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061 万事は解決

「……ん……ん?……」


 俺は何処か見覚えのある場所で目を覚ました。……ああ、この木の中の感じ……エルフの集落の部屋か。

 ……なんか超久しぶりにがっつり寝た気がする。寝過ぎた時特有の怠さが体全体に広がっているが、それすら懐かしみを覚えて心地良く感じる。


「ん……レーブにぃ……」


 俺の傍には、そんな寝言を漏らすセレノ。寝ている時も俺のことを考えているのか……?そう思うと照れるな……

 そんなことを思いながら、セレノのサラサラとした白い髪を撫でる。


「……ん、レーブにぃ……?っレーブ兄!?」

「えっ?」


 うとうと状態から一転、セレノは俺の顔を覗き込み、目を合わせる。


「……やっと起きた……」


 目に涙を溜め、そう零す。……やっと?


「……私のこと、分かりますか……?」

「……?セレノ、だよね?」


 何を当たり前のことを聞くんだとばかりにそう答えると、俺の頬に涙が溢れ落ちた。


「……レーブにいぃぃ……うわぁぁん……」

「え……どうした、セレノ……」


 セレノは俺にのしかかり、声を上げて泣き出した。


「セレノ……ってどうしたの!?ってあれ、レーブ?レーブが起きてる!」

「あ、え?」


 そう言ってフォリアが部屋に入りかけて、どこかに走り去っていった。……なんなんだ……?

 少しして、沢山のエルフが部屋に入ってくる。先頭には、長老。


「おお、レーブ殿……漸く目覚められたか」

「……漸く?」


 さっきからやっととか漸くとか聞くが、どういうことだ?


「ああ、分からないか……一年。レーブ殿はフォレストドラゴンを鎮められてから、一年間眠っておられたのだ」


「……は……?」



ーーーーー



 まさかの事実を知った後、色々話を聞いていたが、その間もセレノが泣き止まなかったので、エルフ達は気を利かせて部屋から出ていった。なお、今は泣き疲れて眠っている。……のしかかられたままなので、俺は身動きが取れない。


 話によると、俺はあの時……フォレストドラゴンを眠らせる為の睡眠魔法を発動した後、急にぶっ倒れたそうだ。確かに、使った後に酷く苦しくなったのは記憶にあるが……気絶していたとは。

 まああんな相手に最大出力をぶつけたら反動でそうもなるか……ただ、そこから一年も目を覚まさなかったのには驚きだ。不眠症持ちの俺が、一年も寝続けることができるなんてな。


「……うぅん……レーブにぃ……」


 もぞもぞと俺の胸の上で動くセレノ。くすぐったいが、頑張って我慢する。何故なら……今この状況が、愛しすぎるから。

 我慢に成功し、セレノは此方に寝顔を向けてまだ眠っている。……ああくそ、可愛いな……笑えてくる。


「……ん……?……レーブにぃ?……はっ、ねてしまいました。すみません乗ったままで」

「ふふ……いいよ、気にしなくて」

「え?……はい……なんで笑ってるんですか?」

「……寝顔が可愛かったから」

「!……もう」


 顔を真っ赤にして照れるセレノ。しかし今回は目を逸らすことはなく、俺と目を合わせ続けた。……あああ、それは反則だろ……


「……レーブ兄」

「……なに?」

「私の名前、呼んでください」

「……セレノ」

「……はい。……ふふふ……」

「え、なに?」


 なんかセレノが変なんだけど。なんで笑ってる、はこっちの台詞だ。


「……レーブ兄が、私のレーブ兄のままなので……安心して……」

「私のレーブ兄のまま……あっ」


 そういう事か……!「私の名前、呼んでください」「私のこと、分かりますか」って……(レーブ)が記憶喪失になったあの時と重ねているのか……一年も目を覚まさなかったから、忘れられたかもしれないと、そう思ったのか……何が一年も寝続けることができた、だ。馬鹿にも程がある。誰か俺を罵ってくれ。


「……もう、私を一人にしないでください」

「……分かった。約束する」

「証明してください」

「……証明?」

「はい。どこにもいかないという証明を」


 証明、か。俺がセレノと離れることがないという証明。……もう、あれしかない。そして今なら、もう大丈夫だろう。


「……分かった。……じゃあ、いい?」

「……?」


「セレノ。俺と、結婚してください」

「っ!……はいぃ……」

「ありがとう。これからもよろしくお願いします」

「うぅ……よろしく、おねがいします……」



 俺とセレノは……一時の抱擁を交わした。



ーーーーー



 それから、リハビリも兼ねてエルフの集落を歩いていると、俺はエルフ達から英雄のような扱いを受けた。確かに俺はフォレストドラゴンを眠らせたが、そこまでに色んな人の頑張りがあるから、俺だけのおかげではないんだが……まあ、悪い気はしなかった。


 十日程集落で生活した後、俺達は魔法王国へ戻った。ヘクターさんは俺が生きて戻ったことに興奮し、大規模な褒章の儀を執り行うと言い出したが、断固として拒否した。

 目立ちたくないのは依然変わっていないし、本来の目的の金、労力の節約も出来なかったからな。


 それでも、フォレストドラゴンを鎮める周期を、二百年のところを五百年に延ばしたということで、実質的に労力の節約になると判断され、俺達はめでたく金級にランクアップし、多額の報奨金を手に入れた。こう聞くと、俺の魔法は役に立ったのだということを実感する。

 因みにセレノもランクアップしているのは、エルフ達を命をかけて守ったということで、同等の評価を得られたからだ。



 そして、報告したその日の夜。


「セレノ」

「なんれすかぁ?レーブ兄……」

「飲みすぎじゃないか?」

「えぇ、そうれすかねぇー……」

「そうそう、呂律回ってないし」


 ヘクターさんがせめてものお祝いということでくれた秘蔵のお酒を飲んでみたら、かなりキツく……お酒初心者のセレノが完全に出来上がってしまった。二十歳を過ぎたからといって、飲むんじゃなかったな……


「レーブにぃ……」

「なに?」

「……だいすきですよぉ……」

「お、おぉ……俺もだよ」

「……えへへー……」


 ……なんだよこれ。俺も飲んでいるせいか、頭がおかしくなる程甘々な空気に包まれている。温もり、上目遣い、吐息……ああ、やばいな、これは……いや、ここはなんとか耐える。耐えないと……


「……もう、寝た方がいいよ。おやすみ」

「えぇ……れーぶにぃ……?……おや……す……み……」


 ……魔法で強制的に眠らせた。あぁ、危なかった……結婚することになったからもうもどかしい気持ちにならないと思ったのに、泥酔してちゃあな……流石にな……



 俺は明確な言葉で気持ちを返すことが出来なかったが、それはまた後日、ちゃんと意識がある時に伝えたい。依頼を完了した俺達二人の生活はまだまだこれから、始まったばかりなのだから。

第四章終了です。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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