050 実力は評価
数日の準備期間を経て、二人とエイジはドワーフの里へと向かっていた。
「エイジさんだけなんですね」
「はい、今は私くらいしか自由に動ける者がいませんので……でも私も結構やるんですよ?」
自信ありげに胸を張るエイジ。剣士達をスカウトしてこれるくらいなので、そこはそもそも疑っていない。
『ギャオオオッ!!』
「お、魔物が出ましたね。丁度いいです、私の実力をお見せしましょう」
ゴツゴツした岩陰から這い出てきたストーンリザードを実力の披露に使うようだ。
ストーンリザード。全身を岩のような鱗で覆っている為、基本的にダメージが通りにくい魔物だ。レベルは銀級適性だが、如何様にして倒すのか。剣は通らなそうだが……
「<防御>!」
防御魔法を自身の腕にかけ……
「せいっ!!」
『ギャオオッ!?』
そのままストーンリザードをぶん殴った。腰の剣は使わず、まさかの拳。刀剣王国らしからぬ戦い方だ。反撃も許さない怒涛の連打で、硬い鱗を砕く。
「そして……せいっ!!」
『ギャ……オ……』
鱗を砕いて、肉が露呈したところを剣で一閃。剣を鞘にしまったタイミングで、ストーンリザードは絶命した。
「……まあこんなものです」
ふうっと息を吐いて、此方を向くエイジ。
「……野性的ですね」
「剣だけじゃないんだね……」
「この魔物ははじめから剣を使うと刃毀れを起こしてしまうので……」
刀剣王国の剣士でも剣を使わないタイミングがあるようだ。そんな相手の何処が丁度よかったのか……二人は首を傾げたが、それを察してエイジが説明を始めた。
「刀剣王国では、剣が何よりも大事ですが、それは何が何でも剣を使って戦うという意味ではありません。ぞんざいに扱えばすぐに使えなくなってしまう。そんなことをしでかすようなら、まだ剣士とは名乗れませんね」
刀剣王国にもそのあたりの流儀があるらしく、それを伝えたかったようだ。確かに、命にも等しい得物を雑に扱うようでは、この先活躍していくことは難しいだろう。
「その点、貴方はすごいです。私達とは違ってどんな相手にも剣一本で立ち向かい、力任せに見えて繊細な太刀筋。剣を見てもしっかり手入れされている。大事に扱っていることが分かります」
「そう、かな?」
急に自分の話になって褒められたことで、照れながら頬をかく青年。実際、刀剣王国の人間が剣を使わなかったり、使い分けるところを自力で何とかしてしまっている為、既に刀剣王国の人間の実力を上回っている可能性がある。本人は特にそういう意識はしていなかったようだが。
それからは二人もストーンリザードなどを倒し、ここらの魔物に慣れてきたところで、その日のうちにドワーフの里に到着した。
「おうエイジ、やっと来たか。……ってなんだ、少な過ぎやしねぇか?」
声をかけてきたのは、いかにもドワーフといったように髭を蓄え、身長の低い小太りの男。しかし腕の太さは相当なもので、背中には体の大きさに比例していない巨大なハンマーが担がれている。
「そうなんですよ、ガンテツさん。たくさん集まってはいたんですが、ワイバーンと聞いて皆帰ってしまって……」
「そうか。ふんっ、他国の者は弱腰ばかりなんだな」
ガンテツというドワーフは鼻息を大きく吹き出し、偉そうに腕を組む。そして、エイジの後ろにいた二人に目をやる。
「で、そこの二人は?」
「はい、ナツキ様とミーナ様です。ワイバーンと聞いても全く動じませんでした」
「……ほう?」
興味を示したのか、短い脚でゆっくりと歩み寄ってきた。
「なんとも打たれ弱そうだが……大丈夫なのか?」
「大丈夫です、私が保証します」
「そうか、エイジが言うならそうなんだろうな……」
背を向けて元の立ち位置に戻っていく……
「<石礫>!」
「うおっと?」
「え!?」
急に振り返ったガンテツが近距離で土魔法を飛ばしてくる。が、二人は驚きながらも一瞬で反応して全て躱した。
「……わっはっは!やるな!これなら俺は文句ない!ようこそ、俺らの里へ」
不意打ちを躱され、急に上機嫌になったガンテツ。二人を認めた瞬間である。
「流石です。ガンテツさんの不意打ちに完全対応できる人は中々いないですよ」
「知ってたんですか、言っておいてくださいよ」
「びっくりしちゃった」
「言ったら意味ないじゃないですか。それに、貴方達なら大丈夫だと思っていましたよ」
いわば里に入るための試験のようなものだった。ドワーフは気難しい所があるものの、一度気に入られれば陽気で、頼りがいのある種族なのだ。
「おいおい、中々いないって、お前もそうだろうが」
「あ、そうでしたね」
思い出したように頭を掻きながら答えるエイジ。エイジがガンテツと普通に会話できているのは、当然ガンテツに実力を認められているからだ。
そして試験があるということも知っているということは、何度も冒険者を連れてきているのだろう。国と里の橋渡しのような存在だろうか。
エイジがかなり優秀な人間であるということを知ったところで、いよいよ里の中に入っていく。
山の壁に穴を開け、中をくり抜く形で作られており、壁は岩肌がむき出しになっている。居住スペースもそれ用に残した土を掘って壁際に並べて作られていて、計画的に里を作ったのが分かる。奥からは絶えず金属を叩く音が聞こえている為、鍛冶は日常的に行なっているようだ。
「暑いな……」
「そうか?ああ、お前さんらははじめてだよな。奥でずっと火を焚いてるから、その熱がこっちまできてんだよ」
「ふーん、武器とか作ってるの?」
「そうだ。エイジの腰についてるそれも、うちで打ったやつだな」
「へぇー」
「かなりいいですよ、もう数年は使ってますね」
エイジは腰に下げていた剣を手に持ち、此方に見せてくる。光沢のある銀色の刀身は、剣自体が光っているようにも見える。
「いいな、僕も欲しい」
「そうだな……じゃあお前さんの実力を俺らに分からせてみろぃ。そしたらそれに合わせたもんを打ってやれるだろうよ」
「やった。頑張ろうかなー」
「……無理はしないでくださいよ?」
「大丈夫ですよ」
エイジが気にしたのは、ワイバーンを自分が倒すと言い出すのではないか、ということだ。元々援護をしてもらうという形で呼んできている為、任せるのは無責任だと思っているのだろう。
だが、現状ワイバーンを倒せる見込みがあると分かっているのはギルドマスターのトモエくらいで、そのトモエはギルドを離れられない。
このままだと状況がいい方向に変わることはない為、誰かが挑戦しなければならないのだ。
それに、ワイバーンがどう動くかは分からないので、あまり悠長にしている時間はないのだが……
しかしエイジの心配に対して大丈夫と答えた青年は、既に目標を定めていた。ドワーフ達に青年の実力を最大限見せつける方法……それはもう、一つしかない。
大丈夫という言葉は、何もワイバーンには挑戦しないと言っている訳ではない。エイジがそれに気づくのはいつになるだろうか。
「お前さんら冒険者は、ここで寝泊まりしてもらうことになっとる。負傷者と同じ部屋になるが、許してくれぃ」
案内されたのは、かなり大きめの部屋。普段は里に来た冒険者がここに皆で集まって寝ているらしいが、今は怪我をした冒険者達が横たわっていた。
「問題ないよ。それより彼等の状況は?」
「ああ、それはあそこにいるのに聞いてくれ。俺は門番の役なんだ」
「なるほど、分かった」
目線の先には、女性のドワーフ。冒険者達の世話をしているらしい。
「じゃあ、俺はここまでだ。そろそろ仕事に戻んねぇとな」
「ありがとう、ガンテツさん」
ガンテツは手を挙げて、里の入り口の方へ踵を返した。
「エイジさんと……あれ、見ない顔だな……」
ガンテツを見送っていると、後ろから小さく声が聞こえる。
「僕達はワイバーン討伐の援護に来たんだ」
「おお、それは……頼む、アイツを倒してくれ!俺はまだマシだが、他の仲間もやられて……っ、うぐ……」
「無理しちゃだめだよ!あんたも相当だからね」
声を大きくした冒険者が腹を抑えた途端、ドワーフの女性が飛んできた。女性が元いた場所には、包帯で身体中を巻かれた人が横たわっている。辛うじて息はあるようだが……
「やっぱり、それしかないよね……」
「……ナツキ様?」
「いや、何でもないです」
ナツキのワイバーン討伐意欲は、さらに上がっていった。




