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063 知己に慰撫

 そんなこんなでセンブルの首都に到着した俺達は、いつも通り例の宿に向かう。


「……いらっしゃい……」


 温かい歓迎を期待していた俺だが、聞こえてきたのはロベールの疲れ切った声だった。


「あれ、今日は元気ないな」

「ん……?おお、レーブとセレノちゃんじゃないか」

「どうかしたのか?」

「あっセレノ達だー!久しぶりー」


 ロベールとは違って相変わらず元気なエミリー。四年も経ったからか、随分と大人になったな。顔は垢抜けてより美人に、前の膨らみも大きくなって……いやいや、俺は何を見ているんだ。


「……おい、レーブ……お前もか?隣に可愛い子がいるのにお前もなのか?」

「は?何が?」

「……ちょっとこっち来い」

「……?分かった……」

「セレノはこっちだよー」

「え?うん」


 ロベールの様子がおかしい。疲れているんだと思ったら急に詰め寄ってくる。訳が分からないが、その有無を言わさぬ口調に、俺は従うしかなかった。


 後をついていくと、仁王立ちのロベール。


「……お前、エミリーをいやらしい目で見てただろ」

「いや、そんなつもりは……暫く見ない間に美人になったなと思って」

「そりゃそうだろう、じゃなくてな……お前にはセレノちゃんがいるんだから、そっちを見てやれよ」

「ああ、それについては問題ない。結婚したから」

「……なんだと?」


 呆けた顔で固まるロベール。


「セレノと結婚したんだよ。まあまだ何にもできてないんだけどな」

「……結婚、だと……おい、エミリー!!」


 ロベールなら話していいだろうと思って口に出したら、今度は娘の名前を叫びながら走って戻っていった。情緒不安定なのか?ちょっと休んだ方がいいと思うが……

 一人奥に残されたので、仕方なく入口の方に戻ると、


「エミリー、聞いてくれ、こいつら」

「結婚した、でしょ!?これはもうお祝いだよお祝い!」

「え……?え……」


 エミリーもロベール同様に興奮していた。それを見たセレノも俺同様に若干引いている。……お祝いって、そんなにか?


「お祝いなんていいよ別に」

「馬鹿野郎、家族程の間柄のやつが結婚したのに祝わない方がおかしいだろうが」

「そうだよ、というかやっとって感じだよね」

「「やっと?」」

「そうだ、やっとだ。ずっとイチャイチャしてたくせに分からんとはな。……よし、今日は貸し切りだ!」

「よーし、お料理頑張っちゃうぞー!」


 本人達より浮かれたその親子は、小躍りしながら店の奥へ姿を消した。


「い、イチャイチャ、か……」


 やっと、ずっとって、四年前の話だよな?その時から既にイチャイチャしているように見られていたのか……これはなんか恥ずかしい。


「……イチャイチャ……なんて……」


 そう呟いてセレノは顔を抑える。……でも言われてみれば、その頃からセレノとの距離が近くなったような覚えがあるから、多分そのせいだろう。本人は自覚していないようだが。


「……俺達も何か手伝うか」

「……そう、ですね」


 何故か貸切にまでなってしまって申し訳ないので、手伝えることくらいは手伝わせてほしい。



ーーーーー



 エミリーとセレノが作った豪華な料理を皆で味わって一段落してから、完全に日が落ちた頃。


「……ひっく、クソガキの分際でうちのエミリーに色目つかいやがってよぉ……ったくどいつもこいつも……」

「おい、飲み過ぎだ」


 俺とセレノでは飲みきれないからと、ヘクターさんに貰った例の酒を渡してしまったせいで、現在はロベールの愚痴が延々と垂れ流されている。内容が内容だけに、セレノ達には他の部屋に移動してもらったが……お祝いとはなんだったのか。


 なんでもここ最近、宿に泊まりに来る客の殆どがエミリー目当てらしい。俺にも分かるくらい美人になったし、看板娘なんだからそれは仕方のないことだと思うが……まあ父親の立場になってみれば、何処の馬の骨かも分からないやつに大事な娘を取られかねないと思うと、しんどくなる気持ちは分からなくもない。


 だが、娘の前でその疲れをダダ洩れにするのもどうかと思う。そういう人達をどう扱うかは、エミリー本人が決めることだからな。


「なんだぁ、お前はセレノちゃんが他の男に取られてもいいってのかぁ?」

「は?そんなこと言ってないし、それとこれとは話が違うだろ。あんたが言ってんのは、あんたの奥さんが他の男に取られていいのかってことだぞ」

「んだとぉ?エリーゼは俺とエミリーしか愛さなかった最高の妻だぞぉ!?……ああ、エリーゼ……うぅ……」


 あ、やばい、うっかり奥さんの話を出してしまった。また情緒がおかしくなってしまう……いや、もう既におかしいな。


 ロベールの奥さんことエリーゼは、エミリーが物心ついて少しした頃に病気で亡くなったそうだ。ここに馴染んできた頃にこの話を聞いて、それでもなおエミリーがロベールと二人、楽しそうに宿を切り盛りしているのを見て、俺はうるっときてしまった。ロベールの言う通り、エリーゼは娘を本当に愛情を持って育てたのだというのが分かったから。

 そんなことを思い出し、俺はロベールを慰めにかかる。


「……しかしな、その最高の奥さんの血を受け継いだ娘が、その辺のろくでもない男に引っかかると思うか?」

「……んなわけねぇだろぉ」

「だったらそんなに悩むことないだろ。心配しなくたって、エミリーはあんたみたいな良い人と一緒になるよ」

「……うぅ、レーブ……お前ってやつはぁ……」

「おいやめてくれ、酒臭い」


 大の男が泣きながら抱き着いてくるなよ……まあ、不安な気持ちが少しでも解消されたなら、俺は満足だ。……って、なんでこんな話になってるんだろうな。


「ほら、明日は宿開けるんだろ?もう寝るぞ」

「……うぅ……もう少しお前の言葉を噛みしめてから寝る」

「……、じゃあ、俺は先に寝る。おやすみ」

「……おう、おやすみ……」



 何とか愚痴を治めることはできたので、トイレに寄って寝るかと廊下を歩いていると……少し開いた扉の先から、彼の娘のすすり泣く声が聞こえていた。


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