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056 時間は有限

「ん……」

「おはよう」

「……おはようございます」

「いい夢見れた?」

「……はい!試そうと思っていたことのイメージが湧きました!」

「お、それはいいな」


 なんと、眠気を与えただけでも夢を見る効果はあるらしい。そして、それはセレノの研究の手助けになったようだ。……これって、セレノがそういうイメージを欲している時に使ってあげれば、どんどん研究が進むんじゃないか?俺の魔法、こういう使い方も有りか……大分ズルいけど。


「因みにどんなイメージ?」

「え?それは……言いたくありません」

「えーなんでだよ」

「……また可愛いとか言われちゃうし……いや、レーブ兄の成長が早いので、追いつかれないようにする為です」

「ふーん、そっかそっか」


 小声で言ったことを必死こいてかき消すセレノ。俺にはどっちの理由も、その行動さえも可愛いと思ってしまったが、それなら仕方ないな。俺は俺なりに頑張ってみるとしよう。



 何日か同じように研究を続けて、魔法名を言わずに発動する方法……無発声法と呼称することにするが、セレノは目標の、あまり意識せずに素早く発動する、ということができるようになっていた。本当に才能があるんだと思う。これに俺の魔法があれば、かなり早い段階で俺は寝られるようになりそうだ。

 と思っていたのだが、俺の研究でセレノを実験台にしようとすると嫌がられるようになった。聞くと自分の力で色々試したい、とか、寝ている時間がもったいない、とかが理由だった。……嫌われたわけではないと分かってどこか安心した自分がいる。


 で、俺はというと、無発声法で素早く魔法を出せるようになるより、微量なのをもっと強くできないか、というのを目標に研究を進めた。

 俺が求めているのは、森の守り神でさえも、長期間眠らせることが出来る、ということなので、なによりも威力を求めていく必要がある。そのため、罠にかけたレッドボア達にひたすら唸って出した魔法をかけまくっていた。

 その甲斐あって、レッドボア程度なら丸一日眠らせることに成功した。やり方に気付いてしまえば、後は繰り返しやるのと、魔力枯渇に気をつけるくらいのものだった。こんなに簡単なら、もっとできる人がいてもおかしくないのだが……そこは謎だ。



ーーーーー



 更に数か月研究を続けて、俺は銀級適性の魔物を丸一日眠らせることにも成功した。唐突な魔力枯渇を恐れて、じわじわと威力を増やしていったが、枯渇はしなかった。使い続ければ、総魔力量は増える、ということだろう。これが分かったことも、俺の中では大きめの成果だった。

 これなら案外何とかなるのではないか、と思い始めるが……森の守り神、つまり白金級となるとまた次元が違ってくるから……全く持って時間が足りないな。


 セレノはというと、何の不自由もなく微風を出せるようになっていたが、それ以上のことはできないでいた。微量でも出すだけなら感覚でできるようだが、威力を出そうとするとうまくいかないらしい。俺とセレノでは、考え方に違いがありそうだ。

 ……ここは俺が教えてあげたいところだが、俺も感覚であることに違いはないから説明し辛いし、なによりそれをセレノが望んでいない。だから俺は傍で見守るだけにしている。



 そうやって暫く研究に勤しんでいたが、ここらで肝心なことを思い出す。


「そろそろエルフの集落に行かなきゃまずいんじゃないか?」

「あ……忘れていましたね」


 最終目標がエルフの森に入って守り神を眠らせることなのに、そのための研究で時間を忘れていて依頼開始時にその場にいないのでは意味がない。

 そんなことをしてしまえば、冒険者ギルドからの信用は一気に地に落ちてしまうだろう。受けた依頼は責任を持ってこなさないとな。


 という訳で、結局大した休暇も取らないまま、俺達はエルフの森へと移動を始めた。エルフの森行きの馬車はないので、当然歩きで。

 道中の魔物は無発声法で眠らせ、必要に応じて風魔法で倒す。この世界は魔物を倒して経験値を得るようなルールではないので、魔力を節約できるところはとことん節約するのが賢いやり方だと思う。

 まあ素材を売って金にするというのも出来るが……需要がなかったり、供給が足り過ぎている魔物の素材は高く売れないからな。その辺りは放置するに限る。

 因みに必要に応じて倒している魔物というのは、金になる素材を持つ魔物と、食べられる系の魔物、レッドボアやホーンラビット等だ。

 保存食は持ってきているがまず美味しくないので、それらの肉を持ってきた香辛料をつけて焼いて食う。それでも特別美味い訳ではないが、幸いにもセレノは肉が好物なので、文句があがることもなく、そこそこの食生活を可能にした。

 野営については、それ用の高性能のテントを奮発して購入したので、特に問題はない。



 無発声法の練習を常々行いながらひたすら歩き続けていると、目の前には森が現れた。おおよそ十日程で、エルフの森に到着した。が。


「そういえば、一つ疑問なんだけどさ」

「ん、なんですか?」

「エルフの集落って、森のどの辺にあるんだろうな」

「……」


 少なくとも森を目の前にして気づくことではなかった。エルフの森は、エルフが住んでいる森全体のことで、エルフの集落はエルフが実際に家を作って住んでいる区画のことだった。全くの別物だが、何故かそれを一緒にして考えてしまっていた。


「ここまで来ておいて、聞きに帰るのもな……」

「帰るのは、嫌ですね……」


 だからといって、絶対に迷うところに入って彷徨い続けることになるのも、それはそれで辛い。ここは安全を考慮して、魔法王国に引き返すのが無難と言える。


「……引き返すか」

「……でも、場所を知ってる人、いるんですかね」

「……確かに。風魔法の貴族くらいか」

「そんな人が教えてくれるとは思えませんが」

「うっ……ヘクターさんとか……」

「お金取られそうですね」

「ぬぅ……」


 あれ、詰んでないか?エルフの集落、行けないじゃん。……集落に寄るのは諦めて、目的地に直行する冒険者一行についていくしかないのか……そう思った時。


 ガサッ……


「!?なに!?」

「え?」


 森のほうから物音がした。なにか魔物がいるのか……驚いて俺にしがみつくセレノを抱き寄せ、ゆっくりと後ろに下がる。森の中の魔物……なんとなく強そうな気がするから、油断できない。


 ガサッ……


「「……っ」」


 息をのむ。魔法を出せるように準備して、静かに出てくるのを待つ。


 ガサッ……ガサガサッ……


 それは、ゆっくりと姿を現した。


「はあ、はあ……やっと外……街……あれ……街は……?街が……ない……」



 そう呟いて、うつ伏せに倒れ、動かなくなった。その正体は……全身傷だらけの、エルフの少女だった。

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