041 昇格と祝杯
達成報告をした後、俺達はすぐにギルドマスターの部屋に呼ばれた。まさかこの国でもギルドマスターに呼ばれるとは思っていなかった。
部屋で待っていたのは、金髪が目立つ若い男。質素な服を身に纏い、たくさんの書類を次々に処理している姿は、中々に異質だった。
「やあ、俺はクリスト、一応ギルマスやってる。ちょっとそれ、貸してもらってもいいかい?」
「……これですか?」
此方を一瞥しただけで、クリストさんはそう言った。ナツキが敬語で応答し、戦利品……ゴブリンキングの角を差し出す。
「そうそう、それ。……うん、しっかり臭う。今日討伐したもので間違いないね。ゴブリンキング討伐おめでとう。君達は銀級昇格だ」
「「……え?」」
素材の臭いを嗅いだと思ったら、次には銀級昇格だ、と言い渡された。……全然入ってこない。
「どういうことですか?」
「ん?どうもこうも、ゴブリンキングは銀級適性の魔物だ。それを大した消耗もなしに倒したなら、それはもう銀級でしょ」
「……そんなもんなんですか?」
「そんなもんだよ。実力があるのに、低ランクはもったいないよ。それに、君には銀級になってもらう必要がある。後勇者と言われる君も」
「あ、知られてたんだ」
「……俺もですか?」
銀級になる必要があると言って、クリストさんはなぜか俺を指さした。ナツキは事実強いから当たり前だが……俺は大したことないから、理由が分からない。
「そう。君、睡眠魔法の使い手でしょ?ダグラスがお世話になったと聞いているけど」
「……ああ、そうですね」
センブルのギルドマスターのダグラスさんは、俺のことを報告済みらしい。だが、それと銀級になんの関連があるのか。
「そんな君に……いや、今日はいいや、なんか君疲れてるみたいだし。そうだね、良いお肉を出してくれる店の紹介状を書くから、それ食べてしっかり寝て、また明日来て」
「……疲れてる……?」
「なんとなくね。ただ、その代わりと言っては何だけど、この俺を眠らせていってもらえないかな」
クリストさんは紙にさらさらとサインを書き終え、こちらを見ずに差し出しながらそう言った。大丈夫か、そんなに忙しそうなのに。
「寝て大丈夫なんですか?」
「うん。これでも大分効率が落ちててね。寝不足なんだよ」
「そうですか……俺は問題ないですけど」
「よし、じゃあ、よろしく」
そう言って手を止め、目を合わせ、魔法を待つクリストさん。こう見ると、何処かカリスマ性を感じるな……
「いきます。……<麗夢>」
「お……これは……本物、だね……」
クリストさんはそう呟いて眠りに入った。寝不足とか言って、実は俺の実力を確かめる為に使わせたのだろう。そこはやはりギルドマスターといったところか。
眠ってしまったクリストさんを残し、俺達はありがたく紹介状を持って部屋を去る。
「勇者ってこと、なんで知ってたんだろう」
「さあ?ギルマスぐらいになると情報が早いんじゃない?それか国に何か言われたか」
「あーなるほど。まあ特に何も聞かれなかったし、別にいいか」
実際もう隠れようともしていないから、知られていてもおかしくないだろう。興味があるかは知らないが。
……それより。
「俺って疲れてるように見える?」
「ん?特に変わらないように見えるけど……」
「分かんない」
「……疲れてると思います」
「……そう?」
セレノにだけは分かるらしい。嬉しくもあり……あまり気づいてほしくなかった感もある。
「まあならギルマスの言う通り、がっつり肉食うぞー!」
「よっしゃ!」
「やったー!」
「……お肉!」
せっかく気を使ってもらったので、打ち上げがてら遠慮なく肉を堪能させてもらうことにする。肉が好きなセレノには最高の店だろう。
紹介状に書かれていたのは、酒場のようなスタイルで、デカいステーキがメインの店だった。肉を酒で流し込むようなところだが、こういうところなのか。
「この匂い……腹が鳴るな」
「……おにく!」
「久々のがっつりの肉、お腹が鳴るよ」
「私も!よだれが出ちゃう」
肉の焼ける芳しい匂いは、激しく腹を刺激した。もうこの匂いの発生源を食わないと駄目な腹になった。セレノに至っては、もうお肉、としか言っていない。
店の中は冒険者らしい格好の男達でいっぱいだったが、恰幅のいい店員に紹介状を見せると、奥の部屋に通してくれた。ギルマスの紹介だもんな、個室になってもおかしくはない。
メニューは案の定肉と酒しかなかった為、お店には申し訳ないが肉のみを注文することにした。この世界での成人は十六才らしいが、俺の感覚では誰も成人していないから、酒を飲むのが違和感しかない。それに誰も特に飲みたがらなかったから、無理に飲む必要もなかった。
待っている間。
「……それにしても、皆強いよなぁ。……俺、なんもやってないんだけど」
……言ってから気づいた。この場で言う事ではなかったと。
「え?そんなことないよ、指示出してくれてたじゃんか」
「そうだよ。そうじゃなきゃ迷ってたかもだよ」
「それは、お前らの実力があってこそだろ?」
「まあ、それはそうかもだけど」
「はは、そこは否定しないのかよ」
俺は、軽い感じで笑って言った。折角の打ち上げの席で、雰囲気を盛り下げるわけにはいかない。気にしてないふり、気にしてないふり……っと、ふいに隣から視線を感じる。
「……セレノ、どうかした?」
「……いや、何でもないです。お肉、早く来ないかなー」
「そうだね。もう腹と背中がくっつきそうだ」
するべき話題の判断もできないくらいに、空腹が加速していた。早く食わないとおかしくなりそうだ……
と思った時に、肉が運ばれてきた。ジュウジュウと音を立てて、分厚い肉が鉄板の上で焼かれている。
「「「「ごくりっ」」」」
全員が生唾を飲み込む。店員が退室したのを見て……
「よし、皆、かかれ!」
ナツキとミーナは目にもとまらぬ速さで肉を切り、口へ放り込んだ。
「うまっなにこれ!」
「美味しい!何皿でもいけそう!」
「美味そうに食うな。セレノも遠慮なくいっていいぞ」
「はい!……!美味しいです!」
……俺的には、セレノが目を輝かせて楽しそうに食ってるのが一番美味そうに感じる。喜んでいるようで良かった。
嬉しそうなセレノを横目で見ながら、俺も肉を口へ運ぶ。……うん、柔らかくてジューシーで、スパイスによって肉の旨味が強調されていてすっごく美味い。日本人の感覚なら、傍らにご飯があれば最高なんだけど……
「ご飯……」
「ははっ」
目の前の日本人も同じことを考えていたようで思わず笑ってしまった。だが、前世の話を持ち出すのは良くないので、そっと口元に人差し指を近づけるポーズを取って黙らせる。
全員がお代わり分まで食い終えたところで、店を出た。値段はギルマス特典で割引があったにもかかわらず中々だったが……この満足度なら全く文句ない。
「いやー美味かったな」
「これはリピート必至だね」
「また来たい!」
「またギルマスに紹介状書いてもらおう。な、セレノ……ん?」
セレノは店の入り口の前で立ち止まったまま、俺を見つめていた。
「どうした?」
「……レーブ兄、お話があります」
いつになく真剣な表情だった。さっき笑顔で肉を食っていただけあって、急な真面目な雰囲気に俺も自然と身構える。
「……分かった。……ミーナ、ナツキ、悪いけど先に宿に戻っててくれ」
「了解」「分かったー」
なんとなく空気を察してか、二人はさっさと歩いていった。
「ちょっと移動するか」
「はい」
とりあえず、店の前は離れることにした。真面目な話……なんだろうか。




