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051 実力は指標

 青年達が来たことで、里ではすぐにワイバーン討伐隊が結成された。メンバーは青年達とエイジを含め、合計五人だ。……怪我をした冒険者のパーティの、残った二人に合流しただけ。現在里に派遣されていたのは、たった一組の冒険者パーティだけだったようだ。


「よろしく頼む。俺達はこれでも金級なんだが、環境がワイバーンに有利みたいでな。無様にも仲間を傷つけてしまった」


 敗因を語っているのは、ハンクという男。両刃の長剣を背に担いでいる大きな体は、歴戦の傭兵のような迫力がある。頭は緑の短い髪を立てらせており、妙なこだわりがありそうだ。


「まあ俺達とエイジさんが金級、あんたらが銀級なら、何とかなんだろ」


 ランクを見てワイバーンに勝てると考えているのは、カトスという男。此方は双剣を背に担ぎ、焦げ茶色のモヒカンをきめている。顔は何処か軽薄そうだ。


「エイジさんって、金級だったんだ……」

「ええ、まあ。それくらいはないと、他国から冒険者をスカウト、なんてことできませんからね」


 やはりエイジはランク的にも中々の実力だった。軽薄そうな男にも一目置かれているようにも見える。


「銀級のあんたらは出しゃばってくれんなよ。面倒が増えるからな」

「カトス、そういう言い方はよせ」

「あ?その通りだろ。あいつと戦ったこともないやつに不用意にウロチョロされるとなぁ、」

「分かってます、僕等はあくまで援護で来たので」

「……チッ」


 金級の二人が揉めだしたところで、青年はさっさと返事を返す。

 冒険者は、高ランクの者程人数が少ない。そして、どうしてもランクで優劣を判定することが多い為、自分と同じかそれ以上でないと、相手を尊重しない者が多数。つまり高ランクの者は大体自分中心だ。

 現にカトスもそういう人間だが、実力主義のこの世界では仕方のないことだと言える。


「いいの?あんなのに従って?」

「うん、その方が色々楽だから」


 青年は既にそういうものだと割り切っているようだが、少女はまだ納得できないらしく、青年にコソコソと聞いている。


「色々って?」

「……あれでもランクに差があるのは事実だから、上の人に従っていおけば僕等はそれ以上は考えなくてもいいし、連携もうまくいくと思う。それに……先輩は敬うべきだ」


 既に似たような状況に経験があるのか、青年は最後の言葉は一瞬目を伏せて、意味ありげに囁いた。少女の目を見ながら。


「……なるほど、分かった」


 不本意なところはありそうだが、それでも青年の言う事には従う少女。それは青年の言った内容が良かったからなのか、単に青年が言ったからなのか……少女は声を小さくするために近づいた距離を少し離して、顔を隠すように青年を見ずに頷いたが、その真意は少なくとも青年に分かることではない。


「おい、コソコソしてねーで行くぞ」

「はい」


 初対面は決していい雰囲気とは言えないが……それでも討伐隊は出発した。



ーーーーー



 道中は、銀級の青年達が魔物討伐を担当した。金級メンバーはワイバーンに体力を温存しておきたいから、らしい。都合よくつかわれている気がしなくもないが、道理は通っているのでなんとも言えない。

 とはいえ、青年もワイバーンを討伐したいと思っているので、道中で全力を出すようなことはしない。ストーンリザードが出てきても、少女に鱗を砕いてもらって、肉に剣を入れるというエイジのやり方を模倣した。カトスに舐められようが、倒せていれば問題はないのだ。エイジは不満そうだったが。


 そうやって、一行は順調に山道を進んでいる。だが、ワイバーンがいる場所はこの先で合っているのだろうか。青年は疑問に思った。


「ワイバーンって、何処にいるんですか?」

「あ?あんたらは黙って雑魚に集中してろ」

「まあまあ、そう言うな。……ワイバーンは、ここらの採掘スポットの一つに住み着いたんだ。他にもスポットはあるから今はまだ困ってないんだが、放置して荒らされたり、他に移動されたりしたらまずい。だから分かっている内に早めに討伐しておく必要があるんだ」

「なるほど」


 ハンクは親切に説明してくれた。上に立つ者が全てこういう人なら、下位の冒険者はもっと成長していけるだろうが、現実は甘くない。


「で、その採掘スポットはもうすぐなんだ。ここらで俺が先頭になろう」

「ありがとうございます」


 少なくとも、自ら先頭に出たハンクは善人であることが分かる。



「……おい、いたぞ。一旦隠れろ」


 ほどなくしてハンクは片腕を広げ、後続を制止させる。


「どこにいた?」

「採掘スポットの上の崖だ。辺りの様子を伺っているようだった」

「チッ、まだ警戒してやがるのか……まあでも移動してるよりはマシだな」


 そう呟いたカトスは、指をポキポキと鳴らし、既にやる気満々だ。


「あれだけ高いと奇襲は無理だな……まずは下に降ろさないと」

「よし、そうと決まれば行動開始だ。あんたら、囮になれ」

「え、囮ですか?」

「ああ、俺はそう言った。あんたらが気を引いている間に、俺達がやる」

「そうだな……申し訳ないが、それが一番可能性が高いと思う」


 さも当たり前のように、カトスは青年達に囮役を命じる。ハンクもそれに同意を示した。


「まあ、そうですよね」

「ちょっと待ってください、いくら何でも急過ぎではないですか?」


 意義を申し立てたのは、青年達ではなくエイジだった。


「エイジさん、あんたも冒険者なら分かるだろ?囮にするなら低ランクのやつの方が適任だと」

「それは、そうですが……まだ来たばかりの人には重すぎるかと……」


 囮ということは、いち早く狙われることになる。そして相手が相手である以上、命を落としかねない。実力があると分かっている者がそんな役をしては、ワイバーンを下に降ろした後に残る戦力が足りなくなる可能性がある。

 だから、金級よりも実力が低いとみられる銀級を囮役にした方が、全体的には効率がいいのだ。

 しかし、そもそもこの場に金級が四人もいない為、倒せるかどうかも分からない状況ではあるが……


「大丈夫ですよ、エイジさん。僕達はできます」


 それを理解して返した青年の言葉に、少女も真剣な表情で頷く。が、エイジの表情が変わることはない。


「……そう言われて送り出して、帰ってこなかった人を何人か知っています。私はもう、貴方達のような人材をみすみす死なせたくないんですよ」


 エイジは冒険者の派遣に関わっている為、やはりそういう話はあるのだろう。自分のせいで、意欲のある人材が失われている。そんな風に思ってしまっていても、おかしくはない。


「……死ぬ前提で話をするのはやめてください」


 しかし青年は、エイジの弱音によって気持ちを変えることはなかった。


「ナツキ様……」

「相手がワイバーンであることは承知でここにいるので、それで死んだのなら僕は悔いはないです。まあ死ぬつもりも毛頭ないですが」

「おまえ、結構芯のあるやつなんだな……エイジさん、あんたの気持ちも分からないわけじゃねー、でも本人がこう言ってるんだから任せてやれよ。どうしても心配なら、防御魔法かけてやればいいんじゃねーのか?あんたのなら十分だろ」

「……そうですね、それならまだ納得できます」


 ここまで言って、漸くエイジは折れた。


「エイジさん、なんだかお父さんみたいだ」

「へへっ、違いねーわ」

「はは……まあ実際に子どもができたら、貴方達も同じように思うはずですよ」

「ほう、そうなのか?」


「……私のお父さんも、こういう感じだったのかな……」



 猫耳の少女だけは違う認識の仕方をしたようだが……殺伐とした空気が薄れた今、またワイバーンに勝てる確率は上がったのかもしれない。

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