043 談論と方針
翌朝、スッキリした頭でギルドマスターの部屋に向かう。スッキリと言っても、大昔ぐっすり眠れていた頃のスッキリには遠く及ばないと思うけど。それを取り戻すにはセレノに期待するしかない。
それは置いておいて、道中ナツキが。
「銀級になれた訳だけど、他に予定ってあるの?」
「予定って?」
「ほら、この街に行く、とかこの国に行く、とか」
「ああ、そういうのは特に考えてない」
元々俺とセレノは観光兼回復魔法の勉強でここに来ただけなので、次は考えていなかった。セレノの勉強が終わったらどうするか考えようと思っていたからな。
「じゃあさ、刀剣王国に行くのはどう?」
「刀剣王国か。ナツキは専ら剣だもんな」
「そう。折角ならもっと極めたいし」
「もう十分だと思うけどな。まあ前向きに考えておくよ」
どうせ予定もないし、自分も魔法以外に使えるのは剣だけだから、なにか得られるものがあるかもしれない。
そんな会話をしながら、ギルドマスターの部屋まで来た。
「お、来たね。早速昨日の話の続きだけど、レーブ君、君に頼みたいことがあるんだ」
「……なんでしょう」
センブルのダグラスさんに続いて、クリストさんにも頼み事をされるとは……しょうもないことなら断ってもいいだろうか。
「ちょっとエルフの森に行ってほしいんだよね。指名依頼として」
「え?エルフの森?」
銀級になったのは、指名依頼を可能にするのが主な目的だったようだ。思ったより真面目な話みたいだが、なんで急にそんなところに?俺に何の需要があるか分からないんだが。……まあ、興味はあるけど。
「その森の守り神と言われる存在が、今はまだ眠ってるんだけどもうじき覚めるんだよね。といっても後……三年だけど」
「眠りが覚める……あ、なるほど」
「分かったかな、君である理由が」
「まあ、それは……」
眠りから覚める……要は封印が解けるから、ちょっと行って封印してきてくれない?って話か。いやそんなの……
「多分無理だと思いますが……」
「あーうん、試してみるだけでいいんだ。こう言っては何だけど、そんなに期待している訳じゃない。……実のところ、再度眠らせるのに結構な金と労力がかかるんだよね。それを君の強力な睡眠魔法一発で終わらせられるなら、かなりの節約になるからさ。試すだけなら問題ないよね?上手くいけば褒賞はあげられるし、駄目でも君の名誉を汚すようなことはしない」
……なんとも意欲の湧かない言われ方だな……
「……断ったらどうなるんですか?」
「どうにもならないけど……受けてくれるなら、冒険者ギルドは君に全面的に協力するよ。例えば、魔法の勉強とか、研究とか」
「!!」
この人、俺達がこの街に来た理由も知っているのか?ちょっと怖くなってきたが……魔法の研究ができるのはありだな。
「やる気になったかな?ちなみに魔法の先生は、魔法王国のギルマスの爺さんだ。魔法王国は森までの道中にあるから、アクセスはいい」
「……ちょっと考えてもいいですか?後三年はあるんですよね」
「まあそうだね。でも早めの方が助かるかな。また決まったら教えて」
「分かりました」
部屋を出ながら、考える。魔法の研究ができる上に、先生が魔法王国のギルドマスターなのはかなりデカい。これならセレノの治療魔法の件も捗るだろうし、俺の睡眠魔法も理解が深まるかもしれない。前向きに考えたいところだが……
「魔法王国か……」
問題なのは、ついさっきの話と噛み合わなくなることだ。この話を受けるなら、刀剣王国に行きたいと言うナツキの希望を無視することになる。
「魔法王国、行くの?」
「……どうしようかなと。ナツキは刀剣王国に行きたいんだよな」
「うん。僕、魔法は使えないからね」
「あーそうだよな。……ちょっと皆でゆっくり話し合おう」
ここはしっかり話し合った方がいい。行きたくもないところに無理矢理行くのは気持ちのいいものではないし、パーティの空気も悪くなって、最悪解散、なんてこともあり得る。今まで上手くやってきているから、それだけは避けたいところだ。
というわけで、一旦宿に戻ってきて、一つの部屋に集まる。
「一旦意見を言い合おう。……皆は魔法王国と刀剣王国、どっちに行きたい?ちなみに俺は魔法王国に行きたい。魔法の研究をして理解が深まれば、色々出来るようになるかもと思ってな」
「僕は、俄然刀剣王国だね。さっきも言ったけど魔法は使えないし、剣をもっと極めたいと思ってる。剣の本場に行けば、絶対身になることがあるだろうからね」
さっきも思っていたが、勇者なのに魔法が使えないのって……俺のイメージではこう、勇者専用の魔法みたいなのがありそうなのだが、そういうわけではないらしい。
「……私は、魔法王国がいいです。レーブ兄と一緒で、魔法の研究したいです」
セレノはそういうだろうと思っていた。だが、実際に聞くと安心するものだ。
「私は……刀剣王国がいいな。私も強化魔法だけで特にそれ以上はないし、近接戦闘が主な刀剣王国に行った方が学べることがあるかなーと思う。それに……」
ミーナはナツキの方に視線を向ける。なんか目つきが変わったような……
「……それに?」
「……いやっ、それだけだよ」
顔を赤くして焦るミーナ。……ふーん、そういうことか。確かに昨日部屋に戻った時、楽し気に話をしていたように思う。仲いいんだなぁぐらいに思っていたが、それ以上の感情がミーナにはあるようだ。
まあそれは置いておいて、予想はしていたが見事に二対二に分かれた。……しかしそうなると刀剣王国に行った方がいい気がするな。このパーティで強いのは近接組、刀剣王国組だ。既に強い方を最強レベルにした後、魔法王国組についてきてもらうのが一番か……いやでもそうしたら守り神とやらの依頼に間に合わなくなって、協力を受けられなくなるな……
「……うーん、困ったな」
「……私に、一つ案があります」
頭を抱えているところに、セレノが手を挙げた。
「どうぞ、セレノさん」
「セレノさん……?ええと、いっそのこと一旦パーティを解散して、別々のところに行けばいいんじゃないですか?」
「……なるほど。頭いいな」
確かにそれなら文句が出ることもないし、どちらもやりたいことができる。俺とセレノは大きな戦力を失ってしまうが……二人でも何とかなっていたから、問題はないだろう。
「俺はこの案でいいと思う。俺達二人でもなんとかなるし、そっちは言わずもがな余裕だろ?」
「……そうだね。ちょっと寂しくなるけど、それもありかな」
「私は……その方がいいかも」
……ミーナ、それをそんな顔で言ったらもうバレバレだぞ。……いや、ナツキは気づいていない、のか?あいつもしかして鈍感……?ミーナ、頑張れよ。
「じゃあ、そういうことにするか。まああくまで一旦解散だから、またその内どこかで集まろう」
「そうしよっか」
なんかあっさり決まってしまったので、その日のうちに伝えておく。
「クリストさん、さっきの話受けます」
「お、決断が早いね。そういう人は伸びるよ」
そう言ってクリストさんは何やら複数の紙に文章を書き始め……一つはギルド職員に、もう一つは此方に寄越してきた。
「君がこの依頼を受けたという証明書だ。それを爺さんに見せればいい。こっちでも正式に魔法王国のギルド宛てに送るから、それと照らし合わせれば分かってくれると思う」
「分かりました。ありがとうございます」
「んじゃ、よろしく頼むよ」
なんとも軽い感じだが、それでもしっかり依頼は受けたことになった。クリストさんがこの若さでギルドマスターになれたのは、その合理的な性格があってこそなのだろう。こういう人だと、不安に思うことはないんだけどな。
ーーーーー
ランクも上がったし、今後の方針も決まったところで、今日から少し休暇を取ることにする。解散とは言っても、国の位置関係的に途中までは同じなので、まだ暫くは一緒に行動することになる。だからそれまでは俺が移動プランを考えることになっている。リーダーだから。
「それにしても斬新な案だよな、よく思いついたよ」
セレノと二人での行動になった為、さっきのことを話題に出してみる。解散は避けるべきだと思っていたが、同意の上で別れて、また合流するのであれば何も問題はない。簡単なことだったが、俺には気づけなかった。
「そうですか?私は……またレーブ兄と二人きりになれると思っただけですよ」
「なっ……お前なぁ……」
「えへへ」
急なその告白に心臓が跳ねた。セレノにはそれ以上に目的があったようだ。そしてそれを俺に言ってしまうなんて……随分と素直な子になったものだな。
頭を撫でると、嬉しそうに笑ってくれる。セレノ以上に可愛いと思える人は、もうこの世界にはいないだろう。こんな子に必要とされているなんて、俺は幸せ者だな。
第三章終了です。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
よろしければ評価、感想をいただけると幸いです。




