044 再開は安心
第四章 開始です。よろしくお願いします。
同タイミングで、「007 基本の知識」の後書きに魔法、冒険者関連の説明を追加しました。
本章を書いていて、説明が足りていないと思いましたので……
スルーしても問題はないですが、見ておいた方が理解が深まるかもしれません。気になる方は、大変お手数ですが「007 基本の知識」の該当箇所を再読いただきますよう、お願い致します。
冒険者ランクが銀級になり、一旦解散して別々の道に進むことになった俺達は、暫くの休暇の後、商業王国……センブル王国へと出発していた。
直接それぞれの国に行けない訳ではないのだが、中心にあるセンブル王国を通った方が安全で、分かりやすい。もっと言うとセンブルで休憩や物資の補給も出来る為、良い事尽くめだ。余程急いでいない限りこのルートを通るのがこの世界の常識らしい。
依頼の開始も一応まだ三年はあるので、そこまで急ぐこともない。
道中、馬車の旅が初めてだったナツキとミーナは、暫くは馬車の中で大人しく座っていたが、体が鈍ると疼き出したので、結局は他の冒険者に混じって馬車に群がる魔物を討伐させていた。
金級の冒険者パーティもいたようだが、二人の討伐速度はその人達にも理解できない程だったらしく、口を開けて呆けている姿を度々目撃した。……なんか申し訳ない気持ちになった。
この間、セレノはずっと俺の横にいた。別にこの間でなくても一緒にいたが……より一層距離が近くなった。馬車でうたた寝をする時は絶対に俺の肩を枕にし、俺が何か考え事をしている時は、なんだとすぐに聞いてくる。
そこでどんな話をしても、セレノは楽しそうに、場合によっては真剣に聞いてくれる。それが何よりも癒しで、俺の心は日々満たされていった。
そんな感じで、神聖王国ー商業王国間の旅は一瞬で終わった。楽しい時間はあっという間、というやつだろうか。いつもなら暇過ぎて困るのだが、今回は寧ろ着かなくてもいいと思うぐらいだった。それだけ、セレノの存在はさらに大きくなっている。
センブルの首都に着いた俺達は、懐かしの宿、黄昏亭に直行する。
「いらっしゃい……って、レーブじゃないか!」
「え、レーブ君?ということは、セレノも?」
「「お久しぶりです」」
長らく来ていなかったからもう覚えていないと思っていたが、ロベールさんとエミリー、どちらもしっかりと覚えてくれていたようだ。
「来た事あるんだ?」
何も知らないナツキが聞いてくる。
「ああ、センブルにいた時はずっとこの宿だった。店主と看板娘が温かかったのが忘れられなくて、また来ようと思ってたんだ」
「嬉しい事言ってくれるじゃないか」
「照れちゃうねー」
「……そんなに正直に受け取られるとこっちも恥ずかしいんだけどな」
「それはお前達だからだぞ。……ところで、そっちは?」
親し気に会話をしながらも、ロベールさんは後ろの二人のことがずっと気になっていたようだ。
「神聖王国でできた仲間だ。ナツキとミーナ、二人とも良いやつだよ」
「そんなところまで……そうかそうか、また賑やかになるな」
「ふーん、変わった顔だね。でも意外とかっこいいかも。それと、猫さん?可愛い!」
「かっこいい……?」
「可愛い……?」
エミリーの評価に、二人まで照れる。なんなんだよこの空間……
「……とにかく、数日だけお世話になろうと思ってるんだけど、いいかな?」
「ああ。逆にそれだけでいいのか?もっと居たっていいんだぞ」
「ちょっと予定があってね」
お言葉に甘えて少し長めに滞在するのもいいが、魔法王国にも興味があるからな。それに刀剣王国組も早く移動したいだろう。
「そうか。まあゆっくりしていってくれ」
「そうさせてもらうよ」
「またお世話になります」
「セーレノ、またお話しよー。ミーナちゃんも一緒に」
「うん、また夜にね」
「え?う、うん」
エミリーが初対面のミーナも巻き込んで女子会的な何かに誘っていた。セレノに積極的に関わってくれて、俺としても嬉しい限りだ。
なにせセレノは、俺以外の人と必要以上の会話をしないからな。女の子の友達もいた方が、色々俺には話せない話ができていいと思う。
そうして、前泊まっていた部屋とその隣の部屋の鍵を受け取って、荷物を置きにいく。
「ねえ、ここって食べ物なにが有名なの?」
「ん、有名なのは特にないけど、基本なんでもあるし、なんでも美味いよ」
「ここ商業王国の特徴ですね」
「なるほど、それは……いいね」
「私お腹空いた、早く行こう!」
ナツキは口角を上げ、ミーナは空腹を訴えた。美味しくはない大豆料理からの美味しくない旅の簡易食。それらから解放されたというだけで、食欲は湧いてくる。ああ、俺も腹減ってきたな……
「エミリー、昼は外で食べてくる。晩はよろしく頼む」
「あいよー。いってらっしゃーい」
この宿のメイン料理担当に一言声をかけてから外に出る。屋台の飯も美味いが、エミリーの料理もかなりのレベルだ。一見そんなに凝っている訳でもなさそうなのに美味い。お母さんの味、とかそういう感覚なのだろうか。なんにせよいただかないのは損だと思う。
「こういう宿、なんか楽しいね。神聖王国はホテ……こう、事務的なところしかなかったから」
「一応こういうところを探してはいたんだけどな。残念ながらなかった」
「そっか、ならまた来たくもなるよね。……あー腹減った。よっしゃ、疑似バイキング、堪能するぞー」
急に話が変わったと思ったら、バイキング……懐かしい響きだな。
「ナツキ、ばいきんぐってなに?」
「あ、ああそれはね、色んなものが食い放題ってこと」
「!!私もバイキングする!」
「……おい、金は払ってくれよ」
食い放題ではなくてあくまで疑似だから、ちゃんと払ってくれないと困る。
「じゃあ、お小遣いもらえないかな」
「お、おう。……ほらよ」
「よし。ミーナ、行くよっ」
「うん!」
金を受け取って、すぐに二人で走って行った。どんだけワクワクしてんだよ……
「……行っちゃったな。俺らも行こうか」
「はい!私お肉が食べたいです」
「セレノは本当に肉が好きだな」
肉が好物な割には華奢なんだよな、セレノって。どうにもか弱い感じがする。まあ逆に俺よりもガタイの良い女性にレーブ兄なんて呼ばれたくないので、この方がいいんだけどな。
そんな感じで俺達は、ここセンブルでひたすら美味い飯と居心地のいい宿を堪能した。
ーーーーー
ある日の夜、皆が寝静まった頃。窓の外でガサガサと音が聞こえだした。……やっと来たか。
『儂じゃ』
「分かってます。大分遅かったですね」
そこにはいつぞやの黒猫、それに憑依した神様がいた。最初に会ったのがこの姿だから、なんとなくしっくりくる。
『すまなんだ。勇者ナツキ殿を召喚するのにかなり力を使ってしまってな。休養が必要だったのだ』
「そうだったんですね」
勇者を召喚した癖に全然説明がないと思っていたが、そういう事だったか。
『それにしても、何故お主の元にいるんじゃ?』
「ナツキがついてきたいと言ったので。それより、ナツキ召喚の概要を教えてほしいです。俺とはパターンが違いますし、そもそもの目的も分からないです。本人も知りたいようです」
俺は前世で死んだ後、魂だけこちらの世界に来た。だがナツキはおそらく死んでおらず、その身体ごとこちらに来た。明らかに違うことは分かるが、未だ理解はできていないのだ。
『そうじゃな……勇者としてナツキ殿を召喚したのは……近い内に魔物の反乱が起きるからなんじゃ』
「……え?」
『近いと言っても、数年先の話じゃ。この世界に慣れてもらうために早めに召喚しておこうと思ったのだが……その必要はなかったようじゃな』
急にそんなことを言われて焦ったが……すぐじゃないなら問題はないか。
「……まあ、強すぎますからね」
『儂もここまでとは思うとらんかった。力をふんだんに使ってまで身体ごと召喚したかいがあったというものじゃ、ふぉっふぉ』
「なるほど……って笑い事じゃないです。ナツキは元の世界に帰りたそうでしたよ」
色々合点がいったが……俺が心配しているのは、結局はそこだ。
『なに、そうか……しかし、反乱を抑えるまではいてもらわないと困るからの……』
「……その言い方は、帰れるんですね?」
『結論だけ言えば、そうじゃな。ただ、帰した先でどうなるかは責任が持てん。おかしなことは起きないとは思うがの……』
「そうですか……」
『そこは、儂からナツキ殿に伝える。全く説明しておらんからの』
「お願いします」
まあ帰れるのなら、一安心だ。それに俺から説明する必要もなくなった。大分気が楽になったな。
『知りたいのはそれだけか?』
「そうですね……ああ後、神聖王国の召喚魔法がどうとかって、どう関係してるんですか?」
『ああ、あれに効力はない。だが儂の召喚に都合が良かったから利用したまでじゃ』
「あっ……」
聞いたことを後悔した。苦労して城を抜け出したナツキが少し可哀相に思えてきた。




