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076 事態が深刻

第六章 開始です。よろしくお願いします。

「例の件、何か分かったことは?」


 静かな会議室の中で響いたのは、金髪の男の声。



 数か月前、刀剣王国の遥か遠方、どの国の領土でもない巨大な森の中で、不自然な争い跡が発見された。木は押し倒され、魔物の血が辺りに激しく飛び散っていたが、素材はそのまま放置されていたという。

 その森の付近に、冒険者が集まって作られた小さな集落が存在しており、そこに滞在していた冒険者が違和感を感じて、刀剣王国に報告に来た、という流れだ。

 冒険者ギルドは、何処か不審に思いつつも、素材が回収されていないことから、単純に魔物の縄張り争いとみて調査を進めていた。


 ……のだが。


「私が発つ直前に、派遣していた金級冒険者が帰ってきたのだが、満身創痍でな。話を聞けば……集落は占拠され、魔物が闊歩していたらしい」

「なっ……そんなことが……」

「……やばいな」

「それはまずいのう……」


 銀髪の女の報告に、金髪の男だけでなく、茶髪の男と白髪の老人も驚きを隠せなかった。


「……あの付近の魔物は強いが、その分集落に滞在する冒険者も手練ればかりだった。それが敗走、あるいは全滅したとなると……」

「……流石に対処を優先させた方がいいんじゃないか?国に入られてしまうと、被害が甚大なものになりかねないだろ」


 最も戦力が集まっているとも言える集落が簡単に乗っ取られるとなると、一般人の多い街にでも到達されれば、為す術なく蹂躙されてしまうだろう。冒険者ギルドとして、それは阻止しなければならない。


「……ふむ、災厄の再来やもしれんな。もしそうだとすると一刻を争う事態じゃぞ」

「……なるほど、あり得るな……よし、ならば至急手の空いている白金級と金級に声をかけ、討伐隊を結成しよう。規模が大きい以上、参加は半ば強制だ」

「了解した。各国のギルドへの伝達はウチの早馬に任せてくれ」

「それはありがたい。……そうだな、あの二人には暴れてもらうとしよう。今ならまだ商業王国にいるはずだ」

「ほう、それならば彼等にも声をかけてくれ。……未来への投資のつもりじゃったが、存外早く活躍の場ができたのう」


 金髪の男の決定に、女と老人はそれぞれ気にかけている若者に期待を寄せていた。



ーーーーー



 ナツキ達と再開してから、数日。ギルドマスター達が神聖王国に出発した後、俺は以前にも増して忙しい日々を送っていた。


 ギルドマスターのヘクターが俺の睡眠魔法に興味を持っていて、その内宿に来る、というのは分かっていたのだが……まさかの他のギルドマスターのダグラスとトモエも連れて来たのだ。

 そしてその全員に魔法を絶賛され、ギルドで触れ回られたことで、客が増えてしまったのだ。銀級冒険者よりも当然ネームバリューのあるギルマス達がオススメなんてすれば、そりゃ増えるに決まっている。


 ただ、この黄昏亭も大きくはないので、部屋数という限度はあった

。だから、一月程で大分仕事に慣れてきた俺は、連日満員でもなんとか耐えられるようになった。



 と、それだけならまだよかったのだが……

 魔法の内容が広まり、なんと指名依頼が来るようになってしまったのだ。

 しかも俺への依頼だけあって、癖のあるものばかり。新人研修に同行して新人冒険者に魔物に慣れてもらう為の補助を冒険者ギルドが依頼してきたり、頭のおかしい貴族からの魔物捕獲依頼だったり。

 そんな慣れない特殊な指名依頼のせいで、疲れは溜まる一方。俺の求める楽な生活は一層遠のいていった。




 ある夜、俺はずっと意識が覚醒したまま、宿のベッドに寝ころんでいた。


 身体が疲れすぎることは、俺にとっては何より忌々しい感覚だった。

 大体の人は、疲れたらよく眠れると思うのだが、俺の場合は頭が冴えてしまい、睡眠からは遠ざかる。意識外でもっと頑張ろうとして、アドレナリンが出る、とかそういった感じだろうか。


 ただ、殆ど眠れずに朝を迎えても、普通に一日活動出来るくらいの体力は回復している。言わばショートスリーパーのようなもので、そういう意味では他人からはメリットと取れるかもしれない。


 しかし、俺が望んでいるものはそんなものではない為、それは絶対にメリットにはなり得ない。


 俺は、何の不自由もなく気持ちよく眠ることが出来る生活を求めて、この世界に来ることを選んだ。そこに誰かの役に立とうなんていう正義感はない。

 今でこそなんだかんだどこかで人の役に立っていたりするが、それは自分が生きていくために必要だったからだ。


 ただ、思った通りにならなかったとはいえ、用意された命を捨てるなんて愚かにも程がある。

 身体の持ち主のレーブの為にも傍にいてくれるセレノの為にも、俺に良くしてくれる人達の為にも、俺は簡単に死ぬ訳にはいかないのだ。



 そこまで思って、俺は横目でセレノの方を窺う。静かに寝息を立て、起きる気配のない綺麗な寝顔に、俺は少し複雑な気持ちになる。


 少し前までは、寝る前にセレノと触れ合うことで疲れを癒していたのだが、最近は俺が宿の仕事を終えて戻った時には既に寝てしまっていた。


 まあ、その理由は察せる。

 セレノはギルドマスターのヘクターから混合魔法の技術を教わっていたのだが、コツを掴む前にヘクター達が神聖王国に出発してしまったのだ。

 後は自分で何とかしろ、とヘクターらしいことを言い残されたようで、セレノは日々なんとかものにしようと頑張っている。


 それも、俺の指名依頼について来て、宿の手伝いもした上で、だ。明らかに働き過ぎている。それで疲れないはずがない。


 俺の勝手な要望としては、適度に休んでもらって、あわよくば俺を癒してほしいものだが……本人が使命感を持って真面目に取り組んでいる以上、やめてくれとは言い難かった。

 指名依頼も俺一人で十分だと言ってはいるものの、勉強になると言って引き下がろうとしない。今更得られるものなんてない気がするが、知識に貪欲な姿勢は本当に尊敬できるから、強く否定もできないのだ。


 それでも、頑張るにしても倒れない程度にしてほしいなと願いながら、俺は軽く目を閉じた。




「……なんだか頭が重いです」


 そして、セレノがそんなことを訴えてきたのは、その朝のこと。……俺が余計なことを考えてしまったせいなのかもしれない。

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