060 仕事は全力
森の奥地への道中、一行は先頭から順番に、神聖王国ギルドマスターのクリストさん、商業王国ギルドマスターのダグラスさん、近接メインの金級パーティ二組、俺、魔法メインの金級パーティと白金級パーティ、ヘクターさんの順に並んでいる。
俺の話を聞いて、攻撃魔法要員の魔力をできる限り温存する作戦をとっているのだ。
「こんな銀級のガキ一人いて、何が変わるんだ?」
そして、俺の後ろにいる白金級冒険者からは、こんな疑問が飛んでくる。
「ガキ……はは、これでも自己防衛は得意なので……」
「そうか、逃げ回るだけか。それだと一生終わらないけどな」
「そこを、貴方達がババッとやっていただければいいんです」
「ふーん、そうか。何も貰えなくても文句言うなよ」
「分かってますよ」
……はあ、いい年して弱いものイジメですか。上位の人間がこんなんだったら、俺は銀級のままでいいかもしれない。ランクだけを見て差別するような人達と一緒にされたくないからな。
こんなしょうもないやり取りをしている間も、ダグラスさんを始め近接組は現れる魔物を流れるように屠っている。なんであんな気持ち悪いのに近づいて攻撃できるのか不思議で仕方ないが……俺が眠らせてスルーして進んでいた時と大して変わらない速さで進んでいる。
あんな頼りなさそうなお父さんだったのに、ここまで戦い慣れているとは……素直にすごいと思う。
「すんすん……お、魔力が濃くなってきた。皆、近づいているぞ!」
「「おうっ!」」
クリストさんは相変わらず鼻を使って皆を導いている。元々は森の奥を探し回る予定だったらしいが、俺の情報、それを追うことが出来るクリストさんの鼻があることによって、迷わずに進むことが出来ているはずだ。
「おい、一匹撃ち漏らした!そっちでやれるか!?」
「やったぞ」
は?と思って頭上を見ると、一匹の虫が凍り付いていた。そして落下し、ばらばらに砕け散った。……流石は白金級だ、偉そうな口を叩くほどのことはある。
「どうだ、ビビったか?」
「……はい、正直とても。すごいですね」
「……ふ、そうだろう」
冷静を装っているが、口角が上がっている。ちょろいな、先輩。こういうのは真正面から褒めるに限る。
一行はひたすらに進む。近接組がたまに打ち漏らした虫を、白金級魔法師がパパッと片付ける。それだけの時間が暫く過ぎ……
「一同停止。……あれだろう」
「「……おお……」」
ついにフォレストドラゴンの住処に辿り着いた。クリストさんの指す先には、枯れかけた大木。地面の方に目をやると……ドラゴン。ドラゴンの背中からその大木は生えている。
『漸く来たか。待ち詫びておったぞ』
「な……既に気づかれていたか。流石はフォレストドラゴンだ」
『耳障りな足音が聞こえていた。気づかない訳がなかろう』
一行はゆっくりとフォレストドラゴンの前へ移動する。……近づけば近づくほど、その身体の巨大さが窺える。
「……私達は、どうすればいい?」
『我との契約を忘れたか、人間。……まあよい……我の尾に魔力を浴びせるがよい。街を消されたくなければな』
傍のもう一本の大木が動き始め、一行の目の前に横たわった。よく見ると、大木のように見えたそれは、ツタが絡みついているだけのれっきとした尻尾だった。
「この尻尾に魔法を当てればいいんだな?」
『……何度も言わせるな。……ああ、能の無い人間に一つ忠告しておくが……関係のない木々を傷つけるのは禁止だ』
「……それをするとどうなる?」
『喰い殺す。我の糧にしてやろう。その方が効率がいいからな』
「……分かった」
あり得ない程の圧力をかけて放った言葉に、俺を含めた半端な人間は凍り付いた。……これはやばい。
「……始める前に一つだけ。……睡眠魔法は、貴方には効果があるだろうか?」
おい、殺気剥き出しのタイミングでそんなことを聞くな――
『……睡眠魔法?……ふはは、面白い。だが、それだけでは我は満足できん。魔力を受け取った後、最後にでも食らってやるとしよう』
……体だけでなく器も大きい相手で良かった。今のは殺されてもおかしくなかった。
「分かった。……では、始めさせてもらう。……ヘクター爺」
「ほいほい。……魔法師の諸君、各々得意な魔法を、フォレストドラゴン殿の尻尾だけにぶつけろ。それくらいのことは当然できるじゃろう?」
「チッ……やり合えると思ってきたのに……これじゃあ最高火力を出せねぇじゃねぇか。……だが、やってやる」
「うむ。……それでは……開始!」
「<氷槍>!<氷結柱>!」
「<風刃>!」
「<岩石砲>!」
白金級の手練れ達が次々に魔法を打ち込んでいく。が、尻尾に当たった瞬間、それらは光となって消える。……その代わり、背の大木がやんわりと光り、ほんの一部、一本の枝の分ずつだけ緑が戻った。吸収はしっかりできているようだ。
『ふん、その程度か……足りんぞ』
「……くそっ……まだまだ!」
「……俺等もやるぞ!」
「「おう!!」」
何とか動けるようになった金級の魔法師達も一斉に魔法を打ち込み始める。
『人間ども……それだけいて、こんなものなのか?』
「チッ……調子に乗りやがって……」
「冷静に。わしもやる。……<氷結岩石砲>!!」
聞いたことのない魔法……氷に覆われた岩石砲が、高速で飛んでいく。これがヘクターさん自慢の混合魔法か。
『ほう……今のは面白い、我も見たことがない魔法だ。オリジナルか?』
「……そうじゃ。ふぉふぉ、褒められたようで嬉しいのう。俄然やる気が出るわいっ」
ヘクターさんはさらに魔法を打ち込んでいく。その様子を見て、他の魔法師達も冷静さを取り戻し、ひたすらに魔法を放つ。
『……ふむ、そろそろいいだろう。お前達にしては頑張ったほうだな』
「……はぁ、はぁ……舐めやがって……」
『舐めてなどいない、当たり前の感想だ。お前達ごときが我と戦う等、千年早いわ』
「……くそ……」
……実際、その通りなのだろう。フォレストドラゴンを満足させるだけで、息を切らし、辛うじて立っているような者が、まともに戦って生きていられるかどうか……しかし、そこに至るのにおおよそ千年、人間には長すぎる。白金級でもそのレベルでしかないのか。
『お前達の出番は終わりだ。我は睡眠魔法とやらに興味がある』
「……俺の出番ですか」
……まさか、最後に俺の魔法でしめることになるとは……これ、責任重大じゃないか?参ったな……
『お前が、睡眠魔法の使い手か、通りで何もしていなかった訳だ。……む?お前からは、他とは違う魔力を感じる……』
「え?どういうことですか?」
『……お前が分からないというなら、お前はそれ以上知る必要はない。さあ、睡眠魔法を使って見せろ』
「……分かりました」
なんか意味深なことを言われたが、神様が関わっている以外に俺に思い当たることはない。つまり、そういうことだと思う。
……よし、じゃあその、他とは違う魔力を練り上げていこう。
はっと息を吐き、集中する。恐らく速さは求められていないから、じっくりと、いつも通りに。
身体中の魔力の流れを意識して、体の中心に集める感じで……
「おおレーブ、お主、習得できたのか……」
声がうっすら聞こえたが、無視。ただひたすらに、魔力を練り上げていく。こんな相手に使うものなら、もう上限なんて気にしない勢いで……
『ほう、その魔力の練り上げ……中々のものだ。どれ、もう少し底上げをしてやろう』
「……っ!」
体に流れる魔力が増幅した。なぜかは分からないが……これなら、かなりのやつが出せる……いける。
「……<麗夢>!!」
その時、自分でも見たことのない大きさの濃い光の玉が、フォレストドラゴンの頭を包み込んだ。十分に魔力を練り上げてから魔法名を口に出すと、とんでもない威力が出る……ということは以前試したから知っていた。……が、これほどまでになるとは……
『……おお、これは……』
「……ど、どうですか……」
『……ふ、ふはは……この我に対してここまでの効果を出すとは……これなら二百年と言わず……五百年は……眠れるであろう……』
そう言って、フォレストドラゴンは目を閉じ、地に伏した。そして背の大木は、柔らかな、優しい光を放ち始めた……
「うっ!?くっ……」
突然体の中を途轍もなく大きな脈動が走る。咄嗟に胸に手を当てようとするが、それすらも動かず、立ってすらいられず、膝をつく。そしてみるみる呼吸が苦しくなり……
「……おい、だいじょうぶか……お……だいじ……か……」
視界は地面を映して最後……俺は意識を失った。




