035 勇者と実力
「……ん、顔に何かついてますか?」
「いや、そんなことはない」
唐突に現れた目の前の青年の顔に釘付けになってしまっていたが、そう言われたおかげで目を逸らすことができた。
それにしても、この人……勇者、だよな。なんでこんなところに……
「……俺達に、何か用で?」
「貴方達って、二人パーティですよね?」
「いや、三人だな。一人用事があっていないけど」
「三人、ですか、それならむしろ……それで、今から仕事に行くんですよね?」
「仕事……まあそうだな」
「僕も、パーティに入れてくれませんか?」
「え?」
まさかの申し出だった。勇者が、俺と同じパーティに入ると言い出すとは思わなかった。いやまあ枠は空いてるからいいんだけど……
「パーティに入れてほしいっていうのは、ずっとってこと?」
「そうですね、できれば」
ずっと勇者と一緒に行動するのか……目立つだろうな……でも、同じような立場として、関係は持っておいてもいいよな……
とか思ってたら、横で服を引っ張られた。そしてコソコソと喋り出す。
「レーブ、こいつのこと知ってるの?」
「いや?知らない」
「急に近づいてきて、怪しいと思わないの?」
「それは思うけど……悪い人ではないんじゃないか?」
「……なんで?」
「……なんとなく。まあ折角だし、どんな人か見るだけでもいいんじゃないか?セレノの意見も聞きたいから、どっちにしろ今日は決められないし」
「……そうしよう」
とりあえずまとまったので、勇者君に向き直る。
「一旦、今日一日同行して、それから判断するっていうのでもいい?もう一人にも同意を得る必要があるんだ」
「はい、それで大丈夫です」
「ありがとう。俺はレーブだ、よろしく」
「ナツキです。よろしくお願いします」
終始礼儀正しい所に日本人味を感じた。俺も最初は敬語だったのだが、冒険者とかには使わない方が舐められたり避けられたりしないので、早い段階で止めた。ちなみにセレノは敬語だが、ほとんど俺が喋るので問題はない。
……それにしても、ナツキ、か。これまた日本人らしい名前だとしみじみ思う。
ーーーーー
勇者ことナツキの冒険者登録を済ませた後、三人で街の外に行く。
ここにセレノがいないのが新鮮だ。いつもいる人間がいないのと、あまり使わないのが現状だがいざというときの治療魔法がないのはちょっと不安に思う。ずっと一緒だったから、多少依存しているところはあったのだろう。俺の中では、セレノの存在はかなり大きいことが分かる。
とはいっても、しばらくはこんな生活が続くから、それにも慣れないとな。幸いにもミーナは強いから滅多に傷を負うこともないし、危なそうなら俺が援護する。何とかはなるはずだ。
……と考えていたのだが、今日はそんなに心配する必要はなかった。なぜなら……ナツキが滅茶苦茶強いからだ。ミーナをスピードで圧倒するごり押しタイプとするなら、ナツキは……あらゆる可能性の中で最善を尽くす、完全無欠タイプだった。自分の行動のせいで攻撃を受ける、避けなければならない、ということがない。つまりカウンターを受けることがないのだ。常に考え抜かれた一手を打ち続け、無駄がない。……これは、勇者というよりはまた別の領域な気がする。
……それにしても、構え、剣の振り方、全体的な立ち回り方。なんか見たことあるんだよな。多分前世の記憶だと思うんだが……ああ。
「……剣道か」
テレビか何かで見た、剣道の剣士に通じる動きだった。なるほど、神様は、勇者だから剣を使えるような人材を選んだわけか。これだけの才能を持ってるんだから、前の世界でも相当強い人だったんじゃなかろうか。……この人も、俺みたいに死んだのだろうか。
ナツキは俺がこの思考を繰り広げている間一度だけこっちを見たが、後は戦闘に専念していた。
戦闘が終わった後。
「生き物を切るのはあんまり気分が良くないですね」
やっぱり元々この世界にいたわけじゃない人間はそう思うよな。
「分かる。俺も最初はそうだった」
「そうなの?私はなんとも思わないけど。魔物だし」
「……まあ性格によるよね」
今回の場合は世界間の道徳的な部分の違いの問題だが、ミーナにはそれを言っても通じないので、適当に別の答えを言っておいた。そう言った後ナツキがこちらを見ていたが、目を合わせるとすぐ逸らされた。……なんなんだろうか。
それからその日は、ただミーナとナツキが魔物相手に暴れるだけ暴れて、数日分を予定していた討伐依頼をすべて終わらせた。このペースでいけば、二人が銅級に上がるのなんて二か月かからないかもしれない。
なんとも恐ろしいが……益々俺の存在価値はなくなったように思う。
午後になって、セレノを迎えにヘンデルさんの教会に向かう。中に入ると……セレノが子ども達に囲まれている状態だった。
「あ、レーブ兄……助けてください」
「セレノお姉ちゃんもっと魔法見せて!」
「え、はい……ちゃんと見ててくださいね」
「……随分と懐かれてるな」
あの人見知りがあんなに好かれるとは……やはり可愛いは偉大だ。……いや、魔法がすごいのか。
「セレノが来てくれて助かってるよ、回復魔法は追いつくし、子ども達の相手もしてくれる。まさか風魔法も使えるとは思っていなかったけれど」
ヘンデルさんは嬉しそうにそう言った。気に入られすぎて、ずっとここにいてくれとか言い出しそうで怖い。
それにしても、子ども達の魔法見せて、は風魔法のことだったみたいだ。セレノは手からふわふわと風を起こして、子ども達の髪を必死に靡かせている。いつの間に使えるようになっていたんだ……これはいよいよ俺の出番はなくなったな。
「ふう……疲れました」
「お疲れ。歓迎されてるようで良かったよ」
「それはそうですが……勉強の時間はありませんでした」
「遊び盛りだからな……まあ許してあげて」
「はい……あれ?」
後ろに立っているフードの青年に気付いたセレノ。まじまじと見て、次に発した言葉は……
「ユウシャサマ……ですか?」




