047 教養は貴重
フレイムバードを二撃で倒した俺達は、魔法使い達に質問攻めにされた。俺は秘伝の妨害魔法だから教えられないの一点張り、セレノはお父さんに教えてもらっただけの一点張りで押し通した。解放されたのは、夕飯時になった頃だ。不満げな魔法師達だったが、飯には勝てなかったようだ。
「結局滅茶苦茶目立ってしまったな」
「私、嘘はついてないんですけど……」
「まあ付け加えるなら……風魔法のエキスパートの、お父さんだな」
セレノ的には普通だったらしいが、確かに強いと聞くロランさんに教えてもらえれば、強くなるのも不思議ではない。尤も、その教えをちゃんと吸収できて、当たり前に使えるセレノもすごいんだけどな。
翌日から、魔法師達はすごく張り切っていた。バカにされたのが気に食わなかったのだろう、魔物を倒すためだけに魔法を使うようになった。そのおかげで俺達が動くこともなくなったので、楽になっていい。楽しみは一つ消えたが。
そうして、俺達には何事もなく毎日は過ぎ、馬車はついに魔法王国の領地に入った。遠目に、高く聳え立つ城のようなものが見える。
魔法王国……マーレイ王国は、その名の通り魔法を中心とした文化が栄えている国だ。といっても、魔法の中でも攻撃魔法に特化して発展している。それでも魔法王国と呼ばれるようになったのは、魔法らしい魔法が攻撃魔法だから、らしい。
マーレイ王国の大きな特徴として、魔法の属性ごとに貴族が運営する道場のようなものがあり、基本的にはそこに通うことで力をつけていくとのこと。
属性が違うからと言って道場同士でいがみ合ったりすることもなく、同じ魔法を使える者として尊重しあうのだとか。実にいい国に思える。
しかし、それは魔法を得た者の話で……魔法を使えない者は、マーレイ王国での人権は最下層のものとなる。そもそも魔法は遺伝によるものの為、遺伝子的に魔法を発現しない人々には、酷く苦しい生活が約束されてしまう。
それ以外にも、遺伝子はあるのになんの不運か魔法が発現しないこともある為、そのような子どもは早い内に処分するか、最下層の地域に送られるか……そんな残酷なことも平気で行われているらしい。……魔法至上主義、そんな国だ。
もちろん、定住することを考えていない武闘派冒険者や観光客に関しては、そのような扱いを受けることはない。……あまりいい目では見られないが。
この話を聞いた時、俺はなんとも言えない気持ちになった。俺は元々魔法を持っていないからな。自分の力ではなく、神様にもらったから持っているだけなので、気持ちあまり大きく出られない。まあそれがバレることはないと思うが。
街に近づいていくにつれて、魔法師達はそわそわしだした。皆中々
の魔法の技術を持っているが、それ以上に目指している所があるのだろう。
特化しているわけではない学校で学んだそれは、どうしても本場には劣るものがある。現状より上に上がれる手段があるなら、利用するに越したことはない。この世界では特に。
街に入り、何処か近代的な街並みを観覧した後、馬車は止まった。
「よし、じゃあまずは宿を取ろう」
「はい、行きましょう」
神聖王国に着いた時と同じように、早い内に宿を取っておく。この国では魔法が文化として定着していることもあって、魔法の属性によって宿ですら形態が変わることがある。
例えば、店主が炎魔法の宿には美味い料理屋がついていたり、水魔法には温泉のような施設があったりと、内容が多様化している。なので観光としてはかなり楽しみな部分ではある。
そして今回俺が選んだのは、水魔法の宿だ。理由は当然、温泉に入りたかったから。長いこと風呂には入っていないし、前世温泉に浸かった時の気持ちを思い出すと、入らないわけにはいかなかった。
まあその楽しみは夜に置いておいて、次にすることは……
「冒険者ギルドに顔を出そう」
ギルドマスターに到着したことを伝えておく。観光もいいが、早い内に魔法の研究には手を付けておきたい。
現時点で、俺は守り神とやらを封印できるとは微塵も思っていない。そもそも絶対に成功しなければならない訳でもないのだが、それでも出来る限りのことはしたい。
もし成功すれば、それは自分の大きな成果になり、自信もつく。挑戦できる機会があって、真面目に挑戦しないのはもったいない。
一際目立つ冒険者ギルドに入り、受付の女性に声をかける。
「すみません、ギルドマスターに用があって来たんですが」
「用件をお聞かせ願えますか?」
「はい、……これなんですけど」
説明が面倒だった為、クリストさんにもらった証明書を渡す。
「これは……どうぞ、お入りください」
「ありがとうございます」
話を聞いていたのか、スムーズにギルドマスターの部屋に通してくれた。
「早い到着じゃのう。レーブといったか?」
部屋にいたのは、白く長い髭を蓄えた、仙人のような老人。傍らには大きな宝石が付いた杖が立てかけられており、見るからに魔法の達人だ。
「はい。あとこっちがセレノです」
「よろしくお願いします」
「うむうむ。回復と……風じゃな。中々じゃのう」
「分かるんですか?」
「わしにはの」
流石はギルドマスター、既に次元が違う。
「……依頼の件は既に聞いておる。じゃが、まだ先じゃぞ?そんなに焦って来なくてもよかったのじゃ」
「あれ、聞いてないんですか?」
「何をじゃ?」
クリストさんは言えば分かると言っていたが、そうでもないらしい。
「ギルドマスターの貴方に魔法を教えてもらえると聞いてきたんですが」
「……はて?そんな話は……む、もしや……」
徐に一枚の紙を手に取り、眉間に深く皺を作る老人。心なしか目つきが変わり……
「適当に投げおってからに……若造が……」
背中がゾクッとするような感覚を覚えた。というか実際に部屋が寒くなっているような……
「……おっと、すまぬ。あの金髪の若造の老人への労りの無さに、憤りから氷魔法が滲み出てしもうた」
「……はあ」
いや、そんなことあるか?そこはギルドマスターなんだからちゃんと制御してくれよ……
「……そうじゃのう、そのつもりで来たなら、こちらは嫌とは言えんのう。じゃがわしの授業料は高くつくぞい?」
「え?お金取るんですか?」
「当たり前じゃろう。ここ魔法王国のギルドマスターことわし、ヘクターがなんと呼ばれているか知っておるか?」
「……知らないです」
「……混合魔法師じゃ」
「「混合魔法師?」」
「そうじゃ、複数の属性の魔法をかけ合わせて使うんじゃ。因みにわしは三属性持ちじゃ」
「……すごいですね」
魔法を三属性も使えるだけですごいのに、それらをかけ合わせて新しい魔法として使うことが出来るらしい。そんなことがあり得るのかは不思議だが、本当なら滅茶苦茶すごいし、何より魔法によって人権が決まるここ魔法王国ではかなりの能力だ。ギルドマスターになるのも頷ける。だが、もっと上を目指してもよかったような気もする。
「とはいえわしも老いぼれじゃ、そろそろ辞めたいんじゃが……わしに才能が有りすぎて、後任がおらんのじゃ。ふぁっふぁっふぁ」
「……はは……」
自虐と思いきや、イキってくる。こういうの反応に困るんだよな……というかやっぱりもっと適任なところがあっただろ。ギルドマスターのハードルが爆上がりしているじゃないか。笑い事じゃない。
「っと、自慢はこれくらいにして……それだけわしは忙しいし、実際この国では価値があるんじゃ。安売りはできん」
「……よく分かりました。因みに幾らぐらいか聞いても?」
「そうじゃのう……冒険者が一生を終えるまでに稼ぐ金額くらいかのう」
不可能だった。そんな大金、相当な貴族でもないと払えるはずがない。絶対分かってて言ってるだろ。
「……なにか他に方法はないですかね?」
「食い下がるのう……では、こういうのはどうじゃ?」
それから説明を受けて……俺達はその提案を飲むことにした。




