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046 魔法は必須

 翌日、セレノは意識を取り戻し、予定通り魔法王国に出発することにした。今はニヤニヤした宿屋親子に見送られ、馬車を待っているところだ。


「本当に大丈夫か?もっと休んでからでも……」

「大丈夫です……ちょっとびっくりしただけです」

「そうか……ごめんな」


 まさかぶっ倒れるとは思っていなかったので、滅茶苦茶焦った。すぐにベッドへ寝かせて、水を貰ってきていたのだが、そこまで問題はなかったようだ。


「謝らないでください。ちょっと話が急だっただけで……」

「いや、俺が悪かった。そうだよな、確かに急だった。人のこと言えたものじゃないな。……将来的に、ということが言いたかったんだけど、言葉足らずだったな」

「……それでも、ドキドキします」

「……そう?」


 お互いまた恥ずかしくなって目を逸らす。実際のところ、俺の今の年齢は十九、セレノは十六なので、まだ早いと思っている。それでも行動も生活も共にするんだったら、それを見据えていてもいいかなと思ったのだが……焦り過ぎたか。


「……まあ、その辺はゆっくりいこう。いつも通りで」

「……はい」


 案外、これくらいの距離感がいいのかもしれない。



ーーーーー



 そんなこんなで、いよいよ魔法王国へ出発だ。乗客の冒険者は、行先が魔法の本場だからか、魔法使いっぽいのが多い。皆それぞれ魔法が使えるんだと思うと、なんだかワクワクする。

 移動中は、魔法師達の自慢大会みたいな感じになっていた。何やら規模や見た目の美しさとかを競い合っているみたいで、俺は楽しく拝見させてもらっている。俺よりすごいな、なんていう感想はもう出てこない。


「セレノは混ざらなくていいのか?」

「私は遠慮しておきます。別にたくさんの人に認められたい訳ではないので」


 俺を見ながらそう言ってくる。うんうん、分かってますとも。俺もセレノに分かってもらえていればそれでいいと思っているからな。聞いてみただけ、というやつだ。



 二人して観覧を続けていると、何故か徐々に馬車に戻ってくる魔法師達。もっとやってくれよ、面白いのに。


「たまにはどかんと気持ちよくいっとかないとなぁ」

「そうだよねー、派手に使う事なんて滅多にないしね」

「そうだな。はー疲れた。もう動けないや」

「私もー」


 ……ん?もう動けない、だと?もしかしてそれって……

 そう思って外を見ると、そこには剣や斧を持った、近接戦闘に特化したような冒険者ばかりが残っていた。……魔法師達は、そろいもそろって魔力枯渇を起こしたらしい。


「うーん、ちょっと不安だな……」

「何がですか?」

「ん、魔物、捌けるのかなーって」

「……確かに」


 たまに来る魔物は飛んでいるやつとか、群れで襲い掛かってくるやつが多かった為、遠距離や範囲に長けていない剣士では捌ききれない可能性があるのだ。見た感じ、ナツキみたいなチートじみた冒険者は

居なさそうだからな。



「来たな。おい、誰か魔法を……って、あれ!?」

「なんで魔法師が居ないんだ!?」


「あ、言った傍から……」


 空を飛ぶ魔物……フレイムバードがこちらへ向かってきている。翼の一部と胸元を炎で覆い、さらに火炎弾を口から飛ばしてくる、銀級適性の大物だ。だが、それを迎え撃つ魔法師は何処にもいない。


「なんで誰も降りてこないんだ!!」

「……いや、魔力枯渇を起こしてしまって……」

「俺も……」

「私も……」

「なんだと!?」


 馬車に戻ってきた魔法師達は誰も動かない。このままでは何も出来ず一方的に攻撃を受けてしまう。


「……セレノ、いけるか?」

「……やるしかないですね」


 ここは動くしかない。危機を脱しないと、俺達が魔法王国に行けなくなる。それに……俺達はこれでも銀級だ。


「俺達が行きます」

「おお、助かる。魔法師にはバカしかいないのかと思ったよ」

「……なに?」

「倒せない癖にそんなこと言うのか?」

「あ?倒せない癖に、だと?」


「……喧嘩は後にしてください」


 こんな時に余計な争いを生むな。……確かにそれは思ったけれども。


「……ふんっ、そうだな。頼んだ」


 流石に状況を理解してか、すぐに止めてくれたが……冒険者には喧嘩っ早い奴が多いんだよな。



「……さてと、いけそうか?」

「頑張ってみます」


 幸いにもフレイムバードはまだ火炎弾を吐くような素振りは見せず、ゆっくりと旋回している。こちらの戦力を伺っているようだ。


「<風刃(ウィンドエッジ)>!」


 セレノの風の刃がフレイムバードをめがけて高速で飛んでいく。正確に首元を狙った刃は……ひらりと躱され、当たらなかった。惜しい。


『ギョアッ』


 攻撃を仕掛けられたことで戦闘態勢に入るフレイムバード。速度が増し、喉元が赤く染まる。


「来るぞっ!!」

「俺に任せろ!!」


 大盾を持った男がセレノの前に飛び出し、セレノめがけて吐き出された火炎弾を防ぐ。


「ぐっ、なんて威力だ……」

「大丈夫ですか!?」

「……これぐらいなんともねえよ、嬢ちゃん。それより魔法を!」

「……はい!……<風刃(ウィンドエッジ)>!」


『ギョアッ』


 しっかりと狙って撃ったが、これも躱された。この速さでは中々当てられないな。……さて、どうしたものか。


「あいつが炎を溜めている時に撃つんだ!」


 馬車の方からそんなことが聞こえてきた。なるほど、知識はしっかりあるらしい。


「だそうだ。やってみてくれるか」

「はい。でも二回連続では出せないです」

「……そっか。じゃあ俺も魔法を使うから、その後に狙ってくれ」

「分かりました」


 俺の魔法をあれに当てるのは不可能だと思うが、やってみないよりはマシだろう。そもそも当たらなくてもいいからな。


「よし、いくぞ。……<麗夢(ドリーム)>」


 淡い光はフレイムバードを追尾し、どんどん迫っていく。……あれ、こんなに高性能だったっけ?

 避けようと旋回するフレイムバードだが、追尾してくる光を避けられないと悟ってか、自ら当たりにいった。そして羽ばたきの間隔はだんだんと大きくなり、高度が下がり……落ちた。


「……は?フレイムバードが……落ちた」

「……なんだ?今のは」

「……何が起こったの?」

 

 皆何が起こったか理解できていないようだ。俺もまさか当たるとは思っていなかった。魔法を準備していたセレノもどうしていいか困っている。


「よし、セレノ、今だ」

「……はい!<風刃(ウィンドエッジ)>!」



 その風の刃は……落ちたフレイムバードを、綺麗に通過した。

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