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075 再会に歓喜

 ギルドマスターと金級の冒険者の関係性には思えない状況に軽く首を傾げながらも、俺達は部屋を出てギルドのロビーに向かう。

 すると、入口の方で何やら人だかりができていた。


「ふむ、やつも到着したかの」

「やつ?」

「うむ。近くまで行けば分かるぞい」


 ヘクターは既に全てを理解しているようだ。やつ"も到着した"、か。……誰なのか、なんとなく察した。


 言われた通りロビーの方に歩いていくと、人の間からとても目立つ女性の姿が見えた。長い銀髪を後ろで束ねた高身長のその女性は、腰に幾つもの剣を携えている。


「……刀剣王国のギルドマスターかな?」

「お、よく分かったのう」

「いや、さすがに分かりますよ」


 ただの冒険者とは比べられないレベルで、オーラが滲み出している。その佇まいだけで、強者であることが窺える。

 そんな刀剣王国のギルドマスターが、何故ここにいるのか。それはヘクターと同じ理由だろう。神聖王国で行われるギルドマスター会議に参加する為に、一旦この国に来たのだ。ここで少し休憩して、それからヘクターやダグラスと共に神聖王国に向かうのだろうな。


 刀剣王国のギルドマスターだけはまだ面識がないので、話してみたいという気持ちはあるが……人が多くて近寄れない。これだけいれば話しかけてもスルーされるだろうから、無理に話すのはやめた方がいいな。



 そう思って目を逸らすと……その後ろに、黒髪の男と、橙色の髪の猫耳の女性が立っているのがちらりと見えた。……あれって、もしかして。


 俺はセレノを連れ立ってすぐに人だかりを回り込み、その二人に近づいて、忘れることのないその名前を呼んだ。


「ナツキ?ミーナ?」

「ん?……あっレーブ!それとセレノさんだ!」

「ああー!久しぶりー!」

「!お久しぶりです!」


 ちゃんと反応が返ってきたことで自然と笑みが零れた。数年ぶりの再会に、俺達は一瞬状況を忘れて喜び合う。


「どうした、ナツキ、ミーナ。知り合いか?」

「知り合いでもいたかの?」


 そこにギルドマスター二人も近づき……お互いの存在を認識し合う。


「おお、ヘクター殿。お早い到着のようで」

「昨日着いたばかりじゃ。老人は早めの行動をせんと間に合わんからのう」

「またそんなことを。自虐は大概にしていただきたいものだ」

「ふぉふぉ、これは冗談じゃよ、トモエ」


 二人が話しているのに気づいてひやりとしたが、二人とも軽い笑みを浮かべていて、仲が悪い訳ではなさそうだったので安心した。……相手がもしクリストだったらどんな空気になっていたのか。あまり想像はしたくない。


「ところで、そこの二人は?」

「む?ああ、依頼の関係で知り合ってのう、今日ここで再開したから話をしていたのじゃ。……そちらも、見ない顔があるが?」

「この二人か?そうだな、入りはそちらの関係と同じだ。神聖王国に行く用事があると言うと途中までついてくると言われたから、拒む理由もなく同行した」


 お互い近くにいることを許されている者について探り始めたので、思わぬ機会を逃さない為に俺は先手を取って挨拶をしてみる。


「初めまして、金級冒険者のレーブです。ナツキ、ミーナとは数年前にパーティを組んでいました」

「ほう、そうだったのか。……ああ、私は刀剣王国ギルドマスター、トモエだ。依頼でヘクター殿と関わる機会があるということは……今後私とも関わる可能性がある。その時はよろしく頼む」

「はい、よろしくお願いします」


 躊躇いもなく握手を求められたので、流れに沿って俺も手を出す。高潔なオーラを漂わせてはいるが、話してみると何の棘も無い、優しい人だった。やはりギルドマスターに選ばれるような人は、軒並み人格者なのだろうな。



 ナツキも同じようにヘクターとの挨拶を終えたところで、俺はナツキ達と共にギルドを出た。俺達のギルドマスターに認められている冒険者、というところに好奇の目が向けられて、居心地がとんでもなく悪くなったからだ。

 ちなみに、ヘクターは今日は宿に行くのをやめておくと言っていた。折角ギルマスが集まったのだから、先に話すこともあるだろう。俺としてもナツキ達ともっと話をしたかったから、そうなるのはありがたかった。




「おっ、ナツキじゃねぇか!」

「あっミーナちゃんだ!久しぶりー!」

「「覚えてくれてたんだ……」」


 この親子の温かさを宿に入るなり感じた二人は、呟きと共に照れくさそうに笑った。そこまでの動作がシンクロしていたのに俺は吹き出しそうになったが、ここは何とか堪えておく。


 そしてまたロベールが「今日は貸し切りだ!」と言って店を閉めだしたので、勝手だなぁと思いつつも俺は流れるように準備を手伝った。


「本当にここに住んでいるみたいだね」

「まあな。住んでいるみたいなもんだし、ここで働いてもいるからな」

「え、そうなの?」

「うん。ほら、俺には睡眠魔法があるだろ?」

「……あー、なるほど……それはいいね」


 早い段階で俺の魔法の虜になっていたナツキは直ぐに察することができたようで、随分と良い笑みを浮かべていた。


「またお願いしてもいいかな?あれがあるのとないのとでは睡眠の質が全然違うんだよね」

「えーと、追加料金をいただきますが……」

「ええー、そこをなんとかぁ」

「はは、冗談だよ冗談」


 こういう風に話せる相手はいなかったので、つい調子に乗ってしまったが……ナツキは楽しそうに笑ってくれた。




「へぇ、ワイバーンを倒したのか……流石だな」

「まあ、金級の人達の協力があったから上手くいっただけなんだけどね」

「それでもすごいだろ」


 美味い飯をつまみながら、俺達は別かれた後の話に花を咲かせていた。竜族の末席とはいえ金級適性という強敵を、別れてすぐの早い段階で倒したと聞いて、俺はナツキのあまりのハイスペックさに驚くしかなかった。今はまだ金級のようだが、すぐにでも白金級になりそうな勢いだ。


「そっちも金級なんでしょ?なんか倒したんじゃないの?」

「ん?ああ、まあ……別れる前に依頼受けてただろ?守り神を眠らせてくれーっていうやつ。……あれ、フォレストドラゴンだったんだよ」

「……へ?フォレストドラゴン!?そんなの眠らせたの?」

「うん……まあ接待みたいなもんだったけどな。最後いいところを持っていっただけだから」

「いやそれでもおかしいでしょ……」


「……お前ら、そういう流れでしか話できないのかよ」


 俺達の会話に、そうツッコミを入れたロベール。俺とナツキは真実を話しているだけなのだが、ロベールは気に入らないらしい。心底呆れた顔で、酒を口に運んでいる。


「俺からすればどっちもすごい。協力があったとしても、自分達のものにしたのなら、それはお前らの実力だろ」

「「まあ、そうかもしれないけど……」」

「……もういい。そこがお前らのいいところでもあるからな。……それはそうとして」


 急に話を切り上げて隣に座っているエミリーに視線を向けるロベール。宿屋親子のニヤニヤした顔が妙に気持ち悪くて、俺は密かに寒気を覚えた。



「ねーねー、お二人さんの関係はどうなったの?」

「ぶふっ」


 エミリーの好奇心を隠そうともしていないその言葉に、水を飲んでいたナツキが噴き出す。その隣で静かに話を聞いていたミーナは、恥ずかしそうに俯いている。


「なんで急にそんなこと……」

「そうだな、それは俺も気になってた」

「え、レーブまで……うん、まあ……一応、付き合ってるよ」

「おおー!やったじゃん、ミーナちゃん!」

「おめでとう、ミーナ」

「……えへへ……うん!」


 やっぱりな。今日会った時から二人の雰囲気が良かったから、上手くいったんだろうと思っていたが、それを俺から聞くのもどうかと思って、敢えて言わなかった。

 エミリーは照れくさそうに笑っているミーナを良く出来ましたという風に撫で回し、セレノもニコニコと笑ってミーナを見つめている。その様子を見て、ナツキが一人困惑していた。


「え?どういうこと?」

「ミーナの恋心に気付いていなかったの、多分お前だけだぞ」

「え!?ということは……そんなに前からだったの?」


 本当に気付いていなくてあからさまに驚くナツキに、俺は笑ってこう返す。


「お前鈍感だからなぁ」

「うっ僕鈍感なのか……そっちはどうなんだよ」

「ん、俺とセレノか?一応結婚してる」

「え!?結婚!?……すごいな……」


 恐らくやり返しのつもりで聞いてきたんだろうが、それを見越していた俺が当たり前のように返すと、ナツキは面食らって硬直した後、椅子に深く凭れてそう呟いた。


「……で、初めて付き合った感想は?」

「……そうだね、結構楽しいかな。……ミーナだから良かった、っていうのはあるかも」

「はは、惚気やがって」

「ち、違う!ミーナも一緒に戦うから、話が合いやすいというか」

「はいはい、分かった分かった」

「絶対分かってない!」


 必死こいて弁明する姿に、俺と横で聞いていたロベールが大笑いしたところで、ナツキは不貞腐れて黙り込んでしまった。それも面白くて笑っていると、ついにナツキも諦めて笑い出した。


 あー、楽しい。誰かと笑い合うのって、こんなにも楽しいんだな。

 本当に、この世界に来ることができて良かったと思う。前世なら、こんなに笑い合えることなんてもうなかったかもしれないからな。



 そんなことをしみじみと思って、俺は談笑を続けた。笑顔に溢れたこの空間を、手放さない為に。

第五章終了です。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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