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068 勝手に撃退

「よし、着いたな。降りよう」

「はい」


 センブルの首都に到着した瞬間、俺達は馬車を飛び降りる。他の低ランク冒険者に絡まれて仕方なかったから、早くここから抜け出したかった。


 高ランクだからって、積極的に関わろうとするのはどうなんだろうか。俺達はまだ良心的だからいいけど、他の自己中心的なタイプの冒険者だと、最悪夢を壊されるまであるんだよな。……同じように偉そうにしたいなら、それは俺の知ったことじゃないが。



 そんなことはさておき、とりあえずいつも通り例の宿に直行する……のは今回は一旦置いておいて、冒険者ギルドに先に顔を出しておくことにした。金級になると指名依頼も増えてくるようで、今どの国にいるのか、くらいの把握はさせてもらいたいらしい。魔法王国のヘクターさんの言葉だ。


 冒険者ギルドに着いて、俺の名前を出したらすぐにギルマスの部屋に通してくれた。中に入ると、何か書き物をしていたダグラスが、俺を見て一瞬停止し、立ち上がった。


「おお、レーブ君じゃないか。聞いてはいたが、本当よく無事だったな……」

「はは、まあなんとかなりましたね」

「……これでも心配してたんだぞ。俺は早い段階で君達のことを知っていたからな」


 近所のおじさんのようなことを言うダグラス。それは事実だし、世話にもなった。心配してもらえるのは、やはりありがたいことだ。


「はい……ご心配おかけしました。次からは気を付けます」

「おお、随分と素直だな……まあ、あんなドラゴンの相手をできるんだから、もう大丈夫とは思うがな」

「いや、もう無理なことはしません」


 約束したからな。もう、少しでもセレノを悲しませるようなことはしたくない。

 というか、俺は元々万全を期すタイプだ。今回は三年という期限があったから準備が足りなかっただけで、急ぐ必要もないのに無理することはない。だから、今後は身の丈に合わない依頼を受けなければ、ぶっ倒れることもないだろう。


「……そうか。うちのせがれもこう言ってくれればな……」


 ……せがれ。……たしか、結局のところ口だけの大したことないやつか。急に決闘を申し込んできて、試合に負けた後に殴ってくる反則野郎……あれから会ってないな。名前は……やっぱり思い出せない。悲しいな。


「……息子さんは、今どんな感じですか?」

「ん?……ああいや、そんなことはどうでもいい。……とにかく、君が生きていてよかった。その魔法で、今後も活躍してくれよ」

「……?はい」


 なんかすごい勢いで誤魔化された。またなんかやらかしているのだろうか。……まあ俺には関係ないし、どうでもいい。



 これで用事は終わったので、今度こそ例の宿に向かう。


「おお、おかえり、レーブ、セレノちゃん」

「ただいま」

「またお世話になります」


 気付けばもうおかえりただいまの挨拶になっていた。気を遣わなくていいのはやっぱり楽でいいな。


「あっセレノ達だー!」

「わっエミリー!?」


 奥からエミリーが飛び出してきて、セレノに抱き着く。相変わらず元気で、微笑ましい。といっても、エミリーももう大人なんだけど。


 またしばらくは世話になるから、この親子にも何か用意しておくべきだな。思い返せば、ちゃんとした礼をできていなかった。



ーーーーー



 今回は他の泊りの冒険者もいた為、俺達は端の方の席で食事をとる。


「はーい、レッドボアの煮込み、おまちどー」

「おお、美味そう……ありがとう、エミリー」

「いえいえー、どうぞごゆっくりー」


「チッ……」


 いつもの掛け合いをしていると、他の席から舌打ちが聞こえてくる。……もしかして、嫉妬されているのか?ただ申し訳ないけど、あんたらよりは仲良い自信がある。

 ……それでも、あんまり気分はよくないな。この美味そうな料理を食って気を紛らわすか。


 レッドボア……肉に臭みのある、食材としては安価な魔物だ。だが、調理の方法によってはいくらでも美味しくいただくことが出来る、というのは、この世界に来てすぐに知ったことだ。そんな肉を煮込みにするというのは最適解と言える、と思う。

 肉に切れ込みを入れようとすると、フォークがすっと入り、白い湯気と共に、崩れる。どれだけ煮込んだんだと思わせる程に。刺そうとすると崩れるので、仕方なく掬って口へ運ぶ。


「……見た目以上に美味いな」

「全然臭みがない……美味しい」

「でしょー?自信作なんだー」


 あの時屋台で食べたレッドボアの串焼きも臭みはなく、十分美味かったのだが、この丁寧に調理されたことが窺える煮込みを見ると、あれは臭みを消したというよりは強引にかき消した、といったところか。

 あの自信満々だった店主には些か申し訳ないが、味の繊細さと深さで当然こっちに軍配が上がる。



 こうして俺達はレッドボアの煮込みに舌鼓を打っていたのだが、忙しそうに皿を運ぶエミリーは、この間も俺達との会話は忘れなかった。……うーん、なんか格差が出来てないか?一段と視線が……


「……おい、お前」


 エミリーが奥に戻ったタイミングで、後ろで椅子を引いた音と共に声が聞こえてきた。ほらー、やっぱりー……


「……俺か?」

「そうだ、お前だ。見ない顔だな、新人か?」

「……新人ではないかな」


 振り向くと、大して華のない若い男。他の席の男達も、此方を伺っている。……ろくでもないな。


「エミリーさんとはどういう関係なんだ?」

「それは、あんたらには関係ないよ」

「ふーん?こっちは毎日のようにこの宿に通っている常連客なんだが……」


 いや知らないし、聞いてない。……一応因んでおくと、俺達も毎日通っていた時期はあるし、ここの主人には娘のことで相談を受けたこともある。それも、あんたらが原因で。


「あんたらねぇ、」

「レーブ、これだけで腹一杯になるのか?お前達金級なんだから金持ってるだろ、もっと食っていけよ」


「……な……金級だと……」


 奥から出てきたロベールが金級と口にした瞬間、冒険者達は情けない声を出して怯んだ。……そして、気づくと席に戻っていた。結局はその程度か……そんなことより。


「おい、金級なのばらすなよ」

「いいじゃねぇか、実際そうなんだから。……抑制力になってくれよ」

「……しょうがないなぁ……」


 小声での会話の中、さらに小声でロベールはそう言った。……この親子の為なら、それくらいは良しとしようか。今までの礼と思えば、容易いことだ。



「しばらくはこの国にいるんだろ?」

「そうだな。……といっても、俺は特にやることないんだけどな」


 他の冒険者がはけていったタイミングで、ロベールはそう切り出した。

 他に予定もないので、当分はセレノの研究に付添うだけになる。……俺の為の研究だから少し言いにくいが、それだけだと俺は暇なので……適当に魔法の特訓でもしようかな、なんて考えている。だが、それもすぐに飽きそうなんだよな。できる事少ないし。


「ほう?つまり暇、と」

「うん……なんだよ」


 なんだその言い方は。……何か企みでもあるのか。


「レーブ……うちの手伝いやってくれよ」


「……は?手伝い?」

「そうだ。……なんだかんだ言って客は増えてるから、エミリーの負担が大きくなっててな……」


 手伝い。それはちょっと想定外だったが……たしかに来るのはエミリー目当てでも、客は客だからな。流石に二人だけでずっとはきついだろう。……だが。


「……別に俺じゃなくたって、募集すれば女の子でも主婦でも来るだろうに」


 なんで俺なんだ。男の俺を雇うより、見た目の良い女の子とか、料理ができる女性を増やした方がいいと思うんだが……


「……実は、募集をかけたことはある。だが、客が冒険者ばかりと聞くと集まらないんだ。それで男を雇うにしても、今度はエミリーが危ない。だから信用があるお前かセレノちゃんぐらいしかいないんだよ」

「はあ……」


 一般人からすれば、冒険者には野蛮なイメージがあるようだから、嫌と思う人は多い。そういうことなら、魔法を使える、例えば冒険者の女性を雇えば……って、仕事が既にあるから無理か。そう考えるとたしかに難しい問題だな……


「……それに」

「……それに?」



「……お前、睡眠魔法使えるだろ?それを商売にしてみないか」

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