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067 家族に土産

 しまった。やってしまった。俺は、なんということを……



 ……ロランやマルクには、偶には強引さも必要だ、と言われた。たしかに俺も、そうなのかと、勉強になったなと思ったが……実行するつもりはなかった。


 何故なら……セレノがそういうのに耐えられないからだ。軽くきわどいことをしたり言っただけで赤面、ある時は倒れたりもした。そういうことに慣れていないせいで、全く耐性がないのだ。


 実際、今回も倒れてしまった。俺が急に事を進めたから、許容できなくなってしまったのだ。分かっていたことなのに、俺は余裕を持ち続けることができなかった。……あれは、俺の理性を消し飛ばすには十分だった。


 俺は言われるまで気づいていなかった。セレノが俺のことをレーブ兄と呼ぶのは、至極当たり前のことだった。そう言われるのを嬉しくも思っていた。

 だが、結婚したのに"兄"はたしかにおかしい。それに気づいたセレノが、慣れないながらにくん付けに変えてみたのだろう。……レーブくん、か。改めて記憶の中から再生してみると……ああ、いい。こう、一気に距離が縮まった感じがして……って、なにニヤけてんだよ……くそ。


「……うぅん……はっ」


 必死にニヤけを抑えようとしていた時、セレノが跳ね起きた。窓から入ってくる朝の光を確認した後、傍の椅子に座る俺に視線を移す。……そして、外す。


「……おはよう、ございます」

「……おはようございます」

「……ごめん、なさい」


 先に挨拶をし、すぐに謝る。とにかく、俺は謝りたかった。ゆっくりでもいいと言ったのは俺の方だ。ペースを合わせてあげられなかったから……



「……ここに、座ってください」


 ……怒る訳でもなく、ベッドの端をポンポンと叩くセレノ。……何をされるんだろう。お仕置きでもされるのかな…… 

 恐怖に慄きながらも、俺はゆっくりと近づき、カクカクと指定された場所に座る。


「失礼します……」

「……こっちを向いてください」

「……はい……っ!?」


 言われた通りにセレノの方を向くと、目の前に真っ赤なセレノの顔があり……唇を奪われた。

 あまりに突然のことで、一瞬頭が真っ白になるが……目を閉じたセレノが、一所懸命に唇を動かしている。……なんなんだ、これは……


「っ……仕返しです、どうですか?」

「……どうって……」


 ……仕返し。……はい、とても興奮しました、なんて言えるか。顔が熱くなって、呼吸が荒くなってしまって……っておい、なんだよそのしてやったりな顔は。顔が真っ赤だから台無しだぞ。後、その顔が滅茶苦茶可愛いの、自覚してるか?


「どうなんですか?……っ!……ぅ……」


 ごめんセレノ、そんな顔されたら、俺はもう我慢できない。だけど、さすがにもう失敗はしない。今度は優しく、気遣いながら、ゆっくりとした口付けを返す。……それでも反省するつもりがまた調子に乗ってしまったと思ったが……なんとか、意識は保てているようだ。

 セレノは瞳を閉じて体の力を抜き、されるがままになっていた。こんな状態のセレノは見たことなくて心臓が止まりかけたが、気を確かに持って、セレノから離れる。


「……ごめん、我慢できなかった」

「……っ……もう……」


 あああ、だからその恥じらいの顔だめなんだって……



「セレノー、そろそろ起きないと間に合わないわよー」


「「あっ……」」


 二人してその場に固まる。


「……そろそろ、下に降りるか」

「……ですね」


 最後にキスと抱擁を交わして、俺はベッドから立ち上がった。

 エレーヌの声が正気に戻してくれたおかげで、なんとか流れを止めることができた。もう少しこの空間に浸っていたかった気持ちもあるが……まあ、これからはいつでも大丈夫だからな。もう、焦ることはない。



 一応、なんとなく、タイミングをずらして居間に向かうと、すぐに緑の髪の男と目が合った。


「おはようございます」

「……おはよう」


 俺等の方が先に休んだ?のに、当たり前のようにそこに座っているロラン。もう起きたのか……いや、よく見ると目が赤い。あのままずっと起きていたのか?


「……ロランったら、ずっとお酒を飲んでいたのよ。それほど嬉しかったのね」

「ああ……」


 エレーヌがこっそり教えてくれた。娘の結婚……親からしても、それは大きな行事の一つだ。前から約束はしていたが、ちゃんと事実として果たされれば、安心もするだろう。

 それに、俺が自分で言うのもなんだが相手は既に認めている男。娘がそいつと幸せそうにしているなら、嬉しくないはずがない。



 いつものように美味しい朝食をいただき、食後の紅茶もいただいた後。


「出る前に、一つお土産を置いていこうと思います」

「お土産?」

「はい」


 俺が鞄から出してきたのは、旅の途中で倒した、ファイアバードの羽根。銀級ではあるが、燃えるような美しい赤色と、高い保温性を兼ね備えた逸品だ。主に高級な外套や寝具の素材に使われるようだが、このままで十分綺麗だから、観賞用にもできると思う。

 これを選んだ理由は他にもある。前世の、ファイアバードから連想される架空の動物……フェニックスは、不死鳥とも呼ばれる為に不老長寿の象徴となっており、長生きしてもらいたいという俺からの願いも込めている。夜の間に色々考えた故の答えだ。


「おお、ファイアバードか……懐かしいな」

「懐かしい?」

「ああ……私が銀級に昇格するのに貢献してくれた魔物だ。それと、エレーヌとパーティを組んで初めに倒した魔物でもある」

「おお、それは……」


 なんともいいめぐり合わせだ。そういうことなら、尚更これを選んでよかったと思う。


「ありがとう。大事に飾っておくよ」

「お願いします」



 良い反応を貰えたところで、俺達は屋敷を後にし、最後にうちの両親の家に寄る。こっちにも、同じようにファイアバードの羽根を贈っておきたい。


「……おおレーブ、もう出発か」


 まだ寝ていたのか、髪がボサボサのまま出てきたマルク。起こしてしまったようだな。昨日の内に渡しておけばよかったのだが、悩んでいる途中だったからな……


「うん。またその内帰ってくるよ」

「そうか……大丈夫だとは分かってるけど、いつでも心配はしてるからな」

「……うん」


 自立しようが結婚しようが、子どもは子ども、という訳か。そう思ってもらえるだけで、子どもとしては感謝すべきだろう。


 ……前世はそういうことを感じたことはなかったが、実際はどうだったのだろうか。一人暮らしを始めるのに都会に出たから、あんまり会うことはなかったんだよな。

 ……そういえば、度々連絡が来ていたような覚えがある。寝ることに集中したかったから、面倒くさがって放置していたが……今考えれば、そういうことだったのか。ちゃんと出ておけばよかったな……もう今更だが。


「……どうした?」

「ああいや……忘れるところだった、これ、お土産」

「ん?……おお、綺麗だな……魔物か?」

「うん、俺達が倒した火の鳥の魔物だ。ちゃんと用意してなくて、手持ちから出しただけだけど……よかったら飾っておいて」

「……分かった。リビングにでも飾っておくよ」


 ちゃんとした価値や俺からの願いは分からないと思うが、大事にしてもらえればそれでいい。心配になった時は、これを見てその気持ちを和らげてほしい。


「……あら、レーブ達じゃない。私も起こしてちょうだいよ」

「ルイーズ……ほら、レーブが土産をくれたぞ。リビングに飾ろう」

「……綺麗ね……レーブ、ありがとう」


 寝起きの声のまま玄関に出てきたルイーズは、俺にハグをしてきた。母親という認識はまだまだ出来ていないというのが本音ではあるのだが……なんとも落ち着く。レーブの体に刷り込まれている感覚なのだろうか?


「……セレノちゃんもいらっしゃい」

「えっ……はい」


 オロオロとした様子がよく分かる声で俺の後ろから抱き着いてきたセレノも、ルイーズに包まれる。


 マルクもルイーズの上からハグをしてきて、出発の挨拶は終わった。後から気づいたが、俺達ってもう二十歳超えた大人なんだけどな……まあいいか。


「ごめん、なんか……行くか」

「いえ……行きましょう、……レーブくん」

「……おう」



 挨拶を終えた俺達は、朝日で明るくなった道を歩き出す。

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