065 家族に報告
なんだかんだ俺はお人好しなのかもしれないと気づいたところで、馬車はフレンに到着した。
前に来た時と比べると、見違える程に活気があった。当然ともいえるが、ロランさんの仕事が上手くいっていることがよく分かる。
「まずはそっちの家に行くか」
町長の家ということと、男が先に挨拶すべきだろうと考えて、俺はセレノの家へ向かうことを決める。かなりお世話になったしな。
そういえば、何を言えばいいのか全く考えていなかった。既にセレノを託されているから、娘さんを私に……みたいないわゆるやつは要らない。普通に結婚したから顔を見せに来た、でいいか。変に構える必要もない。
お土産を用意していなかったと後悔しながら、俺は町長の家のベルを鳴らす。
「どちら様でしょうか……おお、セレノ、レーブ!お帰り」
「ただいま、お父さん」
「お久しぶりです、ロランさん」
四年ぶりに見たロランは、何処か若々しく見えた。……というよりは、あの時大きな問題があったせいで老けて見えていただけだろうか。
当然のように俺も中に入れてもらうと、
「あれ、レーブじゃないか!いつの間に帰ってたんだ」
「あ、父さん……ついさっきだよ」
そこには何故か俺の父親、マルクが座っていた。俺が町長の娘と仲がいいことを知って、自分も積極的に関係を作ろうとしているのだろうか。そうなら、俺はすごく嬉しいし、ありがたい。
「どうして急に帰って来たんだ?」
「ああ、報告があるんだ。母さんもいた方がいいな」
「……ほう。じゃあ連れてくる」
何かを察したマルクは、颯爽と外へ出ていった。……あれ、ここ人ん家だよな?なんとも自由な……
ロランさんに目をやると、全く気にしていない様子だった。それならまあ、いいか……
ーーーーー
両方の両親が集まったところで、俺は本題を切り出す。
「俺達、結婚することになりました」
……誰も表情が変わらない。あれ、まずかったか?
「……まだしてなかったんだな」
「え?」
「ああいや……おめでとう!」
「「「おめでとう!!」」」
ロランの祝福に他が同調する。まさかここでもやっとか、みたいなことを言われるとはな……そんなに期待されていたのか?
「じゃあ今日はお祝いだな」
「私達は料理の用意をしましょう」
「そうね」
「私も手伝います!」
女性達は皆キッチンの方へ消えていった。居間に残ったのは、男だけ。視線を感じて前を見ると、向かいに座っているロランがさっと身を乗り出してきた。
「すぐにでも結婚すると思っていたぞ」
「それは……セレノが慣れなかったんで……ゆっくりでもいいかと思て」
「ああ、そうだな……まあセレノならお前以外には振り向かないだろうしな」
「……ははは」
そういう意味で余裕を持っていたわけではない。が、たしかに他の男に狙われるという可能性はあったな……セレノが俺にベタベタだったから全く考えていなかった。まあそのおかげで寄って来れなかったのかもしれないが。
「でもよかったよな、あんないい子と結婚できたんだから」
今度はマルクが俺の肩に腕を回してそう言った。いや、それは本当にそうなんだよな。責任感が強くて、可愛くて、気配りができて、優しくて可愛い。悪いところなんて一つもない。
レーブには感謝しないといけないな。セレノと関わるきっかけを作ったのは、俺ではなくてレーブだから。
「……本当に。俺には勿体ないくらいだよ……ごわっ!?」
突然顔面に突風が直撃した。今のは……ロランだ。彼の大きな手が此方を向いていた。
「セレノがお前に価値を感じているんだ。そんなこと言わず、もっと自信を持ってくれ」
「……はい。セレノは俺が幸せにします」
「はは、その意気だ」
ロランは優しく笑った。元高ランク冒険者の喝は荒々しかったが、ふわふわとしていたものが一気に固まった感じがする。俺にはこれが必要だった。
「……もしかしてその感じだと、まだ何にもしてないんじゃないか?」
「何にも?」
「ああ……こういうのとか」
父マルクはそう言って一瞬だけ唇を前に突き出した。……あー、やってないですね……
「……まだ、できてない……」
「そうか、やっぱりな」
お見通しだと言わんばかりにニヤニヤしてきたマルクに、俺は不服を顔で表現する。
「大丈夫だレーブ、セレノはお前のすることは何でも受け入れるはずだ」
「えー……でも流石にタイミングは見計らいたいです」
タイミングもそうだが、俺はセレノに最大限優しくしたいし、今までもそうしてきた。受け入れてくれるからって急に攻めるのは良くないだろ……ヘタレだと言われたらそれまでだが……
「……ゆっくり、と言っていたが……偶には強引さも必要だぞ」
「え?」
「そうだな、それが良いこともある」
「……ほう……」
先輩達が小声でそう説いてくる。なるほど、緩急をつけるといい、ということか?恋愛未経験の俺には考えられないことだな……勉強になる。
そんな深めの会話をしばらく交わしたところで、料理ができてきた。エミリーの時と比べると、全体的に上品な印象がある。
……いや、エミリーを悪く言っているつもりはない。母親達が作るものと、冒険者を相手にしているような子が作るものに違いがあるだけだ。どちらにも良いところがある。
「私達はお酒の用意をしよう」
「そうだな。……レーブ、お前も来い」
「はい」
お酒を決めるのは男の役目だ。ここで料理に合わないものを選ぶ男はカッコ悪いそうで、それを教えたいのだろう。俺も興味があるからすごくありがたい。……セレノにはまだ記憶が飛ぶ程のどぎついのしか飲ませてあげられてないからな……それも貰い物。
父親達のアドバイスを吸収し、俺は居間に酒を持っていく。
ーーーーー
「よかったわね、セレノ。憧れのレーブと結婚することができて」
「お母さん……はい」
憧れのレーブ兄……本当にそうだ。ある時は本当の兄として扱っていたような人と結婚することになったのだ。恥ずかしくもあるけど……それ以上に嬉しい。
「うちのレーブをお願いね」
「……はい!」
レーブ兄のお母さんとはあまり話したことがない。だけど、レーブ兄と同じくらい優しいということは、少し話しただけで分かった。
「……セレノちゃんは、レーブのどこが好きなの?」
「……はい、優しくて、私を一番に考えてくれて、頼りになるところ……ですかね……」
「あらあら。……あの子もちゃんとセレノちゃんのこと好きみたいでよかったわ」
喋っている途中ですごく恥ずかしくなって、口ごもってしまった……って、え?
「レーブ兄も私のこと好きなんて分かるんですか?」
「そりゃあ、ね。セレノちゃんを一番に考えるなんて、好きに決まってるじゃない」
「……そうですか」
それって、出会った頃からじゃ……レーブ兄は、初めから私のこと好きだったんだ……
「……ちょっと待って、セレノ」
「?」
「あなたまだレーブ"兄"なんて呼んでいるの?」
「……あ」
お母さんのその指摘に、一気に焦りが出てきた。……この呼び方が普通だったから、おかしいことに気付かなかった……そうか、レーブ兄はもうレーブ兄じゃないんだ……やってしまった。
「レーブの妻になったんだから、ちゃんと相応しい呼び方にしないとね」
「……はい……」
それから私は、料理を手伝いながらも二人のお母さんから色んなアドバイスを受けた。……やっぱりお母さんから学ぶことは多いな。私はまだまだ敵わない。




