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066 急激に接近

「よし、準備は整ったな」


 テーブルの上には手の込んだ料理と、それに合うワインが並んでいる。祝いの席に相応しい、お洒落な空間が出来上がった。


「じゃあレーブ、改めて報告を」

「はい。……この度、私レーブとセレノは結婚することになりました。このように祝っていただけること、本当に感謝しています」


 皆嬉しそうな目で、俺達を見つめてくる。……良い人だらけで、感謝しかできないな。あまりにも恵まれすぎている。


「ロランさん、エレーヌさん。既に言ったかと思いますが、改めて……セレノは何があっても守りますので、安心してお任せください」

「ああ、頼りにしているよ」

「ええ、セレノを頼むわね」

「はい。……ほら、セレノも」

「……あ、はい……」


 セレノからは緊張が滲み出ていた。俺も少し緊張したが、この人達なら多少失敗したって気分を悪くすることはない。だから、頑張れ。


「……私も、レーブ、さんと助け合っていきますので、えと……よろしくお願いします!」

「ああ、うちのレーブをよろしく頼むよ」

「セレノちゃんなら大丈夫。頑張ってね」

「はい!」


 ちゃんと反応が返ってきたことで安心したのだろう、その横顔には、柔らかな笑みが溢れていた。


「……では、最後に乾杯しようか。二人の幸せを祈って……乾杯!」

「「「乾杯!!」」」



 こうして、何とか親への挨拶を終えることができた。やっぱり、こういうことはちゃんとやっておかないとな。



ーーーーー



「……そろそろ、お開きにするか」

「……そうですね」


 乾杯の後しばらくは、俺達のこれまでの話をしていた。神聖王国で四人パーティを結成して銀級に昇格、次は魔法王国と刀剣王国に分かれて自分磨き。刀剣王国組は知らないが、俺達は大きな依頼をこなしたことで金級に昇格したことを話した。

 ロランは金級になるのに五年以上かかったらしく、俺達にペースを抜かされたことを悔しがっていた。マルクとルイーズは一般人の為よく分かっていなかったが、ロランが自分と同等の実力だと話すと、大層驚いていた。何故俺が魔法を使えるのかを疑問にも思っていたが、そこは……適当に誤魔化しておいた。


 ここまでは良かったのだが、いつしかロランとエレーヌの馴れ初めの話になり、その流れでマルクとルイーズの馴れ初めの話に……気づけば日付が変わっていた。まあ結構楽しかったからいいんだけど。


「すぐに町を出るんだろう?」

「はい。まだやりたいことがあるので」


 話の中でフレンに住むかと聞かれたのだが、それはまだできないと返した。やりたいこと……俺の状態異常の治療を目指すのに、この町にとどまっていては進まないだろうと思ったのだ。セレノには、魔法の研究ができる環境を作ってあげたい。


「分かった。……では、もう休みなさい。客間は使ってもらって構わないからな」

「はい。今日はありがとうございました。お休みなさい」

「ああ、お休み」「お休み」


 明日もあるということで、早めに休ませてもらえた。




 ……しかし、今日は良い日だったな。結婚をしっかりと祝ってもらって、美味しい料理、ワインをいただいて、親達の馴れ初め話を聞いて……なんだかんだ疲れたが、ちゃんと来てよかったと心から思う。セレノの幸せそうな顔も見られたしな。


「じゃあ、また明日。俺は客間を使わせてもらうから」

「はい……」


 セレノは俯きながら返事をした。……なんか微妙な反応だな、疲れが溜まってるのか。


「……明日は移動するのやめとく?」

「……いや、それは大丈夫です……あの」

「ん?」

「……ついてきて、ください」

「……え?うん……」

 

 客間の扉に手をかけた時、セレノが俺の服の袖を摘みながら、小声でそう言った。当然断ることもなく、ついていくが……なんだろう?


 二階に上がり、奥の方へと進む。突き当たりまで行くと、セレノと書かれたドアプレートが掛けられた扉。まあ、セレノの部屋だろう。そういえば、入ったことはなかったな。


「……どうぞ」

「あ、ああ……」


 先に入れと促されるまま、俺はセレノの部屋に入る。月明かりに照らされたその部屋の印象は、シンプルでありつつも、どこか可愛らしい。一言で言うなら、セレノらしい、といった感じか。


 ……いやそれより。


「急にどうしたんだ?部屋に案内するなん……て……」



 ……振り返ろうとすると、セレノが後ろから抱きついてきた。セレノの華奢な腕が、俺の腰に回されている。背中には、セレノの温もりが……やっぱりこれは、いつでもドキドキする。


「……どうしたんだ……?」


 セレノの部屋で、暗がりで、二人きり。心臓の鼓動がみるみる速くなり、さっきと同じ質問を繰り返すことしかできなかった。


「……これ、すき……」


 小さな声が聞こえた。甘えるように、回された腕がさらにギュッとしめられる。……ああ、くそ、こんなの生殺しだ……


「……セレノ、ちょっと離して」

「……いやです」

「……、離して?」

「……はい……あっ」


 二回も言うと流石に緩んだので、俺はすかさず振り向き、セレノを前から抱きしめた。……セレノばかり、ずるいんだよ。


「……俺は、こっちの方が好き」

「……うぅ……」


 ……恥ずかしいんだよな?だから後ろから抱きつくのが好きなんだろ?分かってる。……けどな、俺の気持ちにもなってほしい。俺からだって触れたいのに、そうさせてもらえないもどかしさを。……こんなことされたら、俺はもう耐えられなくなる。


 しばらく抱き合った後、顔を至近距離で見つめ合う。真っ赤になった顔で、恥ずかしそうに見つめてくるセレノ。……ずっと、見つめていたい。


「……セレノ……好きだよ」


「……はい、私も、……好き、ですよ……


……レーブ、くん……」


「っ……」



 その潤んだ上目遣いでの急なくん呼びに、俺は優しくすることを忘れて。



 ……強引な、キスをした。



 ……セレノは、崩れ落ちた。

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