053 実力は証明
「ワイバーンが、もう一匹……?」
「嘘だろ、なんでいんだ……?」
「……番でしたか」
「「……番……」」
空を旋回しながら、既に殺気を剥き出しにしているワイバーン。先程の個体よりも大きいのは、これが雌の個体である為。雄が倒されるところを見て、激昂しているのだろう。
「……これはまずいな……」
「さてどうするか……っておい、来るぞ!」
休息を取る時間も作戦を練る時間も与えず、二体目のワイバーンは襲い掛かってくる。
『グギャァァァァッ!!』
「くそっ……とりあえずさっきと同じ連携でいくぞ!!」
「おう!!」
「分かりました!!」
先程とは状況が全く違うが、それでも戦わないわけにはいかない。冒険者という職業に、イレギュラーはつきものなのだ。
「おら、こい!!」
『グギャァァッ!!』
「くっ重いな……」
両目でしっかりとカトスを捉えているワイバーンは、怒りのままに
爪を振り下ろす。体重をかけたその威力は、一人で支え切れるものではない。
「カトス、一回退け!」
「駄目だ、このまま引き付けないと……ぐあっ」
「カトスッ!!くそっやるしかない!」
「ハンクさん!」
カトスが岩壁に突き飛ばされ、意識を失う。残った二人が抑えにかかる。
『グギャァァッ!!』
「ぐっ威力が強すぎる……これは回避優先だ」
「ですねっ……ですが速くて避けきれない……」
金級が苦戦する程に暴れまわるワイバーン。金級四人、この個体に至ってはそれ以上を要求されている状況で、二人しかいない今どうなるかは分かり切ってしまっている……
『ゴアァァ!?』
「なっなんだ!?」
急に妙な悲鳴をあげ、攻撃を止めるワイバーンに困惑する金級達。その口からは、剣の柄の部分が見えていた。
「これは……?」
「……ナツキ様?」
「……ナツキだと?」
その剣に見覚えがあったエイジが辺りを見回すと、カトスが飛ばされた方から青年が歩いてきていた。
「そのまま攻撃を続けてください。僕も削ります」
「……はい!」
「……分かった!」
手にカトスの双剣を持った青年に、金級二人は従った。口に刺さった剣を引き抜き、血をダラダラと流したワイバーンは、低く唸り声を発して目の前の三人を睨みつける。が、一人は姿を消した。
『グァ……?』
「消えた……どういうことだ……」
全く状況を理解できていないハンクだが、それはワイバーンも同じようなものだった。辛うじて見えているが故に高速で動き回るものに目を奪われ、明らかに他への注目が薄れているワイバーンに、ハンクの体は無意識に長剣を振るっていた。
『グゥゥゥ……』
目の前の二人以外に注目を割かなければならない状況で、ワイバーンは碌に防御態勢を取れず、長剣は肉の表面を切り裂いた。それ以外にも、ワイバーンの全身は少しずつ傷が付き、血が噴き出している。青年が双剣で傷をつけてまわっているのだ。
「このまま押し切れ!!」
「せいっ!!」
決定打を与えようと、ハンクとエイジが同時に動き、大ぶりの一撃を繰り出す。が、
『グゥゥァァッ!!』
「なっ!?」
「ぐっ!?」
ワイバーンはついに細かい攻撃を無視し、見え見えの一撃を受け止め、掴みかかった。そのままハンクへ向けて口を開け、炎を溜め始める。
「まずいっ離せくそっ!」
「ハンクさんっ!!」
「動かないで!!」
そう聞こえた瞬間……ワイバーンの口にまた剣が差し込まれる。今度は二本。激しい痛みに、ワイバーンは掴んだものを離し、空へと逃げ出す。
「ナツキ様、これを!!」
エイジは自らの剣を放り投げた。宙を舞った剣は、一瞬のうちに消える。飛び上がりながらエイジの剣を手にした青年が、飛ぶワイバーンへと迫っていく。
「おっらああああぁぁぁぁ!!」
……
『グァァァァッ……』
ワイバーンは、腹から首までを切り刻まれ……肉塊となって地上へ落下した。
ーーーーー
ワイバーンの番を倒したという話は、エイジの働きによって当日のうちに冒険者ギルドまで伝わった。勿論、他国からやって来た銀級の冒険者が止めを刺した、ということも。
それによって、里では鍛冶を止めるほどの大きな祝杯が挙げられた。……酒を飲んでいる大半はドワーフだったが。
「ナツキは、すごいよね……」
「僕はすごくないよ。ワイバーンを倒せたのは、金級の人達の力とミーナの魔法ありきだし」
青年と少女が会話しているのは、宴会場ではなく、静かな里の入り口。酒を飲む習慣がない二人には、ドワーフの宴会の勢いが激しすぎて、付き合っていられなかったようだ。
因みに門番のガンテツはワイバーン討伐の報告をしに里に入った後、戻ってきていない。そのまま酒を飲んでいるのだろう、職務放棄だ。
「……なんであの時、私を背負ってまで助けたの?」
「え?それは……ミーナが仲間だから」
「……仲間、かぁ」
少女は自分の足を撫でながら、何処か残念そうにつぶやく。
「うん。ミーナに居なくなられたら困るし」
「え……?」
その一言に、少女は顔を上げる。
「……ミーナがついてきてくれなかったら、僕は刀剣王国に来ても、なにも出来なかったかもしれない。……うん、ミーナがいてくれたから頑張れたんだ」
「……ナツキ……」
「えっミーナ?」
さらっとそんなことを言う青年に、少女は涙を抑えることができなかった。
「私……ナツキの為になれてた?」
「うん。いつも助かってるよ」
「……でも、足、怪我しちゃったよ?当たらないようにしようって、言ってたのに……」
「あれはあくまで理想、相手が相手だから仕方ないよ。それに、そんなのいくらでも治せるじゃん」
「……怒ってなかった?」
「え?なんで?怒るようなことなかったよ?」
青年の期待に応えることができなかった。それで、青年を怒らせてしまった。見捨てられてしまう。……そう思っていたのは、少女だけだった。
「……そっか……よかった……」
「うん……だから、泣かないで?」
「……うん……うん……」
「……もっと泣いてない?」
「……泣いてないよぉ……」
「えー……うわっ!?」
少女は突然青年に抱き着いた。それは涙を隠す為なのか、気持ちが溢れてしまった故の行動なのか……少なくとも、青年にはまだ分からない。
「ミーナ……」
「おっなんだ、ここにいたのか……っておいおい、熱いねぇ!」
「なっガンテツさん!?いやこれは」
「はっは、分かってる分かってる、誰にも言わねぇよ。それより皆探してたぞ、そろそろ戻ってやれや」
「分かってる分かってるって、それ……まあいいや。……ミーナ、行こう」
「……うん」
ガンテツと青年が話をしている間も……少女は、青年から離れることはなかった。
刀剣王国組編、終了です。
次話から魔法王国組の話を再開します。




