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032 教会と邪推

「やああああぁぁぁぁ!!」

「ぐああぁぁぁ!!」


 黒髪の青年は、向かってくる大柄な騎士を木剣で吹き飛ばした。


「流石は勇者様だなぁ、うちのエースが手も足も出ないとはなぁ」


 周りから驚きと称賛の声が聞こえる。


「……いや、こんなに吹っ飛ばせるわけないんだけどな」


 青年も自分の力に驚きを隠せなかった。この世界に召喚された次の日には、自分の勇者の力を試すなんて言われて、この国の騎士達相手に、ずっと握っていた竹刀ではなく木刀を振るってきた。

 だが、自分でも理解できないほど身体能力が向上していたのだ。今の体なら、全国制覇も夢じゃないと思える程だ。

 ……それは、元の世界に帰れたらの話ではあるが。


「お前ら、たるんでるんじゃないのか?」


 さっきの大柄の騎士よりもさらに屈強な男が現れて、青年はさっと身構える。


「騎士団長!是非勇者様と打ち合いを!」

「もちろんそのつもりだ。……よろしく頼む」


 騎士団長と呼ばれたその男が、自分と同じく構えの姿勢に入った。今までのどの相手よりも隙がない。他の騎士達と同じようにはいかないことを察した。

 

「じゃあ、行きますよ……始めっ!」


 合図とともに一瞬で距離を詰めてきた男の鋭い一撃を、下がりながら木刀で受け流す。……いや、受け流そうとしたら、それに合わせてまた剣を振ってきた。それは受け止めざるを得ず、鍔迫り合いに持ち込む。勢いをつけられている上、姿勢の悪いこちらは幾分か分が悪いが……なんとか力は拮抗している。


「あの騎士団長の動きも見切るなんて……強すぎるな……」

「……それもそうだが、あの姿勢でよく受け止められるよな」

「本当だよ、もしかして騎士団長よりも力強いんじゃ……」

「「……化け物だな……」」


 失礼なことを言われているが、そんなことを気にしている余裕はなかった。湧き上がる力を最大限振り絞り……なんとか騎士団長の剣を押し返した。


「おらああああぁぁぁぁ!!」

「くっ……まじか……やばいな」


 そんなぼやきとともに、騎士団長は後ろに飛んで距離を取った。が、青年はそこに距離を詰めて、追い打ちをかける。ほんの少し反応が遅かったか、騎士団長は剣を吹き飛ばされ、反撃の余地はなくなった。


「……降参だ」


「「「うおおおぉぉぉ!!」」」


 騎士団長の降参宣言によって、周りの騎士達は興奮した様子で歓声を上げた。



ーーーーー



 城を見に行ったはずが、勇者の姿を見ただけで終わった。俺としては満足しているからいいんだが……


「今日はまともに見れそうにないので、今度また来ましょう」

「そうだな」


 セレノはそうではないみたいだ。まあお望みとあらば、何度でも来ればいい。特に時間に迫られているわけでもない。


 城を背に、来た道を戻っていく。今の時間だが、昼はとうに過ぎていて、まとまったことはできそうにない。冒険者稼業とか。

 ちなみに冒険者稼業だが、これからも定期的にやっていくつもりだ。ロランさんには金をもらえたが、これからの旅の資金全部を負担してもらうわけにはいかないので、神聖王国までの旅費分だけ受け取っていた。

 自分達が生活する分は、自分達で稼がないとな。



「レーブ兄、もう宿に戻りますか?」

「うーん、どうしようか」


 時間はあまりないものの、宿に戻るにはまだ早いと思った。何か時間を潰せること……ああ、あそこがあった。


「教会、見てみようか」

「教会ですか」

「そう。治療魔法にも詳しいだろうし」

「確かに。いい勉強になります」


 旅に出る前にエレーヌさんから聞いていた情報を引っ張り出してきた。回復魔法の聖地と言われるここ神聖王国には、教会がたくさんある。怪我をした人々を魔法によって助けることを生業とするようなところだ。

 それに、セレノには俺の不眠症を治してもらうことになっている。ただ、その研究は流石に一人ではできないと思う。この世界にも基礎的な魔法や体術を教える学校があるようだが、数の少ない治療魔法は教えていないらしい。だから、どこかよさげな教会を見つけて、あわよくば教えてもらおう、と。



 というわけで、街の衛兵さんに有名どころの教会の場所を聞いて、軽く見学に行くことにした。おすすめされたのは、この国でも特に大きな教会で、聖職者の人数も多いらしい。大きいからって信用できるわけではないが……他に当てもないし、行ってみるだけだ。


 目的地は近かった。有名どころだから、城の近くに構えていても問題ないのだろう。……それにしても、でかい。教会より、大聖堂と言った方が正しい。


 堂々たる佇まいに立ち尽くしていると、そんな俺達に目が留まったのか、大聖堂の方からシスターが二人ほど近づいてきた。そして、こう言った。


「祝福をご希望でしょうか」

「……祝福?」

「はい。何処かお怪我はされておりませんか?」

「いや、何処も……」

「そうですか。なら……失礼しました」


 颯爽と帰って行った。



「……」

「……なんだったんでしょう」


 セレノ、俺も全く同じことを思っていた。なんだったんだあれ……って、ああ、もしかしてエレーヌさんが言ってたやつか。確か冒険者を見つけたら営業をかけるみたいに近寄ってくるのがいる、と。

 まさかこんな大きな教会の人間がそれをやっていたとは。いや、むしろそういう事をやっているから、ここまで大きくできたのかもしれない。

 魔法は受けてみないと分からないから、まずは積極的に使ってあげる、ということか。でも金は後で要求するんだろ?

 理には適っているのだろうが、俺個人としてはどうにも恩着せがましい感じがして、あんまりいいイメージは持てない。そういうところにセレノを勉強しに行かせたくはない。


「他の教会も見るか」

「あ、はい。ここには入らないんですか?」

「うん。急に話しかけてきて、用事が終わったら急に去っていく。そんな人達、信用できるか?」

「できないですね」

「だろ、そういうことだ」

「よく分かりました」


 簡単な説明でセレノは理解した。実際人は、相手がどんな人かは第一印象だけでほとんど決めているらしい。

 それは組織も同じで、いくらそれが末端の人間だろうが、看板を背負っていることには変わりない。それだけで組織全体のイメージは決まってしまうものだ。



 そういうわけで俺達は他の教会を見て回った。……のだが、なぜかどの教会もどこか気に入らないところがあって、見学までは踏み出せなかった。……ちょっと気にし過ぎてしまったか。

 でもここまで来たら下手に割り切る訳にもいかず……そんなこんなで城から大分離れたところまで歩いていると、ふと一つの建物に目が留まった。


「ここも……教会か?」


 他の教会とは違って派手さがない為、一見しただけでは教会かどうか分からないのだが、屋根には教会の印である十字架がひっそりと乗せられていた。


「そうみたいですね……ちょっと地味な感じがしますが」

「だね」


 第一印象で言うなら良くはないが……他の教会とは違って地味であるという点に、俺はむしろ興味が湧いた。


「……ちょっと見てみるか」

「え?ここは見るんですか?」


 流石のセレノも俺の細かい感性までは分からないようだ。頷きだけ返しておいて、俺は教会の扉にそっと手をかける。


「御免下さーい……って、え?」



 目の前の光景に、俺は固まった。


「どうしたんですか?……っ!」


 セレノも後ろから中の様子を覗き見た。そこには……修道服を着た老齢の女性が、床に倒れていた。

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