045 解散は解放
刀剣王国行の馬車の日程の方が早く、先にナツキとミーナが出発することになった。因みに俺達は明日だ。
「じゃあ、ここでお別れだな」
「そうだね。またそのうち会おう」
「ありがとうございました」
「またねー。……でも、これでいいのかな」
「ん?どうして?」
お別れムードの時に、ミーナは不意にそう言った。
「ヘンデルさんはいつも、助けてくれた人にはお礼をしなさいって言ってた。だけど、レーブにはそれができていない気がするんだ」
「そんなことはないよ。ミーナの明るさにはいつも助けられてた」
「そう?でも私は何かしたっていう感じはしないんだけど」
「大丈夫、気にしなくていい。それよりもっと活躍して、ヘンデルさんにお礼をしてあげな」
「……うん!ありがとう、頑張る!」
ミーナは悩んでいるより、元気で明るくいた方がいい。確かヘンデルさんも同じようなことを言っていたはずだ。俺のことなんて気にせず、やりたいように腕を磨いて、活躍していけばいい。ヘンデルさんに、そして亡き母に恩返しができるように。
「ミーナ、……頑張ってくださいね」
「セレノ……頑張るね」
セレノの応援に、ミーナは少し恥ずかしそうに答えた。これは……多分俺の話とはまた違うやつだな。相手は鈍感なナツキだが……でもミーナなら何とかなりそうだ。俺も陰ながら応援してるぞ。
「じゃ、達者でな」
「そっちもね」
「バイバーイ」
手を振りながら、二人は歩いていった。そして人混みに紛れ、見えなくなった。
「あいつら、大丈夫かな……」
ふと思ったのが、旅の計画やら金の管理やらは全部俺がやっていたから、急に二人だけになってそれができるのか、という疑問だ。
特にあの二人はあまり考えずに動くタイプだからな。まあ金を稼ぐことは余裕だろうから、案外なんとかなるのかもしれないが。
「あの二人なら大丈夫だと思いますよ。強いですし」
「……まあ、そうだよな」
要らぬ心配だったか。セレノがそういうなら大丈夫だろう。そう思えるくらい、俺はセレノを信頼している。
「……レーブ兄」
「ん?うおっ」
急にセレノが後ろから抱き着いてくる。えーなんだよ……
「やっと二人になれました」
「……ああ、そうだな」
「ずっとこうしたかったです」
「……そっか……」
やっとって、そんなに二人になりたかったのか……ナツキ達には申し訳ないが、嬉しすぎて表情筋がおかしくなる。心臓もドキドキとして……まずいな。
「……あの、そろそろ離してもらって……」
「あ、ごめんなさい」
「いや、いいんだ……」
顔と胸を抑えながら心を落ち着かせる。……あー、ヤバかった。
「……嫌でしたか?」
「え?そんなわけないよ。……だけど、急にはやめてくれ。反応できなくなる」
「……はい!」
随分と積極的になったものだが、普段大人しい分急にこんなことされたら、ギャップを感じて冷静でいられなくなってしまう。……それにしても、また抱き着いてくるつもりか……?これだと必要以上に意識してしまうな……いや、もう考えないようにしよう。
「……えーっと、とりあえず明日の準備でもするか」
半ば強引にやることを見つけて、思考を遠ざけることにした。実際準備は必要だし、あんまり浮かれてもいられない。パーティで持っていた道具類や回復アイテムはほとんどナツキ達にあげたから、買い直さないといけないのだ。
討伐依頼を受けまくっていたおかげで金はあるので、品質のよさげなものを選んで購入していく。
後はこれから日の目をみることになるであろう愛剣もメンテナンスしておく。ドワーフお手製というだけあって劣化はほとんどないように見えるが、素人目に分からないだけかもしれないからな。
それだけ準備を終わらせて夕暮れ時になった頃、俺達は宿に戻った。
「お帰りー、ご飯にする?」
「ああ、お願いする」
「あいよー」
いつも通り気が利くエミリーは、ちらっとセレノに向けて笑みを送った後、台所へはけていった。
「なんで笑ったんだ?」
「……分かりません」
俺から目を逸らしながらそう言ったセレノ。……なにか隠してないか?まあいいか。
温かい飯を頂いて、一息ついた時。
「お前達も明日から出るんだろう?また寂しくなるな」
「そうだよー、もっとお話したいのに」
「そうは言ってもな。やりたいことがあるんだよ」
「そもそも、何処に何しに行くんだ?ナツキ達もだが」
「あ、それを言ってなかったな」
ナツキ達は、刀剣王国に行って、戦闘の技術を高めたい。俺達は魔法王国に行って、魔法の研究をしたい。そんなことを簡単に話した。この二人には隠すこともないからな。
「ほー、やっぱり結構強かったりするんだろ?」
「俺は全然だな。セレノとナツキ達はすごく強いぞ」
「私は強くないですよ」
「そんなこと言って、その強いナツキ達には信頼されてただろ。謙虚なのはいいが、過ぎるのはよくないぞ」
別に謙虚なつもりはないんだけどな……
「そうだよー。レーブ君も強いなら、頼りがいがありそうだなー」
「レーブ兄は渡さないよ、エミリー。……あ」
ボシュッと音が出るくらいに一瞬で顔を赤く染めたセレノ。これには俺も照れるしかなかった。エミリーはあらあらと口元を押え、ロベールさんはニヤニヤと笑みを張り付ける。あー、恥ずかしい。
「ま、まあそんな感じだ。……明日はまた早くに出るから、今日はもう寝るよ。おやすみなさい」
「……」
「おう。おやすみ」
「ふふふ、おやすみー」
セレノの手を引きながら、逃げるように部屋に戻る。
「ふぅー、顔が熱い」
「……恥ずかしい……」
セレノはまだ顔を真っ赤に染めたままだった。壁の方に向いて、顔を抑えている。
「……セレノがそんなことを言うなんてな……」
「……エミリーと話してる感覚になって、つい言ってしまいました……」
「エミリーとこんなこと話してたのか」
「あっ……ごめんなさい……」
「いやいいけど……」
もしかして今日セレノが積極的だったのって、エミリーの差し金だったりするのか?ということは、さっきのもエミリーの罠にセレノがはまった、という図なのか……恐るべし、エミリー。
「エミリーの話を聞いてから、なんだかおかしくなってしまって……レーブ兄には隠してたんですが、うっかり……」
「……もう隠さなくていいよ」
「……え?」
正直、もう限界だった。このよく分からない距離感で過ごすことに。
「俺もそういう感情を持ったことあるよ。セレノに」
「え、え?」
「もういいと思う。お互いそういう気持ちを隠してたって、しんどいだけだ」
「……?」
「……一応確認だけど、ずっと一緒にいるつもりなんだよな?」
「……そんな分かり切ったこと聞くんですか」
これを聞いてしまうのが俺のダサいところだ。ミスをしたくないから、確認してからでないと自信を持てない。だが、そういうことなら。
「よかった。じゃあ、もういっそ……結婚とか、考えないか」
「は、け、けっこん……?うぅ……」
「あ、セレノ?おいっ」
セレノは俺の言葉を聞いた途端……崩れ落ちるように倒れてしまった。




