054 所詮は凡人
魔法王国組編、再開です。
俺達魔法王国組が魔法の研究に手を付けてから、早二年。理解し難い授業と、試し打ちついでの討伐依頼を交互に延々繰り返していたが……未だこれといった成果は無い。
「もう後一年もないんだけどな……」
「もうどうすればいいか分からないです……」
ヘクターさんには色んなことを言われたが、結局凡人の俺達には全く理解できなかった。魔法をどうやって使っているのか考えてみろ、とか、効率的に魔法を使うにはどうすればいいか考えてみろ、とか。
考えてはみたものの、常識的な答えしか出てこないし、挙句の果てにはフィーリングじゃ、とか言い出しやがる。正直これ以上聞いても時間と金の無駄な気がするんだよな。
「よし……諦めるか」
「諦めるんですか?」
「うん、やっぱり俺達には分からないレベルなんだと思う。セレノは道場でも行ってみたらどうだ?」
「えっそれじゃあレーブ兄は……」
「俺は別にいいんだ。依頼は確実な成功を求められてる訳じゃないからね」
どうせなら自分の力を試したいと思って早めに研究に手を付けただけなので、成果が出なくてもそれはそれで問題はない。だがセレノには道場という上を目指せる場所があるので、まだ成長できる。
「でも、私はレーブ兄を蔑むような人がいる所には行きたくないです」
「ん?俺を蔑む……?ああ、あの貴族のおっさんか。あれは俺が非常識だっただけだよ。今なら分かるでしょ?」
「それは、そうかもしれませんが……蔑んでいい理由にはならないですよね」
「そういう文化なんだよ、ここは。許してあげて」
俺を悪く言ったことに対して、二年も経ってるのにまだ怒っていたセレノ。俺の為に怒ってくれるのは嬉しいが、何故相手がそんなことを言ってきたのかは理解しないとな。
あの時は確かにモヤっとしたが、魔法が全てのこの国で、所持魔法を変に隠そうとすれば、魔法を持っていない人と同等の扱いを受ける、ということを態度で教えてくれていたのだ。寧ろ感謝してもいいくらいだ。
「……レーブ兄は優しすぎます」
「そんなことない、俺は相手の立場になって考えてるだけだよ。……まあそこまで嫌ならいかなくていいけど」
まだ若いし、時間はたっぷりあるから、今すぐでなくても焦らずゆっくり力を蓄えていけばいいだろう。……と言う人に限って、ずっと成長しないままだったりするが……俺達はやる気はあるから、その例に当てはまることはない、はずだ。
という訳で、俺達はヘクターさんに諦める旨を伝えに行く。
「諦めるのか、もったいないのう」
「やっぱり凡人には分からない領域だったので……お金もキツいし」
「そうか。……しかし、お金を払わせておいて、何もしてやらんのはわしもちと気持ち悪いのう……仕方ない、最後に少しだけヒントをやろう」
「「ヒント?」」
「そうじゃ、これまで言ってきた内容のな」
詐欺師になりきれなかったヘクターさんは、凡人の俺達になんとヒントをくれるらしい。何故か慈悲深い人に見える。
「前に、効率的に魔法を使うにはどうすればいいか、と聞いたことがあるじゃろう?」
「はい、使う頻度を抑える以外に何も浮かびませんでしたが……」
「ふぉふぉ、そうじゃろうな。……実はそれは、魔法を使える皆が普段からやっておることの延長なんじゃ」
……なんだと?
「普段からやってること、ですか?」
「そうじゃ……おっと、ヒントはここまでじゃ。これ以上は答えになってしまうからの」
「えぇー……」
「大金を払いたいか?」
「いや大丈夫ですありがとうございます」
ふざけてその先を欲しがってみたら、痛い所を突かれた。まあでも皆がやってること、つまり自分達もやってることというのが分かったから、そのうち気付けるかもしれない。可能性が見えてきた。
「ふぉっふぉ、まあ後は自力で何とかするんじゃな」
「はい、頑張って考えてみます」
「うむ。……ところで例の依頼の件じゃが、お主らはわしらと一緒に移動するのか?」
「ん、一緒に?」
「うむ、場所はエルフ森の奥深くじゃからな」
「あっそうか」
依頼の流れで魔法王国まで来たのはいいが、本来の目的地がその奥だということを忘れていた。
因みにヘクターさんの言う「わしら」というのは、冒険者ギルド全体の一流の優秀なメンバーで結成される討伐隊のことだ。俺はそれとは別に、指名依頼として呼び出されているので、わざわざ一緒に行動する必要はない。
俺としては、できれば別行動でお願いしたい。一流の優秀な人達、つまり金級以上の人達に囲まれて息苦しくなることが分かっているからな。
「わしらはエルフの集落には滞在せんから、一か月前ぐらいから移動を始めることになっとるぞ」
「そうですか……エルフって、人間に寛容ですか?」
ここで俺は我慢できなくて、そんなことを聞く。前世の知識がある俺は、エルフは美形で、耳の先がとんがっていて、緑色の髪をした風貌、そしてプライドが高いというイメージを思い浮かべる。
この世界でもそんな感じなら、会ってみたいと思ったのだ。
「……寛容とは言えんのう。じゃが、彼らは森、そして風と共に生きる民族じゃ。昔は風魔法持ちの貴族は交流があったようじゃから、その風魔法があれば上手いこといくやもしれんな」
「……私?」
「なるほど……」
なんと仲良くなれる可能性ありときた。これはもう行くしかない。だが、その前に。
「セレノ、行ってみたい?」
「うーん……エルフって、風魔法使えるんですか?」
「うむ。高位のエルフなんかは大層なのを使えると聞いたことがあるぞい」
「わあ……それなら、行ってみたいです!」
セレノは自分の意思を示した。前は俺の行くところについていく、という感じだったが……ちゃんと自分の考えを出してくれるようになって、俺は嬉しく思う。……まあ二年も経ってるし、こんなもんか。
「よし。じゃあ先にエルフの森に行くことにします」
「そうか。じゃあわしらが着いた時に合流する、ということでよいな?」
「はい、それでお願いします」
そんな感じで、これからの行動は決まった。
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「エルフか、楽しみだな」
「そうですか?人間に寛容じゃないって、なんだか怖そうですが……」
「うーん、あんまり人と関わらないからじゃないかな?風魔法の貴族ぐらいしか大した交流ないらしいし。……ん?風魔法の貴族……」
「……あ」
今更気づいたが、ついさっきセレノが怒っていた相手が丁度該当してしまっている。まあ今も交流してるかは分からないし、向こうで偶々会う、なんてこともないだろう。そもそも別の貴族の家系かもしれないしな。
「まあ、会ったらその時だ。気にせず行こう」
「……はい」
「というかそんなことより魔法だよ。ヘクターさんのヒント、なんとしてでもモノにしなきゃな」
「……そうですね!たしか私達が普段からやってること、ですよね」
「そうそう」
エルフの森に着くまでは、ずっとこれを考えることになりそうだ。




