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059 問題は発覚

「<治癒(ヒール)>、<治癒(ヒール)>、……」


 口元に布を巻いたセレノが汗を垂らしながら、伏したエルフ達に治療魔法をかけている。原因は分からないが、試しに治療魔法をかけると顔色が断然良くなったので、一通り回復して回っているところだ。


「おお……助かったのか……?」

「……恐らくまだですね……苦しそうなのは依然として変わっていないので……」


 案内をしたエルフがそう呟いたが、セレノは正直に告げる。……セレノも苦しそうだが……


「……セレノ、少し休憩を……」

「まだ、大丈夫です……後少しなので……<治癒(ヒール)>、……」


 頑張るのはいいが、過ぎると本人も倒れかねない。心配だから、それだけは避けてほしい。


「……、おわりました……」

「セレノ……大丈夫?」

「はい……少し休めば……」


 俺にもたれかかり、体重をかけてくるセレノ。相当疲れてるんじゃないか?頑張ったな……頭を撫でておこう。


「……ありがとう。……すまないが、長老も倒れていてな……」

「……長老様は何処に?」

「案内してもいいか?」

「……お願いします」

「セレノ……」

「大丈夫ですから……」


 撫でている手をそっと掴み、此方を見つめてくる。うーん……


「……分かった。……案内してもらえますか」

「……ああ」


 案内役エルフが外に出たので、俺もセレノを負ぶって立ち上がる。……もっと休んでからにしてほしいが、本人が希望している以上なんとも言えないからな……


 長老のいる場所には、木で作られた階段を上っていく。エルフの集落は、立体的な構造をしているらしい。ちゃんと見れば、圧巻な景色だと思う。


「ここだ。……長老、治療魔法を持った人間を連れてきた。中に入らせてもらう」

「……ぉぉ」


 ただでさえしわがれているのにそれをさらに聞こえ辛くしたような掠れた声がうっすらと聞こえてきた。無理して喋らなくていいのに……


「長老が倒れたのは最近だが、ご高齢だからか、どうにも進行が速いようでな……」

「……レーブ兄、降ろしてください」

「……あいよ」


 セレノは長老エルフの枕元に座り、同じように治療魔法をかける。


「……ぉぉ……これは、すごい」

「う……くっ……」

「セレノ!!だから言ったのに……」


 長老の容体は良くなったが、セレノが倒れかけた。さっと体を支えるが、力が入っていない。……魔力枯渇だ。


「……ごめんなさい……」

「セレノは頑張った。休んでて」

「……はい……っ……」


 そのまま寝かせると頭が痛くなるかと思ったので、膝枕の要領で膝に頭を乗せた。少し驚いていたが、そのまま頭をあずけてくれた。


「……ありがとう、人間の方。まだ治ってはいないようだが、喋れるくらいには回復した。……ッゴホッゴホ」

「長老、安静に」

「……よい、これくらいは大丈夫だ。……話したいことがある。聞いてもらえるか?」


 このタイミングで、話したいこと……もしや、守り神の話とか……なんにせよ聞くしかない。


「はい、なんでしょうか」

「……この症状のことだが……遠い昔、私が若い頃、当時の長老に似たような症状の病気が集落に蔓延した、という話を聞かされたことがあった。それを思い出した」

「おお、それなら治す方法が……」

「待て、焦るでない。……その時の原因は、フォレストドラゴンだったそうだ」

「……フォレストドラゴン?」


 フォレスト、ドラゴン……これまた厄介そうな相手だ……


「ああ。彼は森の奥地に住み、眠っていた。彼が寝ている間に出す魔力は、この森の魔物を弱体化させていたらしい」


 ……ん?それって……


「だが、ある時眠りが浅くなり、目を覚ますと、その魔力は悪いものに変わる。魔物は攻撃的になり、我々エルフが濃い濃度の場所に留まると……謎の病を発症してしまうのだ」

「……はあ」

「その時エルフは、意を決してフォレストドラゴンに会いに行った。どうか再び眠ってはくれないだろうか、と。その時、彼はこう言った……『魔力をよこせ』」

「魔力……」

「そう、魔力……魔法としてでも、身体そのものでもいいと彼は言っていたらしい。……しかし、その場で与えるには心許ない人数だったエルフ達は、病を発症しながらも、集落へそのことを伝えに戻った」

「……」

「それからは……人間を頼るしかなかったという。森の外の魔法に秀でた人間を何とか説得し、案内し……数人のエルフの命も犠牲にしてやっと、何とかフォレストドラゴンを眠りにつかせることができたそうだ。それによって、蔓延していた病は嘘のように消えてなくなった、と。……聞いた話はここまでだ」


 ……つまり……俺達が受けた依頼の相手と、今エルフが困っている原因になっている魔物は、同じ……フォレストドラゴン、という事か。これだけの話を聞いてやっと、俺がどんな依頼を受けてしまったかが分かった。

 ……眠らせるのに魔力が必要、となると、俺の睡眠魔法は意味を成すのか。……その答えは、求めたくない。だが。


「……貴重な情報、ありがとうございます。そして……実は、一部の人間は、その出来事を恐らく語り継いでおり、今も知っています。もうじきフォレストドラゴンを鎮めるためにこの森にやってくることになっています。……実は私も、その一員です」

「おお、なんと……」

「ですから……エルフの皆様は恐らく……いえ、必ず助かります」

「……おお、おお……」

「長老……」


 エルフ達をこれ以上不安にさせることもしたくない。選ばれた者の一員として、俺は自分にできる事を精一杯するだけだ。

 


ーーーーー



 そして、数日が経った頃。


「レーブ殿」

「ん、なんでしょう」

「集落の入り口に、貴方を知っている人間が現れた。……例の話の者か?」

「……恐らくそうです。出ましょう」


 もうその時がやって来たか、と俺達は案内役だった女エルフと共に部屋を出る。あれから俺達用の部屋を用意してくれていたので、寝泊まりは困らなかった。ありがたい限りだ。


「あっヘクターさんとクリストさん、それと……ダグラスさん。お久しぶりです」

「久しぶり、レーブ君。お、随分と凛々しくなったんじゃない?」

「え、そうですかね……」

「久しぶりだな、レーブ君。俺なんかのことを覚えてくれているとはな」

「あの時はお世話になりましたし……ギルドマスターですからね」

「久しいのう、レーブ、セレノ。エルフとは良くやっていそうじゃの?」

「そうですね……風魔法より、治療魔法でしたが。どちらにせよセレノが大活躍しました」

「レーブ兄……」


 恥ずかしそうに小声で呟くセレノ。これは本当に自信を持っていいことだと思うぞ。


「治療魔法?良からぬことでも起きとったのか?」

「……はい。その話は、討伐隊全員に聞いてもらう必要があります」

「……分かった。では長居もできんから、もう出発するが……準備はいいか?」


 真剣なトーンで言うと、ヘクターさんも真剣なトーンで返してくれる。もう、出発か。


「はい。……セレノは、ここに残っていてくれ」

「えっ?何故ですか、私も行きます」

「それだと、エルフの皆がまずいことになる。彼等の命を繋いでいられるのは、セレノだけなんだよ」

「っ……」


 この病は進行し続けるようだが、治療魔法は依然として効果があった。毒とか、そういう継続ダメージ的な部類なのだろう。

 そしてこの数日間、セレノはずっと伏したエルフ達の回復をしてきた。そのおかげで信頼もされているので、元々人間に寛容でないエルフ達に混ざっていられるのは、もうセレノしかいないのだ。


「……分かりました。……絶対に、帰ってきてくださいね」

「勿論。そんなの当たり前だ」



 俺は笑ってセレノの頭を撫でた。セレノからは……何処か不安そうな笑みが返ってきた。

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