062 商国に移動
第五章 開始です。よろしくお願いします。
本章には冒険要素がないです。その代わりといいますか、一部イチャイチャが強めになっています。
そういうの求めてないという人は、流し見でお願いします。
俺とセレノの冒険者ランクが金級に上がってから、早一か月。依頼達成によって手に入れた多額の報奨金で、俺達は特に働きもせずだらだらと日々を過ごしていた。
一応、セレノは魔法の研究ということであれこれ試しているが……俺はできるところまでできてしまった感があるから、これといって意欲が湧かないのだ。
結婚についても、セレノの距離がさらに近くなった以外に特に変化はない。本来、というか前の世界なら、親への挨拶とか、結婚式とか、家とか新婚旅行とか色々あるものだが、こっちの世界ではどうなのか全然分からない。
というか親への挨拶は既に済ませているようなもの、結婚式は端からやる気なし、家の購入はまだ早い、新婚旅行は既に真っ最中?といった感じで、実際やることがない。
まあフレンを離れてからもう四年は経っているから、久しぶりに顔を見せに帰ってもいいとは思うが……よし、そうするか。だらだらしているよりかは断然いいだろう。
「セレノ」
「ん、何ですか?」
「フレンに帰ろう」
「え、フレンですか?急ですね……」
「急ではないでしょ、結婚したんだからその報告もあるし」
「あ……そうですね……」
思い出したように照れるセレノ。普段から自然にベタベタとくっついてくるくらい積極的になったのに、「結婚」と聞くと何故か恥ずかしがるのだ。その実感はないということか?それは俺もなんだけど……
でもそれなら尚更、報告なり挨拶なりした方がいいだろう。有耶無耶になることはないが、一つのけじめとしてな。誰かに知ってもらえれば実感は湧くんじゃなかろうか。
「よし、じゃあ明後日の馬車でセンブルに出発しよう」
「は、はい。すごく張り切ってますね」
「うん、暇を持て余してたからね」
久々の街の移動、割と楽しみになってきた。
ーーーーー
ヘクターさんにセンブルに移動する旨だけ伝えて、俺達は魔法王国を去った。そういえば、なんだかんだセレノは風魔法の道場には行かなかったな。勿体無いと言えばそうなんだろうが、本人は風魔法より治療魔法の研究をしたいと考えているので、特に必要性を感じなかったようだ。
それに、俺に対して冷酷な態度を取ったあの貴族に会いたくないというのも未だにあるようで……結構根に持っているらしい。
まあ道場なんて金さえあれば年齢関係なくいつでも行けるようなので、それはそれとして。
「……結構苦戦してるな」
「……そうですね」
今は馬車での移動中。いつも通り襲ってきた魔物は冒険者達が協力して追い払うか討伐するのだが……高ランクの冒険者がいないのか、捌くスピードが遅い。
一年前、といっても俺にとっては最近だが、金級の冒険者なら本気になるとずっと走り続けられるくらいなのを見ていたので、どうにも遅いという感覚がある。普通の冒険者はこんなものだったのか。
「なんか危なっかしいな……ちょっと行ってくる。待ってて」
「私も行きます」
「大丈夫だよ、フォレストドラゴンじゃあるまいし」
ついてこようとするセレノを制止させる。離れないでとは言われたが、銀級程度の雑魚ならぶっ倒れることはないだろう。流石に心配し過ぎだ。
「おーい、大丈夫か?手助けくらいならするぞ」
「くっ……てっ手助けなんていらない!」
「邪魔しないで!」
「……そうか」
……普通に拒否された。これだから冒険者は……無駄にプライドが高いやつが多すぎる。素材やら手柄を横取りするつもりなんかないのにな。
まあ要らないなら俺は戻るだけだが……
『グギャァ!』
「いやぁっ!」
「セシルッ!!」
「やめて……来ないで!!」
……いや、本当に大丈夫なのか?気になって振り返ってみると、セシルというらしい真っ赤な髪の女魔法師が、ウォーターリザードに迫られてなお動けずにいた。同じパーティの冒険者が近づこうとするが、水のブレスを吐かれて足止めを食らっている。対抗策がないようだ。
「……もう一度聞くけど、大丈夫か?」
「っ……」
「早く助けないと、あの子やられちゃうよ?」
「……俺が、なんとか……」
「できそうにないから聞いてるんだけど。目の前で仲間が死んでもいいのか?」
「……くそ……助けてくれ」
「了解」
なんとか絞り出させたところで、俺は無発声法で睡眠魔法を行使する。
返事をしてから、わずか三秒で。
『グギャ?ギャ……』
「……え、なに……?」
「……なんだ?倒したのか?」
ウォーターリザードは動かなくなった。俺にとっては見慣れた光景だが、知らない人からすると驚くよな。
「何をしたんだ……?」
「眠らせた。じゃあ、後はよろしく」
そう言って俺は馬車に引き返す。うーん、いい感じに格好つけられたんじゃないか?ピンチのところにやってきて、相手の戦力を奪うだけ奪って立ち去り、最後倒すところは手柄を譲る。……まあこうすることしかできなかったというのが本当のところだが。
「お帰りなさい」
「ただいま」
セレノの横に何事もなかったかのように座る。
「倒さなかったんですか?」
「え?うん、面倒くさいし」
「面倒くさい?」
「そう。プライドがお高い人達だったから、手柄を取られたとか言われかねないからね」
他の冒険者との関わりで一番面倒なのがこれだ。誰が倒した、とか横取りした、とかで絶対に揉めるのが分かっているから、初めから手柄を主張しない方向で動いた。
それに、俺の睡眠魔法に殺傷能力はないからな。眠らせた後物理的に攻撃しなければいけないから、そこは彼等に任せた方が楽でダサくない。プライドうんぬんも合わせて割と理にかなった動きだったと思う。
「なるほど……レーブ兄は本当に優しいですよね」
「そうかな?揉めたくなかっただけなんだけど」
俺は優しくないぞ、セレノ。大体は自分が楽をするために行動しているのであって……
「あの」
「……ん?なんだ?」
「これ……」
不意に声をかけられたのでその方向を向くと、さっきの冒険者達がウォーターリザードの素材を差し出してきていた。
「えっなんで?君達が倒したよね?だから俺の手柄じゃないと思うけど」
「助けてもらったから……」
「……私は、助けてなんて言ってないけどね」
「おいっ」
「……、いいよ別に。困ってないし」
「……そうか。じゃあ、貰っておく」
そう言って、彼等は去っていった。……なんだよ、中途半端にプライド捨てやがって。こっちは既に割り切ってるのに、下手にお礼なんかしようとするな。あのセシルとかいう小娘程になると流石に腹が立つが、黙って感謝もせずにしめしめともらっとけばいいんだよ。大半の冒険者はそんなもんなんだから。
……と心の中で一人文句を言っていたが、俺はそもそもの目的……あの冒険者達のせいで馬車が止まることを阻止する、というのが達成できたから、もうどうでもいいんだけどな。




