見越しているのか、副ギルドマスターもまだやってくる様子はない。


 先程の「よろしければ」は始まるにはまだ早いけど、という意味合いだったことに今更気付くが、ここまで来てまた外に出るのも面倒なので、適当に時間を潰すことを選んだ。



 時間が出来たので、このタイミングで俺は気になっていたことを聞いてみる。


「ナツキのその剣、滅茶苦茶かっこいいよな」

「……でしょ、これ凄いんだよ」


 欠伸をまき散らしていたナツキが急に元気になり、得意げに剣の詳細を教えてくれる。


 ワイバーンを倒したことで、プライドの高いドワーフ族に認められ、オーダーメイドで高品質の剣を打ってもらえたらしい。

 鈍く光る黒い刀身は重厚感たっぷりだが、持ち上げてみると案外軽い。それでいて切れ味は折り紙付きという、かなりの性能を持っている。

 こんな上等品を貰えるとは、ナツキは相当気に入られたんだろうな。


 因みに武器を貰ったのはミーナもらしく、同じように嬉しそうに語ってくれた。

 元々素早い打撃がメインだったミーナだが、短い刃を仕込んだ小手を完全オーダーメイドで作ってもらい、斬撃も出来るようになっていた。

 どんな要望も形に出来るのは、ドワーフという器用な種族の成せる技か。



 そうやって随分と楽しそうに話すナツキの様子を見てなんとも言えない気持ちになっていたところに、見るからに強そうな冒険者達が数組入ってきた。

 その中には見た事のある面々も並んでいて、俺に気付くと少し驚いた顔をされた。


「お前、あの時の……生きていたんだな」

「……まあ、なんとか」


 向こうも俺のことを覚えていたようで、俺の返答に軽くうなずいた後、近くの椅子に腰を下ろした。


 そして最後に姿を現したのは、ギルドマスターのダグラス……によく似た、額に傷のない大男。


「よく集まってくれた。副ギルドマスターのハンネスだ。いきなり本題に入るが、ギルドマスター会議に出席した兄ダグラスから昨日早馬が到着し、その内容を聞いて今回の特殊依頼を出すこととなった」


 ハンネスがダグラスの弟というのはさておき、ギルマス会議起因で出された依頼だということに俺達含め冒険者達がざわつく。


「刀剣王国領土付近に巨大な森……ロレス森林地帯があるんだが、そのすぐ傍にある集落が魔物によって乗っ取られた」

「……ん?乗っ取られた、だと?どういうことだハンネスさん」


 内容の異様さにいち早く気づいたのは、先程俺と軽く会話をした、鋭い目つきの大男。以前フォレストドラゴンの鎮圧に来ていた冒険者の一人だ。

 他の冒険者も確かにと眉を顰め、ハンネスに視線を集中させる。


「そこを今から説明する。森の中で争い跡が見つかった、というのが数か月前で、その時点では魔物同士の縄張り争いと考えられていたようだが……そんな単純な話ではなかったようだ。一月前には既に魔物達が占拠していたらしい」


 魔物が人を襲うのは周知の事実だが、集落を襲った後そこに滞在するなんて、そんなの聞いたこともない。

 密かに驚いていると、他の冒険者も驚きを隠せておらず、目を見開いていた。本当に、事例が少ないようだ。



 ……そういえば、大分前に神様が魔物の氾濫が起きると言っていたはずだが、もしかしてこれのことなんだろうか……?


「魔物に集落を乗っ取るなどという知能はない。他種の魔物同士で共存することも滅多にない。明らかに異常事態だ」

「……知能のある何かが魔物達を統率している、ということか?」


 導き出される答えをこの場の誰かが聞くと、ハンネスは深刻そうな顔で頷いた。


「そういうことだ。ギルドの見立てでは……悪魔の出現ではないかと考えている」

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