052 実力は本物
「よし、一発も当たらないようにするぞ」
「うん!」
作戦開始によって、二人は並んでワイバーンに向かっていく。エイジに防御魔法をかけてもらっているが、はなからそれに頼るつもりはないようだ。向こうの攻撃が痛いのなら当たらなければいい、そんな考えのもと囮役に臨む。
作戦としては、銀級の二人がワイバーンを引き付けて下に降ろすのが前提で、出来るのならばどうにかして隠れていた岩場の辺りまで引き寄せ、そこを金級三人が奇襲をかける、というのを想定している。
万全な状態のワイバーンに正面から勝つには金級の人数が足りないので、まずは弱らせることが重要なのだ。
『グルル……?』
はじめから辺りを警戒していたワイバーンは、向かってきている二人の姿を一瞬にして捉えた。油断しているように見せている二人が攻撃の射程範囲に入るまで、じっと動かずにこちらを凝視し続けている。
『グルァァッ!!』
咆哮を合図に二人は身構えた。頭上にはワイバーンが、火球を複数吐きながら急降下してきている。……しかし、火球は二人を狙っていないように見える。
「ん、どういうことだ……あ、まさか」
よく見ると火球は円を描くように、そしてワイバーン本体はその中心。その目は青年ではなく、少女を捉えている。
「え、え?」
「ミーナ、後ろに走れ!」
「!分かった!<加速>!」
青年の指示に素早く反応する少女だったが、
「うっ熱……」
ギリギリ足に火球をくらってしまった。しかし少女が先程まで立っていた場所には既にワイバーンの爪が地面に食い込む。火球に囲まれて逃げられずにいると、最悪の事態になっていた。
このように戦略的な動きをするところも、金級適性に設定される魔物の一つの特徴なのだ。
「ミーナ、大丈夫!?」
「ちょっと足に当たっちゃって……」
座り込む少女に青年が駆け寄る。その足は火傷を負っていた。防御魔法は皮膚の硬化によってダメージを抑えることができるのだが、状態異常には対応していない。
「立てそう?」
「うーん、厳しいかも……って、後ろ!」
『グルルゥ……』
渾身の一撃を外したワイバーンが、苛立ちを曝け出しながら近づいてきていた。しかし逃げようにも、少女は立ち上がれそうにない。
「ナツキ、逃げて」
「ミーナは?」
「囮になる」
「それはダメ。……乗って」
じわりじわりとワイバーンが距離を詰めてくる。
「えっでも……」
「いいから乗って!」
青年は強引に少女を背負い、間一髪のところでワイバーンの噛みつき攻撃を躱した。
「ミーナ、魔法!」
「……うん!<加速>!」
そのまま速度を出し、岩場に向かって走る。少女を背負っているからか、後を追いかけてくるワイバーンの方が少しだけ速い。
『グルァァッ!!』
「やばいっ追いつかれる!」
「くそっ間に合えぇぇぇ!!」
もう止まることができない程に前のめりになって加速し……
「伏せろ!!」
倒れ込んで姿勢を無理矢理低くした。その上を長剣が通り……
『グルァァッ!?』
ワイバーンの片目を抉った。予期せぬ一撃に戸惑いと痛みが混ざった声を発したワイバーンは、即座に距離を取る。
「よくやった、二人とも!」
「目をやれたのはでかいぞ、これならいける!」
「後は私達にお任せを!」
青年達の前に金級三人が並び立ち、ワイバーンに対峙する。なんとか、作戦成功だ。
「……ごめん、ナツキ……」
「はぁ、はぁ……なんとかなったから大丈夫。それより、まだ終わってない。手当をしておこう」
「うん……」
青年は冷静だった。反省は帰ってからでもできる、そう考えて今できることを優先したようだ。だが少女にはそれが怒っているように見えて、内心冷静ではいられなかった。
「ハンク、俺がメインで引き付けるから、お前が死角から攻撃しろ」
「分かった、エイジさんも隙を見てやつを削ってくれ」
「分かりました!」
しっかり連携を取り、それぞれの役割を決めて隙なくワイバーンに斬りかかる。基本的なことだが、声掛け、認識合わせはパーティで活動するのに何より重要だ。そして、ランクが低い者程これをおろそかにしている。
「おらおらっ!」
「はっ!!」
「せいっ!!」
『グルゥッ……』
金級三人の怒涛の攻撃に防戦一方のワイバーン。そしてついに。
「これで終わりだっ!!」
背後に回ったハンクが、それまでの攻撃で傷になった部分に長剣を突き刺す。内臓を貫かれ、身動きが取れなくなったワイバーンは、小さく唸り声をあげて倒れ込み……絶命した。
「勝った!!」
「よっしゃぁ!!」
「やりましたね!!」
「終わっちゃったか……」
「……ナツキ?」
「いや……僕が倒したかったなって」
「……そっか」
温度差は違うものの、討伐隊はワイバーンに勝利したことを認識した。犠牲者も出さず、目的を達成することが出来た……
『グギャァァァァッ!!』
「あ?」「は?」「え?」
しかし頭上には……ワイバーンが飛んでいた。




