007 基本の知識
外が明るくなり始めた頃、俺は体を起こした。……結局、俺は満足に寝られなかった。
前世と何ら変わりない感覚だ。全然寝足りない、けれど、眠たいわけではない、でも、なんだか体が怠い、この感じ。身体が変わったからといって、不眠症は無くなるわけではないのか。本当に嫌になる。
というか、寝るためにもらった魔法が、俺自身に全く効果がない。セレノに効くのに、なぜ俺には効かないんだろうか。……もしかして、魔法の特性とかがあるのか?俺の知っているゲームだと、こういう妨害系の魔法は、使用者本人に対しては発動できなかった。それが事実だとすると、俺の寝たいという一番の望みを叶えられない。神様はどういうつもりで俺にこの魔法を与えたんだ。嫌がらせか?
溜息をついたところで、ふとセレノに目を向ける。セレノは、まだぐっすりと眠っている。くそ、これが女の子じゃなかったら、意地でも叩き起こしてやるのに。って、自分で寝かしたくせに何を言ってるんだか。
一人でそんなことを考えていると、セレノがぱっと目を開き、起き上がった。……そして、頬には一筋の涙が。
「……え、どうしたの?」
「……ああ、いえ、大丈夫です。それより、おはようございます」
「……おはよう」
大丈夫な訳ないと思うが。でも変に追及もできないし、そっとしておこう。
「魔法を受けた後、急に眠気が襲ってきて、気づいたら朝でした。すごい効果ですね。……いい夢も見られたし」
「いい夢?」
ぼそっと言ったその言葉を俺は聞き逃さなかった。やっぱり、俺の魔法は夢を見せる効果があるのだろう。そして、涙を流すほどということは、つまり……
「……はい、レーブ兄が、夢に出てきたので」
「なるほど」
やはりか。この魔法によって眠った者は、いずれも安らかに眠っている。そして、本人はいい夢を見られたと言っている。セレノがレーブの夢を見るのは、正しくいい夢と言っていいだろう。
ということは、この魔法には、幸せな夢を見せるという効果があるのだ。すごくいい効果だな。俺も受けてみたい。でも、無理みたいだ。残念なことに。
「今日の予定ですが、とりあえず身の回りのことを知りたいという事でしたよね」
「まあそうだね」
「……なら、まずはレーブ兄のことについて話してもいいですか」
「いいけど、大丈夫?」
「はい、さっき見た夢のおかげで、レーブ兄の説明がうまく出来そうなので」
そう言って、セレノはレーブのことを話し始めた。
レーブは、他人を第一に考える性格だったらしい。俺も他人に嫌われたくない一心で、自分より他人を優先してたから、割と似ているところがあるのかもしれない。だから、レーブが選ばれたのだろうか。
あとセレノは、その性格のおかげで救われたことがあると言った。詳細は教えてくれなかったが、そこにレーブを強く慕う理由があるのだろう。
性格がそんなに変わらないから、セレノは俺のことを単に記憶を失くしたレーブだと思い続けるんだろうか。騙すつもりはないが、いつ言うべきなんだろうな……今言って、怖がられても困るんだよな。
「話してたら、お腹空いてきました。朝ご飯食べませんか」
「そうだね。そろそろ出ようか」
俺は周りに記憶喪失の人がいた事はないので、ここまで会話のやり取りができるのかは分からない。が、セレノは今のところ不審には思っていない様子なので、とりあえず今は気にしないようにしよう。
俺達は部屋を出てて、冒険者ギルドに併設されている酒場兼食堂で、朝食をとることにした。職員は忙しそうにしているが、俺達を見ても苦な表情は見せなかった。さすがはプロといったところか。
「私はサンドイッチにしますが、レーブ兄はどうしますか」
メニュー表のサンドイッチらしき箇所を指さし、俺にどうするか聞いてくる。
「……同じにしようかな」
何があるのか分からないので、とりあえずセレノと同じものにしておく。この時点で、なにが食いたいとかはない。
すぐに出されたサンドイッチを速攻で完食し、セレノを待つ。そういえば、なんでレーブが洞窟にいたのか聞いていなかった。
「一つ疑問に思ったことがあるんだけど、聞いてもいい?」
「?どうぞ」
「俺は起きたら洞窟にいて、セレノちゃんが救助依頼を出してたみたいだけど、どうしてそうなったんだ?」
「……それは、私のせいです。今すぐ説明したいですが、分からないことが多いと思うので、まずはこの国のことから説明からします」
「ああ、お願いする」
セレノのせいとのことだったが、確かに分からないことだらけなので、予定していた説明を受けることにした。
センブル王国。この世界の中心に当たる位置にあり、ここ王都にほかのほぼすべての国の特産や商品が集まり、毎日膨大な数の取引がされていることから、商業王国とも呼ばれるらしい。そのため、いつでも行商人や他国の商品目当ての観光客で溢れかえっているとのこと。それだけ様々な国からたくさんの人が集まってくるため、あまり治安は良くないのだとか。
この国の他には、魔法王国、刀剣王国、神聖王国、さらにはエルフの森、ドワーフの里などが点在しているとのこと。なんとも夢が広がる話だ。
次は、冒険者ギルドについてだ。冒険者ギルドは、この世界に展開している巨大な組織で、国ごとに管轄を持って冒険者達を統率している。活動内容としては、街の外での魔物の討伐や商人の護衛に始まり、街中での肉体労働など、様々な依頼を扱っており、それを冒険者達に達成してもらうことで、報酬を与えるというものだ。
レーブも冒険者カードを持っていた為、すでに登録は終わっているのだろう。ランクのことについて聞くと、依頼をこなすことで、次のようにランクが上がっていくとのこと。
石<銅<銀<金<白金
レーブは石級なので、想定通り一番下のランクだった。セレノも同じタイミングで登録していたため、石級だった。ということは、ランクも上げていかないと金はなかなか稼げなさそうだな。ちなみに、アドニス一行は銀級らしい。
最後に魔法について気になったので、そこも聞いておく。この世界での魔法は、攻撃魔法、支援魔法の二種に分かれている。攻撃魔法はその名の通り、魔物相手にダメージを負わせるための魔法。属性という概念があり、炎属性の<炎球>のように小規模なものから、氷属性の<氷霜爆発>などという広範囲なものもあるという。その他には水、風、土属性が存在している。
支援魔法は、その中でも系統が三種類あり、強化魔法と、妨害魔法、治療魔法がある。俺の睡眠魔法は、恐らくこの妨害魔法に分類されるとのことで、身体的な機能に害を及ぼす魔法。強化魔法と治療魔法についてはそのままで、身体的な機能の強化、治療を行うことができる魔法だそうだ。
とりあえずの説明はこれで終わった。冒険者ギルドについては大体想像していた通りだったので、特に疑問はなかった。街については、治安が悪いということで、いい印象は受けなかった。だが、この世界のことを商品を通してある程度知れるので、割と都合は良いと思った。魔法については……あまりにもファンタジー感が強すぎて、いまいち呑み込めなかった。自分も一応使えるのにな。
基本的なことを理解できたところで、本題に入る。
「で、セレノちゃんのせい、というのは?」
その返答は、俺には少し理解しがたいものだった。
2021/05/14 追記
魔法、冒険者に関連する説明が足りていないと思いましたので、後書きにて追加します。
・魔法を持たない者も存在している。その者達は、基本的に農業や畜産業で生計を立てる者、魔法を必要としない店などで働く者に分かれる。
・取得する魔法は遺伝によって決まり、両親が取得している魔法から確率で遺伝する。何も遺伝しないこともある。
・「冒険者」という職業はあくまで選択肢の一つであり、魔法を使えるからといって必ずなるべきものではない。しかし、街の外に危険な魔物が生息するというこの世界では、魔物を倒すことで生計を立てるこの職業は優遇されている部分が多い。
・「冒険者」になるにあたり、取得している魔法の種類によってさらに推奨される役割が分かれている。攻撃魔法は魔法使い系統、支援魔法の強化魔法は戦士系統、妨害魔法は後方支援、治療魔法はヒーラーとなる。
魔法の分類も一部変更します。
・治療魔法を、支援魔法の中に統合




