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038 過去と記憶

 翌日からは、セレノも一緒に、本格的に依頼をこなしていく。方針として、セレノが居ない日は討伐依頼を、居る日は街の雑用依頼を中心に消化するようにした。討伐依頼だけでは、銅級に上がることはできないからな。

 一応三日に一回ぐらいは、休みにしてもいいと皆に言っている。前は俺もセレノも激しく動くことがなかったから休息いらずだったが、今は近接組がいる。仕事中に動けなくなったら困るので、近接組の判断で休むべきかどうかを決めてほしい。今は、石級二人の付き添いみたいなものだから。

 もちろん、セレノにも手伝い・勉強で疲れたなら遠慮なく言ってくれと伝えてある。セレノはそう簡単に弱音を吐いたりしないが、俺としてはセレノには特に辛い思いをしてほしくない。些細なことでも、しんどいと思ってほしくない。……少し気持ち悪いだろうか。


 まあそういう取り決めもあって、俺達のパーティはいがみ合うことなど一切なく、仲良く毎日を過ごしていた。




 暫く経ったある休日、男二人宿の部屋でゴロゴロしていた所。


「ナツキって、彼女とかいたのか?」

「ん?急に何?」

「いや、なんとなく」


 俺は前世の話だと、ゲームとか漫画とかの話を想像するが、ナツキはそういう文化には触れてこなかったらしく、話題が合わなかった。

 だから、高校生だったナツキに振れる話題と言えば、食い物の好みか恋愛ぐらいだった。視野が狭くて自分に呆れる。……因みに、享年二十三才の俺は、彼女居ない歴イコール年齢だ。悲しいね。


「……彼女はいなかったよ」

「いないのか。……ん?彼女『は』って何?」

「ああ、なんか告白してきた人は結構いた。全部振ったけど」

「ふ、ふーん。因みになんで誰とも付き合わなかったんだ?」


 冴えない俺としては、ナツキはかなりイケメンに見える。その上剣道が強いんだから、相当かっこいいと思う。そりゃ、告白する女子もいるわけだ。付き合おうと思えばいくらでも付き合えた。

 だが、ナツキはすべて玉砕した。……何故?


「僕は出来るだけ剣道以外のことを考えたくなかったんだ。だから、恋愛には興味を持てなかった」

「……そういうやつね」


 自分の道を極める為、余計な考えを排除したかったかららしい。せっかくのチャンスなのにな……俺が同じ状況なら、調子に乗って恋愛に現を抜かしていたかもしれない。


「そういうそっちはどうなの?」

「俺?……俺はそういう話は一度もなかったよ」

「あ……そうなんだ」

「まあ、オタクみたいなもんだったからな」


 ゲームの話が分かる奴とずっとつるんで学生時代は幕を閉じた。表立って喋ったりせず、ナツキみたいに特別運動ができるわけでも無かったから、俺なんて女子の視界に入ることもなかっただろう。そもそも、目立ちたくないと言ってるやつがモテるわけがない。


「……まあ、今は結構かっこいいし、なんかあるんじゃない?」

「え?そうなの?」

「あ、知らないんだ」

「うん、鏡ないから」


 意外な事実に驚く。が、今更モテてもなんとも言えないんだよな。この容姿は俺であって俺でないみたいなものだから。それに、俺には……


 そう思考を始めようとした時、突然ドアがノックされた。


「……レーブ兄、お腹空きました」

「……お腹……あっ」


 窓の外を見ると、夕暮れが終わり、暗くなってきている所だった。前世の話に夢中になりすぎて、気づいていなかった。急いで部屋を出る。


「ごめん、話してて時間経ってるの気づかなかった」

「……そうですか。ご飯……」

「ごめんって。今日は何処か店に行ってみるか」


 どの宿も大体同じような食事で飽きるので、たまには気分を変えて食事がメインの店に行きたい。金は中々に貯まっているので、多少良いものも食べに行ける。



「セレノ、勉強の方は順調?」


 外を歩きながら、話を振ってみる。


「はい、いろんな魔法覚えましたよ。解毒とか、麻痺治しとか」

「おお、いいね」


 流石はセレノ、ヘンデルさんの知識をどんどん吸収しているらしい。……セレノにも差をつけられている気がして、俺の中にどんどん焦りが出てくる。


「はい。……」

「……どうかした?」

「……いや、何でもないです」

「そう?言いたいことがあるなら言っていいんだぞ?」

「大丈夫です」


 何かある様子だったが、言ってはくれなかった。まあ無理をしているわけでもなさそうだから、またそのうち言ってくるのを待つか。



 深入りはせずにそのまま歩いていると、ある建物から懐かしい香りが漂ってきた。何故かほっこりとする匂い。……なんだっけ、これ。


「なんかいい匂いしない?」

「え?そうですかね……」

「なんか嗅いだことのない匂いがする」


 俺の問いかけに、セレノとミーナはそう答えた。ということは、前世の記憶か。

 そう思ってまだ喋っていないナツキを見ると、なんともいい顔をしていた。


「味噌汁だ」

「あーー?」

「「ミソシル?」」


 味噌汁と聞いて滅茶苦茶合点がいったが、ここでは理解した素振りを見せられないことを咄嗟に思い出して、声に疑問符を無理矢理つけた。


「僕の故郷の食べ物だよ。匂いが似ているだけかもだけど」

「そ、そうなのか。……じゃあここにするか」

「ちょっと怪しいですが……」


 知らないふりをしながらも、興味には抗えなかった。そのままの大豆は微妙だが、発酵させて味噌にすれば美味しいのではないか。実際これだけいい匂いがするんだから、食べてみない訳にはいかない。セレノ達は怪しんでいるが、まあ食ってみたら分かるだろ。


 ドアを開けると、一人の男が大きな鍋をかき回していた。その鍋からは、味噌汁の匂いがプンプンする。


「……いらっしゃい」

「いい匂いだな」

「……銅貨五枚だ」

「とりあえず、二つ頼む」

「……後ろの二人は?」

「まだ悩んでるんだ」

「……ほらよ」


 とりあえず食う気満々ですぐに席に座った俺とナツキの分だけ、銀貨一枚を渡して注文する。出されたのは、味噌汁にしては少し大きめのお椀に、賽の目切りにされた野菜がたくさん浮いている茶色い液体だった。想像していたのとは少し違うが、スープと思えば悪くはない。

 一口すする。そして、ナツキと顔を見合わせる。お互い最初に発した感想は……


「「うっま」」

「……そうだろう。自信作だ」


 不愛想に見えた店主が少しだけ口角を上げた。正直ちょっと薄味だったが、しばらく日本食を食っていなかったのと、こっちの飯が大して美味くないせいでとんでもなく美味く感じた。日本の味噌汁よりも、こっちの方が好きかもしれないと思う程だ。

 夢中になって食い終わりそうになった時、気づいたら隣にセレノとミーナが座っていた。


「「わたしも……」」

「……食ってみろ」


 店主は既にお椀に味噌汁を注いでいる。残りを飲み干しながらナツキの皿を横目で見た俺は銀貨を二枚出して、カウンターに置いた。


「お代わりもくれ」

「……あいよ」


 それからは女の子二人も気に入ったみたいで、無言で汁をすすっていた。ミーナもお代わりしたところで、店を出た。



「美味かっただろ?」

「そうですね、癖になる味でした」


 この世界でも日本食は美味いらしい。故郷の味が認められた感じがして、なんとなく嬉しくなった。

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