026 初耳な実態
ベランダに出てみると、案外景色が良かった。奥に行くほど坂になっていて、大きな家が並んでいる。景色もしっかりと考えられて作られた家々に、感動すら覚える。これも、住んでみたい町と言われる所以だろうか。
「おい、二階に誰かいるぞ」
「町長だ。……ん?横にいるのは誰だ?」
「娘がいるのは知っているが、息子なんていたか?」
そんな声が聞こえ、現実に戻される。やはり俺のこの家との関係は知らないのだろう、そんな疑問の声が混じっている。
それにしても、たくさんの人間に注目されるのは、やっぱり緊張する。前世は目立つことを苦手としていたので、特別優秀でもなく、かと言って著しく残念なわけでもない、平均的で平凡な人間を演じていた。
だが今、真に注目されているのはロランさんの方だ。側の俺が怯んでいるようでは話にならない。
「あなた達の目的はなんでしょうか」
ロランさんはとりあえず、こう聞いていた。税の免除、というのは昨日ちらっと聞いたが、他にもあるのかもしれない。
「目的だと?……俺達の目的は、税の免除を承諾させることだ!」
「そうだ、払う税が高すぎるんだ!」
「そうだそうだ!」
……しばらくそのまま言いたい放題言われていたが、聞こえてきたのは、税が高すぎるから、免除してくれ。結局それに行き着くものしかなかった。これだけの人数がそう文句を言うということは、実際高いんだろうが、今まで生活は出来ていたんじゃないのか。切羽詰まった人はいなかったわけではないと思うが、なんとも納得できないものがある。
「私の話を聞いてください」
ロランさんがそういうと、町民達は渋々ながらも静かにしてくれた。
「税が高すぎる、という声が聞こえましたが、今まではそれでも払って頂けていましたよね。どうして急にこんなことを……」
「今までは、だと?倍にしたくせによくそんなことが言えるな!」
「そうだそうだ!」
「倍……?そんなことはしていません!」
おっと、認識に差が出ているようだ。これが原因なのか?
「嘘をつくな!急に支払い額を上げた上に、払えなかったら町に住む権利を剥奪するなんて脅してきやがっただろ!」
「俺のところもだ!ただでさえカツカツだったのに、そんなに上げられたら生活なんて出来やしない!」
「なんだと……?脅しなんてそんな……」
ロランさんが狼狽している。今はそんな場合ではないと思うが。
「そんなことやってませんよね?」
こそっと確認を入れてみる。このために俺がここにいるのだ。
「増税も脅しも知らない。私が指示したことではない」
「指示?」
「そうだ。税を受け取って回るために、それ用の組織を作っているんだ。私一人では町が広すぎるからな」
「なるほど。じゃあその組織が独断でやってるってことか」
「なんだと……」
ロランさんが認識していないなら、その線しかないだろう。こんな世界で、金をそのまま扱う組織であるなら、目の前の金が全部自分のものになれば……なんて考えてしまう人がいる可能性はなくはない。しかし、ただ着服するだけでなく、徴収する税の額も上げてまでとは……なかなか欲深いところがある。
一人で推理していると、ロランさんは少し考えた後、町民達に向かって喋りだす。
「そんなことが起きているなんて知りませんでした。私は――」
「あんたが知らないわけないだろ!あんたのせいで、俺達は生活も出来ないんだぞ!」
「どうせ徴収した金で贅沢でもしてるんだろ!」
ありもしないことをペラペラと。町民と大して変わらない服を来て、決して豪華ではない食事を取り、機能性を重視した家を作っているような人が、贅沢なんてしているはずがない。腹が立ってきた。
「人の話を黙って聞け!」
俺はそう一喝。ロランさんは話している途中だった。罵るなら、最後まで話を聞いてからにしてくれ。
「なんだお前は。関係ない癖に口を出してくるな!」
は?関係ないだと?口だけのお前よりは関係あるはずだぞ。ちょっと黙らせてやろうか。
「〈麗夢〉」
「な、なんだ……?」
困惑しながらも、襲い来る睡魔に負けたその町民は、膝を折り、そのまま地面に倒れ込んだ。
「な、なにをした!」
「ちょっと眠らせただけだ。同じようにされたくなかったら、ちょっとは人の話を聞け!」
「レーブ……お前……」
「本当に眠らせただけなので、安心してください。ロランさんがありもしないことを言われていて、腹が立ったので」
「ちょっと乱暴な気もするが……ありがとう」
俺は頷き、話を続けるようにロランさんに促した。
「……知らなかったのは事実です。私はそんなことは指示していませんが……こんなことになったのはそれに気付かなかった私の責任です。申し訳ありません」
急に謝られて、動揺する町民達。
「しかし、皆様町民の不幸は、私が望んでいるものではありません。勝手に税を過剰徴収して、皆様の豊かな生活を蝕む組織は、今すぐ解体することを約束します」
そう宣言し、屋敷の中へ帰っていくロランさんに俺もついていく。背後では、町民達がざわついていたが、今の言葉を信じられないほどの馬鹿はいないようで、ロランさんを罵るような声は聞こえてこなかった。
「原因が分かってよかったです」
「ああ。分かった以上、あの組織の人間はぶっ潰す」
演説はかしこまっていたが、内心滅茶苦茶キレていたようだ。税の扱いを任すだけに、それだけ信用していた部分があったのだろう。それをこんな風にされると……まあ、キレるわな。
そのままの足で玄関から出ていこうとするロランさん。後をついていっていた俺に、振り返ってこう言った。
「レーブ、後は大丈夫だ。助かった」
「……はい」
すさまじい眼力に怯んだ俺は、それだけしか発することが出来なかった。




