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064 他人に親切

「すまんな、ちゃんと祝ってやれなくて……」

「いいって。楽しかったし」

「レーブ君……ありがとねー」

「……ん、何が?」

「……ううん、何でもない!」


 しみじみと感謝を漏らしたエミリーだったが、俺が知らないふりをすると、明るい笑顔が返ってきた。

 ……夜、部屋で泣いていたことから察するに、エミリーもロベールのことを気にしていたのだろう。自分が頑張っているせいで、父を悩ませてしまっているのだ、と。

 しかし、それは娘のことを大事にしているが故の不安からきているのだと分かり、母同様に愛情を注いてもらっていることに改めて気づけたのだろう。だからこうして、今も笑っている。


「今回はすぐ帰ってくるんだろ?」

「ああ、両方の親に挨拶だけして帰ってくるよ」

「分かった。待ってるぜ」

「おう、じゃあまた」

「またねー」


 俺達が出る時は毎回手を振って送り出してくれる。本当にこの親子と仲良くなれてよかったと思う。もうここは家みたいなものだから慣れてしまっているが、普通の宿ならあり得ないことだからな。




「……レーブ兄は、本当に優しいですよね」

「……なんか前も聞いたな、それ」


 角を曲がって宿が見えなくなった時、セレノはそう言った。つい最近、馬車に乗っていた時だな。あの時は面倒を避ける為だったから、優しくしたつもりはなかったけど……


「だって、いつもそう思うんです」

「……そっか」


 いつも思う、か……セレノは俺がいつも他人に対して気を遣っていることに気付いているんだろうな。俺がそれを主張することはないが、セレノは分かっていてくれる。本当に嬉しい限りだ。


「私は、レーブ兄のそういうところが……」

「……なに?」

「……好き、です……」


 目を逸らし、顔を真っ赤にしてそう言ったセレノ。……酔っている時はあんなにも無遠慮だったのに、まだ恥ずかしいんだな。あの時の記憶はなくなっているのだろうか。

 それでも、前なら誤魔化している所を頑張って言ってくれた。ここは俺もちゃんと言ってあげないと。


「俺は、セレノのそうやってちゃんと見てくれてるところ、好きだよ」

「!……うぅ……」


 顔を抑えるセレノ。よく見ると、耳まで赤くなっている。俺からこういう風に伝えることが少ないから、耐性がないんだろうが……慣れてもらわないと困る。俺が好きなのは、なにもそこだけじゃないからな。



ーーーーー



 そんな甘々な空気は何とか抑えて、再び馬車の移動を開始する。今回はセンブルの首都から、フレンの町へ。前に乗った時は一般人一組しかいなかったのが、今はかなり増えている。町の運営は今も問題なく出来ているようで安心した。

 乗っているのは、やはりカップルや家族連れが多い。手を繋いだり、子どもを膝に座らせて、各々馬車の旅を楽しんでいるようだ。

 平和だなーと思いながらセレノに目をやると、何かを凝視していた。視線の先は……カップルか。……お、視線が移動して、次は……俺の手?……羨ましくなったのだろうか。可愛いな。


「手繋ぎたいなら、言ってよ」

「えっ?いや……あっ」


 返答を待たずにセレノの手を握ると、ぴくっと反応して固まる。少し小さくて、柔らかくて、温かい手。それだけで愛おしいと思えるから不思議だ。……今更恥ずかしいとかは感じない。


「……どう?」

「……」


 セレノは俯いて黙った。……手が少し震えている。緊張しているのか?普通に抱き着いてくるくせに?


「そんなに緊張しなくても……」

「……緊張は、してないです」

「そう?じゃあなんで手震えてるの?」

「……震えてません」

「……」


 答える気はないようで、俺は苦笑を漏らす。こういう時は無理に詮索しない方がいいな。嫌なら離してるはずだから、単に恥ずかしいだけだろう。


 ……よくよく考えたら、付き合うのをすっ飛ばして結婚までいってしまったから、こういうのには意外と慣れていないのかもしれない。これからはこういうことも積極的にやっていた方がいいのかな……?


 調子に乗ってそんなことを思いながらも、俺はセレノの手を握り続けた。



ーーーーー



 握っていた手を離したのは、夕方になった頃。セレノは震えもすっかり止まってお昼寝タイムだったのに、野営の準備を始める時間になってしまった。

 一般人は野営に慣れていないので、冒険者が率先して手伝うのが暗黙のルールになっている。……本当は移動中の魔物も倒さなければならないのだが、それは……他の冒険者に手柄を譲ってあげた、と考えてほしい。


 実際、乗り合わせた冒険者パーティは皆、銅級以下だった。センブルで活動する冒険者パーティは、他の国に移動する前に練習としてフレン行の馬車に乗ることが多いらしく、経験を積んでもらう為にも、俺達のような高ランクが出しゃばる必要はないのだ。


 なのだが。


「今までどんな魔物倒してきたんですか!?」

「他の国行ったことありますよね、どうでしたか!?」

「武器見せてください!」


 ランクを教え合わなければいけないせいで、低ランク冒険者に金級であることがバレてしまい、質問攻めにされてしまう。……面倒だが、嫌な奴には思われたくない。


「……早めに設営できたら教えるよ」

「やった、みんな頑張ろう!」

「「おー!!」」


 まだ野営の設営も終わっていないのに話し込んでいては、一般の人達に迷惑だからな。焦る気持ちをとりあえず作業に向けてもらう。



「……あれ、これどうやるんだっけ……」


 作業の手が止まる一人の銅級冒険者。野営の準備の流れについては、冒険者ギルドで講習があったりするのだが……仕方ないな。


「これは、……こうするんだ」

「あ、なるほど……ありがとうございます!」

「ちゃんと覚えとくんだぞ」

「はい!先輩!」

「……先輩……」


 先輩、なんて言われたのいつぶりだよ……昔は特に、今もそんなに自分に自信がないから、そう言われても申し訳なくなるだけなんだよな。


「準備終わりました!」

「さあ!」

「はやく!」


「……しょうがないなぁ」



 自分で言った上に手伝ってまで準備を速めてしまったので、渋々俺は冒険者達に向き合った。後ろからクスクスと可愛い笑い声が聞こえてくるが、俺にはもう何を考えているのか分かる気がする。

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