048 文化は独特
「大丈夫なんでしょうか……」
「まあ、頑張るしかないな」
ヘクターさんの提案を受け入れた俺達は、これで勉強になるのだろうかと不安を募らせる。
提案はこうだった。
金額を現実的なものにする代わりに、魔法の概念的な部分を具体性に欠ける程度に講義する、というものだ。何を言っているのか、という感じだが、要するに答えは言ってくれず、後は察しろ、みたいなところまでしか説明してもらえない。それだけで理解できる人はいないだろうということで、妥協してもらえた。
それならタダでもよくないか、と思ったのだが、そのさわりの説明の時点で異次元らしく、それだけで金をとれるレベルだという。混合魔法もそのあたりを理解していないと使うことはできないのだとか。
それに現実的とは言ったものの、それでもそれなりにキツい額なので、金稼ぎはしっかりしないといけない。下手したら何も得られず、金を溶かすだけの詐欺にあったような結果に終わるかもしれないが……ギルドマスターは信じていいと思う。後は俺達の理解力次第だ。
とりあえず今日はもう何もしないことにしたので、簡単に観光をして、温泉に入って終わろうと思う。
そうして適当に街の中を歩き回っていると、外から見えた高い城のような建物の前に出た。先端を見上げると首が痛くなる程だ。
「どうしてこんなに高いんですかね」
「確かにな……ん?」
ずっと見上げていると、城の上の方から何かが落ちてくる。……人だ。
「レーブ兄?」
「いや、人が……あ、大丈夫か」
落ちてくる人を指差す。しかしよく見ると、モモンガのように腕と脚の間に膜がついている服を着ている。むしろダイブしているようだ。
更に見続けていると、他にも降りてきている人がおり、先頭の人の後を追うように滑空している。……なぜあんなに飛べるんだ?風は吹いていないのに。
「……風魔法ですね」
「あぁ、なるほど。ということは風魔法の道場的なやつなのかな」
「そうかもしれないですね」
風魔法があれば、ある程度空を飛ぶことも出来るのか。これは結構羨ましいな。
「私にもああいう風にできるでしょうか」
「いけるんじゃないか?ちょっと危ないけど」
風魔法を使えるセレノは興味があるようだが、飛び降りていることには変わらないからな……不安ではある。
「うちの道場に何か御用でしょうか?」
「……え?」
後ろから突然声をかけられたので振り向くと、緑色の髪を整え、高そうな衣服を身に纏った壮年の男が、二人の個性的な従者を連れて立っていた。貴族かなにかだろうか。
「見たところ、お二人はこの国の者ではないようですが?」
「……あ、ああ、そうです。街の外からこの建物が見えて、なにかなぁ、と思って。何分知識がないもので」
「そうでしたか。……冒険者か何かでしょうか」
「まあ、そんなところです」
「魔法は何かお持ちで?」
この人なんなんだよ。いきなり話しかけてきて、質問攻めとは。そして、やっぱり魔法は気になるらしい。しかし、個人情報という概念はないのか。
「……言わなければいけないですか?」
「おい、主人に向かってなんだその態度は?」
急に前に出てきた、杖を持った男。その目は明らかにこちらを見下している。
「アル、いけません。……勿論それは貴方がたの自由意志です。ですが――」
「……ですが?」
「この国でそれを言って、相手にどう思われるかは……知っておいた方がいいですよ。では、失礼」
一気に壮年の男の声のトーンが下がり、目も人を見るものではなくなっているように思える。そんな目線をこちらに送った後、横を通り過ぎていった。アルと呼ばれた男も、すれ違いざまにざまあみろと言わんばかりに半笑いを浮かべていた。もう一人の従者は、はじめから態度は変わらず……興味すらないようだった。
「……なんだよ、あれ」
「……怖いですね」
うちの道場、と言っていたから、明らかに関係者なんだろうが……しかし、どこかで見たことあるような顔なんだよな……気のせいだろうか。
なんにせよ、ここ魔法王国で魔法を秘匿するのは良くないということは分かった。
五属性の道場の中では一番見たかった風魔法の道場の様子を見られたが、気分が悪くなったところで、宿に戻った。今日の締めは、待ちに待った温泉だ。流石に肩こり腰痛に効くとかいうような効能はなく、ただのでかい風呂だが、それでも気分は晴れるだろう。因みに混浴ではない。
「あ゛あ゛あ゛ぁ、生き返るぅ~」
「……おいおい、どうした?大丈夫か?」
「……あ、いや、気持ちいいって意味だ」
「なんだよそれ。死にかけなのかと思ったぞ」
「そんなことはない、気にしないでくれ」
なんとなく出た言葉を真に受けられて少し焦ったが……久々の風呂、気持ちよすぎる。やはりお湯に浸かって芯から温まらないと、疲れは取れない。こんなにいいものが、何故他の国にはないのか……大衆浴場でいいから作るべきだ。
しかしこれだけ気持ちいいと出た時にぐっすりと寝られそうだが、そんなことはないんだろうな。状態異常で寝られないんだから、どれだけリラックス状態になろうが関係ない。体感的には異常がない分、やるせない気持ちになる。
少し長く浸かりすぎて、のぼせてしまった。久しぶりだからといって欲張ったのが原因だな。
窓を開けて、とりあえず横になっていると、セレノも戻ってきた。
「ふぅ……」
「どうだった?」
「すごくよかったですが……なんだかクラクラします……」
「セレノもか」
セレノも同じようにのぼせていた。どうやら出るタイミングが分からなかったらしい。初めてなら仕方ない。
「水と布をもらってくるから、横になってて」
「はい……あっ」
「おお、大丈夫?」
ふらついてこちらに倒れてきたところを受け止めた。
「立てそう……じゃないな。……よっと」
「!?」
無理に立たせるのもよくないと思い、お姫様抱っこの要領で抱きかかえてベッドに寝かせた。セレノは驚いて顔を抑えていたが、まあ問題はないだろう。
大丈夫そうなのを確認して、水と布をもらいに下に降りる。俺ものぼせるのは久しぶりなので気分はよくないが、それでも慣れてはいるから歩くぐらいはできる。
もらってすぐ水を一杯飲み、少しマシになったところで急いで部屋に戻る。セレノに水の入ったコップを渡し、その間に布を濡らす。
「これを額にのせておくと楽になるから」
「……はい、ありがとうございます……」
さっきより顔が赤いように見えるが、気のせいだろうか。返事も何処か恥ずかしそうに返ってくる。
「大丈夫?」
「……さっきの、すごくドキドキしました……」
「さっきの?」
「横向きに持ち上げられて、……顔が近くなって……」
「……あー……」
負担をかけないようにしたのが、寧ろ逆効果だったようだ。たしかに、いきなりお姫様抱っこされたらそう思うのかもしれない。……そう言われたらこっちも恥ずかしくなってくる。
「……ごめん、そこまで考えてなかった」
「いえ……よかったです。またしてください」
「またって……まあその内ね」
なんか最近本当にセレノを愛おしく感じる。狙って言っているのか無意識に言っているのか分からないが、心臓に悪いことを平気で言ってくることが増えた。平然を装うのがもう限界に近い。いや、もう装えていないんじゃないか?
でも、俺からはもう必要以上に距離を詰めることはしない。どうせ離れることはないんだから、ゆっくりやっていければ、それでいいと思う。
セレノからすればまだ早いようだから、俺の方は余裕を持った付き合いをしていきたい。
そうやってそっちの方面は進展がないまま、翌日から俺達は身になるかどうかも分からない魔法の研究を始めた。
次話から刀剣王国組の話になります。(五話分)
魔法王国組の話はその後再開します。




