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028 寛容な両親

 数日立って、町には活気が戻ってきた。とはいっても俺は元を知らない訳だが、デモの件より以前からあった不満も同時に解消されて、町の雰囲気は相当良くなっているだろう。セレノと一緒に歩いていても避けられることはなかったから、同じ人達なのか疑う程だ。


 その数日の間は、セレノ一家の屋敷に居候する形でいた。ロランさんもエレーヌさんも歓迎してくれていたが、ずっといるのも悪いからと宿を取ろうとしたら、連れ戻されて客間に押し込まれてしまった。だから仕方なくこの屋敷にいる。まあ友達の家に泊まるのはなんらおかしい事でもないから、そういう事だろう。


 しかし、ずっとこの町にいるのもな、と考える。俺としてはもっとこの世界を楽しみたい。セレノがいいというなら、セレノも一緒に。

 ただ、これと言って何処に行きたいとかが存在しないのが現状だ。今まではとりあえず帰省するために動いていただけなので、目的は達成してしまっている。……いや、まだか?


「そういえば、俺の親ってどこにいるんですかね」

「ああ、そのことだが、もうすぐ来るはずだ」

「え?」


 それとなく聞いただけだったのだが、ロランさんはそんな返しをしてきた。もうすぐ来るって、(レーブ)の親が?

 突然のことに焦り始めていると、外のインターホン用に置かれた鐘が鳴らされた。


「来たな。レーブも来なさい」

「……はい」


 急すぎてとても困るが、とりあえず玄関に向かう。何を言われるのか。そして、何を言えばいいのか。


「「レーブ!!」」


 ドアが開いて俺の姿を見るなり二人、紺色の髪の男と、水色の髪の女が飛び込んでくる。ロランさん達と同じくらいの年齢だと思うが、少しばかり老けているように見える。


「突然帰ってこなくなって、心配したんだぞ!」

「旅に出たなんて聞いて、私達に知らせもせずに……無事で良かったけど……」

「私の責任です、申し訳ありませんでした。てっきり親御さんには了承を得ているものだと思っていたので、私達の判断で旅を許可してしまいました」


 二人して涙を流している。親に知らせもせずに旅に出るなんて、レーブはそんな親不孝な奴だったのか?


「町長さんは、もう悪くない。……俺達が悪かった、謝る。だからレーブ、うちに帰ってきてくれないか」

「……すみません、何がなんだか……説明していただけませんか」

「「っ!!」」


 知らせずに出ていったが、悪いのは親なのか。そして、ロランさんはもう悪くない、と。……全くわからん。記憶が無いというのは本当に不便なことだ。


「そうか、記憶が……手紙の内容は本当のことだったんだな」


 先の騒ぎが収まった後、ロランさんは俺の両親宛てに手紙を送っていたらしい。俺が帰ってきたこと、そして、記憶を失っていることを(したた)めて。



 ロランさんが二人を屋敷の中に招き、エレーヌさんが出した紅茶を飲んで落ち着いた後、俺の両親、マルクとルイーズは、順を追って説明し始めた。



 当時、税の支払い額が町民全員同じだった頃、うちは支払いが厳しいカツカツの家だった。町長に対してマルク、ルイーズが不満を溜めていた丁度その時、息子であるレーブが毎日のようにふらふら出ていくようになった。家の手伝いをしてほしかったルイーズが後をつけたところ、不満の対象である町長の家に入っていくのを見てしまった。

 そのことについてレーブを咎めると、レーブは町長の味方につくと言い出した。それに頭に来たマルクは、つい出ていけと言ってしまった。


「レーブが帰ってこなくなったのはそれからだ。税の額が良心的になった今は、もう町長さんに対して不満はない」


 そう締めくくって、二人して俺に視線を向けた。


「……ごめんなさい」


 自分の家が金に困っている中、ふらふらと外に出て、一番避けるべき事をしたのだ、謝るのは当然だ。俺がやったことではないにしても、親不孝なのには変わらない。


「謝ることはない。お前にもやりたいことがあったんだろ。俺達はそれを理解してあげられなかった」

「……」


 俺には、何も言えることはない。


「……私達は、レーブには本当に感謝しています。当時暗かったうちの娘と仲良くしてくれているだけでなく、此度(こたび)の騒動も収めてくれました。税の負担の軽減方法を考えたのもレーブです」

「な……そうだったのか……」


 ロランさんのその言葉を聞いて驚く両親。さらに続けて、ロランさんはこんなことも言った。


「それに、レーブは冒険者の中でも強い。駆け出しの冒険者が、二人分の生活費を用意しながら馬車移動用の金を貯めるのは、中々できる事ではないですよ。それもかなりのペースなので相当です」

「なんだと……」


 え、そんなに評価高いのか。いや確かに、魔物とまともに戦い続けていたら時間も体力も消費するから、それをこのペースでやり切ったのはすごいか。……まあ実際はずるい方法によって成り立っているわけだが。


 ちらっとマルクを見ると、彼は何かを決意したような目でこちらを見つめていた。


「レーブ、お前はお前の好きなようにするといい」

「え?」


 急に言うことが変わった。さっきは帰ってきてくれと言っていたが……いいのか。勝手に家を出て行って記憶を失くして帰ってきたバカ息子を、咎めなくていいのか。


「お前がやってきたことは、すべて人の役に立っている。俺達にもだ。そのおかげで、今この町はこんなにも活気付いている。親として、それは誇らしいことだ」

「……」

「だから、これからも人の役に立てるように、お前のやりたいことをやればいい。その力で、他の誰かを助けてやってくれ」

「……ありがとうございます」

「ああ。もちろん、帰ってきたければ、俺達は歓迎するからな」

「……はい!」



 両親がとても寛容な人だったおかげで、大したいざこざもなく、面会は終了した。両親はレーブと俺がやってきたことを評価して、これからも自由にしていいと言ってくれた。俺は終始他人行儀だったが、そこについて指摘されることはなかった。俺の記憶喪失を考慮して、触れないでいてくれたのだろう。



ーーーーー



「レーブ、酒でもどうだ?」

「……いただきます」


 夕食を頂いた後、ロランさんが初めてそう誘ってきたので、同席することにする。この場にはセレノを除いた三人がいる。まだ酒が飲めない年齢だから呼ばなかったのだろうか。



「お前は、セレノをどうしたい?」

「はっ?ゴホッゴホッ」


 席に座るなりそんなことを聞かれて、反応に困ってむせてしまった。まだ酒も飲んでいないのに……


「私としては、レーブがもらってくれるのが一番なんだがな」

「そうね」

「は、はあ……」


 本人もいないところで何を言い出すんだ。……って、もらってくれるって、そういう意味だよな……そこまで考えていたわけではないんだが……


「……俺なんかがいいんですか?」

「なにが俺なんか、だ。私達はお前を信用しているし、信頼しているぞ」

「そうよ。あの子を託せるのなんて、あなたしかいないのよ」

「……ありがとうございます」


 ただただ、素直に嬉しかった。二人とも、俺のことを認めてくれている。娘を託していいと言われている。そこまでの信頼を得られているのだ。……まだそうと決めたわけではなかったが、それを親が望むのなら、俺は喜んで叶えよう。俺もセレノのことは好きだし、何よりずっと一緒にいると約束した。……ん?もしかしてこれってプロポーズとも取れる、のか?……だったら今更なのでは。


「それなら……セレノは俺に任せてください」

「よく言った。これで、お前は私達の家族だな!」

「……はい!よろしくお願いします、お義父(とう)さん、お義母(かあ)さん」

「いい響きだな」


 コップに酒が注がれ、祝杯ムードになったロランさん達。俺がそう言うことを前提に酒に誘ったのか……そんな話をするなら、本人も同席の上で話し始めた方が良かったと思う。……まあ、早いうちに親の承認を得られた、ということに関しては、よしとしておくが……



 セレノを抜きにしてそんな重要な話が交わされた後、俺は夜が明けるほどまで酒を飲まされた。寝られないのが分かっている上に、久々の酔いで気分が悪かったが、朝起きてきたセレノに心配されて回復魔法をかけられ、一瞬でスッキリした。

 何故か顔を赤くして目を合わせてもらえなかったが、俺の頭は徹夜したときの感覚だったので、特に気に留めず、回復魔法って便利だな、という感想と、一際インパクトのあった、ロランさんが元貴族だ、ということしか覚えていなかった。

第二章終了です。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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