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070 選定に確信

「雰囲気変わりましたね」

「そうだな」

「……この辺に欲しいものが?」

「うん」


 商業区の奥の方へとやって来た俺達。この辺りは少々お高いものを取り扱う店が並んでおり、それに比例して通りは綺麗に、歩いている人々も少し上品になった。

 俺が買いたいと思ったものは、この辺りで探すといいはずだ。


「……どれも高そうですね……」


 そう呟きながら辺りや自分の格好を頻りに気にするセレノ。商業区入り口近くの雑多な感覚に慣れてしまったセレノには、こういうレベルの高い区画は緊張するものがあるらしい。

 俺からすれば、今でこそ冒険者らしい服装で目立っていないものの、ちゃんと着飾れば貴族の令嬢くらいに見えるセレノが緊張しているのは違和感がある。


「大丈夫、セレノは浮いてないよ」

「え……そうですかね……」


 俺がそう言うと、納得はしていないようだが、周りを気にするのを止めた。……その代わり、俺の手を握る力が少しだけ強くなった。


「……レーブくん」

「……ん?どうかした?」

「あの店、寄ってもいいですか」


 セレノが今日初めて寄りたいと指を差した店。そこは綺麗な雑貨を取り扱っているところで、店頭にはお洒落な皿やカップが並んでいた。


「もちろん。見てみよう」


 使ってみたいのだろうか?でも、セレノはこういうのに興味なかったよな……まあなんにせよ今こうして興味を示しているんだから、自由に見てもらえばいい。



 店の中に入ると、当然店頭のものと同じような皿やカップ、グラスが並んでいた。しかしあくまでも同じような見た目で、どれも形状や色が違う。案外選びがいがありそうだな。


「どれも綺麗ですね」

「そうだな……自分で使うの?」

「え?いや……エミリーに贈ろうかなと」

「ああ、なるほど」


 お世話になっている友達にプレゼント、か。そういうところにちゃんと気が回るんだよな、セレノは。俺はそんなこと完全に忘れていた。


 そこそこ悩んだ挙句、セレノは無難にエミリーの髪色に合わせた色をあしらった、半透明のカップを選んだので、俺もロベールの髪色に合わせたお揃いのカップを購入し、店を出る。


「ちょっと高かったですが……プレゼントだと罪悪感がなくていいですね」

「罪悪感って……」


 セレノってそんなにケチだったか……?いや、俺がケチなのが移ってしまったのかもしれない。普段金を使っているのは俺だから、価値観とかが移ったのだろう。まあ俺としては浪費家よりはケチな方がいいから、何も問題はないんだけど。

 しかし俺は使う時は使うし、罪悪感なんて感じたことない。セレノがそう思うのは、自分自身に金を投資する程の価値がないとかどうとか思ってるからだろうか。

 そうだとすると、これから俺が買おうと思っているものに良い反応をするかどうかちょっと怪しいが……俺が買いたいんだから、文句は言わせない。



 通りをさらに奥に進み、商品が高級素材の服や物になってきたところで、俺は足を止めた。


「この辺かな」

「この辺……?本当に……?」


 俺が何を買うのか未だ分かっていないセレノは、並んでいる高級そうな商品を見て動揺を隠しきれていない。


「何を買うんですか……?お金は足りるんですか……」

「そんなに心配しなくても……ちゃんと買えるのを買うから。それに明日から手伝いが始まるし、金には困らないよ」

「うう、そうですが……」


 なにをそんなに怯えているのか分からないが、セレノは俺の手をぎゅっと握ったまま、少し震えている。意地悪するつもりはないが、


「俺の買い物なんだから。ほらいくよ」

「私もいくんですか?」

「むしろセレノはいてくれないと困る」

「えぇ……」


 俺は強引に引っ張っていく。これがこの世界での一番の買い物になるだろうからな。買うと決めたものだから、失敗だけはしたくない。


「よし、あの店だ。入ろう」

「え!?なんであんな……」


 遂に目的の店を見つけて、俺は一直線に歩く。どれだけ高くても、どれだけ俺がケチでも、金を出せる自信がある。


 何よりそれは……セレノの為だから。




「いらっしゃいませ」


 店構えからして冒険者を相手にしていなさそうな店で、整った装いの店員に出迎えられビビッて会釈を返してしまったが、気を強く持って中に足を踏み入れる。


「本日はどのような品をお探しで?」


 おっと、こういうタイプの店だったか……しっかり店員さんと会話しながら決めるタイプの店は怖くて入ったことないからな……ただこっちの方が相談できるから、それはそれでありか。というか、そういう事なんだろうな。


「彼女に贈るものを探していて」

「そうですか……失礼ですが、ご関係は?」

「妻です」

「なるほど、それはそれは……それでしたら、上等なものがございますよ。どうぞこちらへ」


「……え?私?」


 すっかり縮こまって震えていたセレノだが、俺の妻という言葉を聞いて、少し遅れて震えが止まった。

 店員が先を行き、俺が歩き出してもまだいまいち理解が及んでいないセレノ。それでも、俺の手は握りしめたままだ。


「奥様に贈る品でしたら、この辺りになるかと」

「ありがとうございます。……綺麗だなぁ」


 あるショーケースの前に案内され、当然俺はその中の商品を見る。

 そこには……色とりどりのジュエリー。俺が探していたのは、セレノに贈る結婚指輪だ。こんな経験ないので完全に失念していたが、思い出せてよかったな。

 セレノはいらないというかもしれないが……これくらいは贈らせてほしい。


「レーブ、くん……?なんでこんな……」

「結婚したんだから、こういうものを買うのは当然だろ?」

「え、あ……そう、ですか……」


 セレノはそう言って……動かなくなった。あれ……思考停止したか?折角ならセレノに選んでほしかったのだが、こうなってしまうと俺が選ぶしかないな。ここまで入って来たのに、何も買わずに帰るなんてこと、俺にはできない。


 視線をセレノからショーケースに戻し、並んでいる商品を再度眺める。……よく見ると、指輪タイプのジュエリーは少ないように思う。


「あの、指輪って人気ないんですか?」

「指輪、ですか。そうですね、アクセサリーとして一定の人気はありますが……結婚時の贈り物としては選ばれにくいかと」

「そうですか……」


 こんなところで、前世との違いを感じた。日本では結婚指輪と言うくらい当たり前なのだが、この世界ではそうでもないみたいだ。何故なのか。


「当店はお客様のような冒険者の方もよくいらっしゃいますが……指先だとそういう事情で紛失しやすく、魔法にも影響が出る場合がある為、こちらのネックレスタイプのものの方が人気があります」

「……なるほど」


 冒険者という職業ならではの理由で、すごく納得した。そういうことなら、別にこだわりがある訳でもない指輪を選ぶこともない。


 という訳で、俺は種類の多いネックレスタイプのものを一つ一つ見ていく。宝石の色や大きさ形、チェーン部分の装飾など、本当に様々なものがあった。どんな人にも気に入るものを見つけてもらえるように、というところもあるだろう。

 そんなことを想いながら眺めていると……俺はある一つのネックレスから目が離せなくなった。


 見た目は、そんなに派手ではない。これといって凝った装飾はないし、色も目立つものではない。が、俺にとっては印象的だった。何故ならこの色は。


「……セレノの目にそっくりだ……」


 露草色の宝石。見る角度を変えると、光の加減で色が変わり、別の輝きを見せる。元々石に興味がない俺だが、ちゃんと買おうとするとここまで魅力的に映るものなのか。


 ここで一旦セレノに視線を戻す。相変わらず何も考えられていなさそうだが、俺が見つめているのには気づいて、視線を合わせてくる。……意見を求めたつもりだったが、セレノの綺麗な目がよく見えて、俺の意思は固まった。これしかないと思った。


「これください」

「ありがとうございます」


 その一言で、ショーケースを挟んで奥に待機していた店員が動き始めた。露草色の宝石のついたネックレスは、可愛らしいかつ丈夫そうな箱に入れられ、それを厚めの紙袋に入れる。たったそれだけのことだが、この世界にしてはちゃんとしているなと思った。



 大きな支払いを終え、軽い見送りまで受けて、俺達は店を出た。空は既に黄昏色に染まり、道行く人の顔は見え辛くなっている。


「セレノ。それ、大事にしてね」

「……はい」


 なんともか細い声が返ってくる。横目で様子を見ると、本当に大事そうに紙袋を抱きかかえているのが見えた。表情は……残念ながら暗くて見えない。


「……帰るか」

「……はい」


 ……同じ反応。喜んでくれているか少し不安になる。急にこんな高いものを持たされて、困っているんだろうか。俺は早い内にと思ったが、セレノにはまだ早かったのか。

 そんな風に思っていると、セレノは突然俺の腕に手を回してきた。そのまま体が密着し、ほんのりと温かさを感じる。


「……どうした?」

「……暗くて危ないので、くっついていてもいいですか」

「……どうぞ」



 ……暗くて危ないから。それにしては、腕を組む力が強いように思うが……


 早くなる鼓動を感じながら、俺はセレノと共にゆっくりと歩みを進めた。

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