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037 経緯と苦労

「それにしても……チャリに轢かれるなんてダサ過ぎるよ」

「しょうがないだろ、疲れてたんだから」


 話をしてちょっと仲良くなったと思ったら、ずっとこの話を擦ってきやがる。まあ相手を馬鹿に出来るくらい打ち解けられたと思えば別にいいが……


「……レーブ兄、まだですか?」

「あっ……そろそろ終わるか」


 ちょっと長く話し過ぎた。遅すぎてセレノがしびれを切らして声をかけてきた。


「前世の話は、俺達の間だけの秘密だからな」

「了解」


 一応釘を刺してから部屋を出ると、扉の前でセレノがむすっとしていた。


「……お腹空きました」

「ごめんごめん、思ったより話が長くなってさ。勇者……ナツキだけど、結構苦労してるみたいでね」

「……そうなんですね。それはレーブ兄もそうですけど」

「……ああ、まあね。……ご飯食べながらみんなで話そう」


 そこは張り合うところじゃない、と思いながら一階の食堂へ降りていく。


 席に座って、注文を終えた後。


「また明日、セレノにはナツキのパーティ参加の判断をしてもらうからな」

「……ああ、私はレーブ兄が良いと思うならいいですよ」

「……そうなの?ならオッケーになるけど……ナツキの人柄とかは知っておいてね」

「はい」

「いいの?こんな怪しいやつパーティに入れて」

「……怪しいやつって……」


 ミーナの疑問にナツキが悲しい顔をする。


「ミーナ、ナツキは怪しいやつじゃないよ。むしろ被害者っていうべきかな」

「ふーん?そうなの?」

「そう……だね」

「その辺は、食べながら話そう」


 改めて軽く自己紹介をした後、到着した料理を食べながら各々の話をした。



 ナツキはこの世界に連れてこられてすぐ、城で祭り上げられた。城の者達は勇者様、勇者様と言って、崇めるように近寄ってくる。何のために召喚されたのか、なんで自分なのか。何も分からないままそうやって扱われることに、ナツキは恐怖を覚えた。


 召喚の翌日、ナツキは勇者の実力を試すためといって神聖王国の騎士団達と戦わされることになった。その話によって、国は武力としてナツキを傍においておきたいということが分かったが、ナツキは不安を感じるほかなかった。急に別の世界に召喚されて、個人の意思関係なく働かされる。奴隷のようなものだ。


 剣道の大会で毎度のごとく好成績を残していたナツキは、その実力とこの世界に適応した体によって騎士団を打ち負かし、簡単に抑え込めるものではないということを国に証明してしまった。

 ナツキはこれを好機ととらえ、とりあえず城を出るために、この世界を旅してみたいと主張した。始めは却下されたが、ナツキが思い切ってこの国の為には動いてやらないとも主張すると、国王は渋々頷いた。護衛をつけると言われたが、それだと意味がないので、勇者をなめるなと言って退けた。そうやってなんとか一人で城を出る事には成功した。



「それで、今に至る」


 俺はこの内容で聞いているが、二人には内容を一部(ぼか)して、分かりやすいように話している。


「なるほど、それで生計を立てる為に冒険者ギルドに?」

「そうなる。僕を死なせないようにか、知識を色々吹き込まれたからね」


 察しのいいセレノが、理解した上で質問を返した。ナツキに興味ないのだと思っていたが、話はしっかり聞いていたようだ。



「じゃあ、次は私の番。あんまり面白くはないと思うけど」


 ミーナがそう前置きして、椅子を座り直した。


「私には、お父さんがいなかった」


 ……ん?


「物心ついた時には既にいなくて、お母さんが一人で私を育ててくれた。お母さんは自分の取り分を分けてまで、私にたくさん食べさせてくれた。……だけど、そのお母さんも倒れちゃって――」


 ……うーん?


「私に食べさせてた分食べてなかったから、体力が持たなかったんだと思う。最後、私の分まで生きてって言って、お母さんは死んでしまった」

「「「……」」」

「だから、私はお母さんの為に生きていくと決めた。だけど、その時まだ十歳くらいだったから、ヘンデルさんのところにお世話になってて――」

「……もう、いいよ、無理しなくて」

「……そう?無理はしてないけど」


 ……重い。重すぎる。ミーナ以外の全員が気まずそうにミーナから目を逸らしている。っていうかこのパーティ、何かしら不幸を被った人しかいないんだが……



「……うーん、ずっと思ってたんだけど……これ、美味しい……?」


 空気に耐えかねたナツキが、話を強引に切り替えた。あんまり食が進んでいなかったから、腹減ってないのかと思っていたが、そういう事か……前世の恵まれた環境にいれば、結構苦しいものがあるよな……俺も同じことを思っていたから、我儘言いたくなる気持ちは分かる。


「……美味しくはない。けど、栄養価は高いらしいから、冒険者の食事としては理にかなってるぞ。因みにこの豆、ダイズっていうんだ」

「ダイズ?大豆?」

「そう。なんか微妙だけどな」

「うん」


 ナツキにだけ分かる意味を含ませて豆な知識を披露した後、ナツキが食い終わるまで適当に楽しげな話を続けた。



ーーーーー



「今日は疲れたから、もう寝たいな」

「ああ、先に寝てればいいよ。俺は寝られないから起きてるけど」

「……なんかごめん」

「あー、気にしなくていいよ。もう慣れてるし」


 ナツキには俺の魔法と状態異常については話してある。それも始めは笑われたが、俺が真剣な表情で言っているのを見て、自重してくれた。今も謝ってくれたので、気分は悪くならなかった。


「慣れてる、か。こっちに来てどれぐらい経ってる?」

「……考えたことなかったな。三か月ぐらいか?」

「……三か月か。そんなに長くないと思うけど、すごく落ち着いてるよね」

「そうかな?まあこの世界で生活するのも悪くないとは思ってる」

「……そっか」


 ナツキは含みを持たせるように、そう呟いた。……ナツキは元の世界に戻りたいんだろうか。まあ普通の人はそう思うのかもしれない。

 それに死んだわけじゃないなら、可能性はありそうだ。その辺は神様には聞いていないから分からないが……俺は、あっちでは死んだからな。


「……寝れそうか?睡眠魔法あるから欲しかったら言ってな」

「あ、そういうの良いんだ。……じゃあ、いきなりお願いしてみようかな」

「オッケー」


 故郷が同じだけで、信用はしてもらえた。長い付き合いになれば、良いんだけどな。


「じゃあ、お休み。……明日からよろしくお願いします」

「……こちらこそ、よろしくお願いします。お休み」



 日本人らしく律儀な挨拶を交わした後、ナツキは眠りについた。

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