025 必要な功績
明くる朝、何事もなくセレノが起きる前に体を起こした俺は、さもよく寝たかのように壮大に伸びをする。眠れないのはいつも通りなのだが、隣に美少女が寝ているせいで、全く落ち着けなかった。前にも同じような状況になったことはあるが、その時はあくまで「兄妹」だったからな……
伸びを終え、ラジオ体操の覚えている部分だけなんとなくこなしながら、これからのことを考える。
セレノやその家族との関係については、昨日ですべて解消できたからいいのだが、それによって一つ俺に分からないことが出来てしまった。
俺がセレノ一家と家族でないなら、レーブは何処の子なんだ、と。そして、兄妹ならまだ分かるが、他人同士二人きりで旅に出るなんて、何を考えてのことなのか。……駆け落ち?ないか。
それに加えて、この家に帰ってきた第二の目的も、達成出来ていない。そう、この町の異変についてだ。結局町民がデモを行っている理由は分かっていないのだ。
分からないことだらけで溜息をついていると、後ろでもぞもぞと音がする。
「……れーぶにい、おはようございます」
「……おはよう」
変に意識してしまうのは俺だけなのだろうか。寝起きの声でさえ艶やかに聞こえて、落ち着いて聞いていられない。その感情は声には乗せていないが。
「ひさしぶりによくねむれました」
「それは良かった」
返答を短い言葉で済ませながら、セレノに横目を向ける。いつもは寝起きからしっかりした挙動を見せるのだが、今日はどこかだらしない。それにギャップを感じて、新鮮な気持ちになる。俺に本当の意味で気を許してくれたなら、喜ぶべきだろう。
セレノの目が冴えてきたところで、二人で居間へ向かう。当たり前のように俺の分まで朝食を用意してくれていたエレーヌさんが、俺達に気付く。
「おはよう、セレノ、レーブ」
「おはようございます、お母さん」
「おはようございます」
「……二人、昨日は一緒だったのね」
エレーヌさんが薄目でこちらを見てくる。……まずい、疑われている。
「はい。レーブ兄に一緒に寝てもらいました」
「……一緒に、寝ただけです。そのままの意味で」
無意識なんだろうが、なんとも危ういことを言いやがる。誤解されたらどうするんだ。俺殺されるかもしれないぞ。
「……ふーん、そうなのね。朝ごはん出来てるから食べなさい」
何故か残念そうにしていたが、何とかスルーしてもらえたようだ。隣でセレノが首を傾げていたが、気にせず朝食を頂くことにする。……いや別に何もしてないんだけどな。
後で起きてきたロランさんも一緒に食卓を囲んで、当然のように美味い朝食を頂く。……ロランさんの顔色は、今日も優れていない。
完食した後、俺はずっと考えていたことを切り出す。
「やっぱり俺が直接町の人に聞いてきます」
その言葉をすんなり理解したロランさんが、一番に反応する。
「……レーブ、お前にそんなことはさせられない。昨日も言っただろう。これは私の、うちの問題なんだ」
「じゃあ俺が後ろで護衛みたく控えておくので、ロランさんが聞いちゃってください。何かあれば加勢します」
「……そうは言ってもな……」
まだ渋る。責任感の強いロランさんだが、決断力はない。多分一生と言っていいほど解決には乗り出せないだろうから、俺が強行的に解決させたほうがいい、そんな気がしたのだ。
それに、ここでロランさんの力になれれば、レーブの功績でなく、俺の功績になるから、セレノに対する罪悪感も減る。
「レーブは家族同然だ、そう言ってくれたじゃないですか。だったら、これくらいのことは関わらせて下さい」
「だが……」
「あなた、レーブがここまで言ってくれているのよ。レーブが協力してくれるうちに、解決してしまいましょう」
「……そうだな」
妻エレーヌさんの鶴の一声により、ロランさんがついに折れてくれた。ロランさんもエレーヌさんも、ずっとこのままの状況では心に支障をきたしてしまう。本人達も早く何とかしなければ、とは思っていたのだろう。
「レーブ、お前に頼らせてもらう。……ついてきなさい」
おもむろに立ち上がり、二階への階段の方へ歩いていくロランさん。俺も、エレーヌさんにご馳走様とだけ伝えて、席を立つ。
「レーブ兄」
二階へ上がる階段を上っていると、後ろからセレノがついてきていた。
「なんでそんなに協力してくれるんですか」
俺の行動が理解できていないらしい。……仕方ない。
「俺は、セレノの役に立ちたいんだ」
「……私の?」
「そうだ。俺はロランさんやエレーヌさんには感謝してる。だからその恩返しになればと思ってさ。両親の顔が曇ったままなのは嫌だろ?セレノには不安を感じてほしくないんだ」
俺の気持ちを聞いて、恥ずかし気に笑みを浮かべるセレノ。
「……気を付けてくださいね」
「うん、心配してくれてありがとうな」
セレノの頭を撫でて安心させた後階段を上りきると、正面に見えたベランダ的な場所の手前で、ロランさんが待っていた。
「レーブ、横にいてくれないか。情けない話、一人ではどうしても踏ん切りがつかなくてな。かといって、エレーヌに居させるわけにもいかなかった」
「お安い御用です」
「助かる」
そう言ったロランさんの目には、決意が宿っていた。




