003 生命の危機
『グギギギ!!!』
どうしようか考えていると、屈強なやつがこっちに走ってきた。流石に早い。これだと走っても逃げ切れないな。これはもう、一か八かだ。
「〈麗夢〉」
『グギ!?ギギ、ギギ……』
なんか必死に耐えている。なら、もう一発。
「〈麗夢〉」
『ギ……』
ついに、俺の目の前でバタンと音を立てて倒れた。そして、幸せそうな顔。流石にもう見飽きた。
リーダーが戦闘不能になったからか、子分たちが慌てた顔でお互いをキョロキョロと見回している。お前らにも眠っててもらおう。
「〈麗夢〉、〈麗夢〉、……」
とりあえず、終わったか。このでかい奴に効き目があるか怪しかったが、何とか眠ってもらえた。それでも、思った以上にあっさりと終わったな。この魔法すごいわ。
そして、来た道を引き換えそうとした時……クラッときて、その場で立てなくなってしまった。
ちょっと魔法を使いすぎたかな。道中魔法を使った後特に疲れとかは感じなかったから、いけると思っていたが……使用制限はあったらしい。いやー、まずいな。こんな最深部で動けなくなったら、助かる可能性は限りなく低い。せっかく生きていける資格をもらったのに、何も出来ずに死んでしまうなんて。この身体の持ち主にも申し訳が立たんな。
身体が重い。とりあえず壁際に移動して休むが、休まっている気がしない。目を閉じてみても、眠くもならない。ここで眠れれば、少しは回復できそうなのに。魔法を使って眠るとしても、魔法は使うんだよな。こんな状況で使ったら、眠る前に永眠しそうだ。というか、今目の前で寝ているやつらが起きた瞬間俺は終わるから、寝ること自体アウトだ。
ああ、俺もあんな風に寝たいな。不眠症だったから、もう寝方も分からない。この身体は不眠症ではないだろうから、寝られるはずではあるんだけど……こんな状況でなければすぐにでも寝てやるのに。
それから、何もできずにボーっとしていると、俺が来た道のほうから複数の足音が聞こえてきた。ああ、眠ってたやつらが起きてこっちに向かってきているらしい。詰んだか……
俺は目を閉じ、近づいてくる足音を聞く。そして、目の前で足音が止まった後、聞こえてきたのは……
「大丈夫ですか?」
人間の、声だった。正直もう助からないと思っていた。目を開けると、そこに立っていたのは、いかにもヒーラーっぽい恰好をした、金のロングヘアの女性だった。他にも、俺が眠らせていたやつを取り囲んでいる人達が見える。
「……はい、なんとか」
見た感じ悪い人達ではなさそうなので、とりあえず反応しておく。……いろいろな意味で防御力が低そうな見た目なので、ちょっと目のやり場に困る。
「お名前は?」
「……レーブ、です」
「レーブさん、依頼と一致してますね。リーダー、依頼内容と一致、意識ありました。手当します。……私はマーシィです。手当をするので、って、あれ?」
ん?あれ?ってなんだ?あと、依頼とは。
「……どうしました?」
「……いや、外傷がほとんどないので、どうしてかなと思って」
ああ、それは俺が戦闘という戦闘をしていないからだな。効果があるのが分かって味を占めてから、出合頭で眠らせていたので、攻撃なんて食らっていない。危なげはあったが。
「ん?なんだ、傷を負っていないのか?」
「そうなんですよ」
「そうか、ならやっぱり……俺はこのパーティのリーダーをやっている、アドニスだ。なあ君、君がこのゴブリン達を眠らせていたのか?」
こいつらゴブリンだったのか。たしかに、言われてみればその通りの風貌だな。っと、質問されているんだった。
「そうです」
「やはりな。見た感じ駆け出しな感じがするが、催眠が使えるんだな」
ん?俺が知らない魔法名が出てきた。スリープってそのままだし、そっちのがポピュラーなのかな。適当に話を合わせておくか。面倒になりそうだし。
「まあ、そうです」
「でも、ホブゴブリンまで眠らせるとは、なかなか強力なんだな」
「……はは、たまたまですかね」
「そうか、運が良かったな」
ちょっと焦った。催眠にはあまり強い効果はないようだ。じゃあ、やっぱり俺が持っている魔法ってすごいのか?これは早く自分にも使ってみたい。
「ところでもう一つ質問なんだが、なぜこのゴブリン達を殺さなかった?」
「……え?」
そんな質問を受け、俺は固まってしまった。




