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020 奇怪な示威

 錆びてなんとも重い扉を開けると、物が雑然と置かれた、物置のような場所に繋がっていた。


「ここが地下室だな」

「はい、恐らく。いや、絶対そうです」


 セレノは裏道を使ったことがなく、何ならこの地下室にも入ったことがないとのことで、現時点で確信を持ってここまで来ているわけではない。だがセレノは感覚と勘でここが自分の家だと分かるのだろう。

 先の塞がれた階段を上り、開けられると思われる天井部分を押し上げる。しかし上に何か物が乗っているのか、天板は微動だにしない。


「ここじゃないのかな……」

「うーん、ここだろうけどな」


 ノックをするように天板を弾いてみても、ここだけ音が軽いため、上への道はここ以外にあり得ない。だが上に物が乗っている以上、こちらからは開けられないようだ。

 ただ、ここまで来て何もできないまま帰るのも苦しいので、天板を強めに叩いたり、呼びかけたりして、何とか気づいてもらえることに期待して、足掻いた。……だが、とうとう反応はなかった。


「せっかくここまで来たのに……」


 セレノが涙目になって悔しそうにそう呟く。こんな目前まで来て、まさか家に入ることが出来ないとは。久々に実家に帰って、家族に会って、会話を交える。そんな当たり前に出来そうなことが出来ないなんて、普通は思わない。

 だが、もう他にルートはないだろうし、正面から行くほうが入れる可能性は少ない。やっぱりここで足掻くしかないか……



 そう思っていた時、上から微かに声がした。


「……誰かいるのか」

「っ!セレノです!開けてください!」


 もう今しか可能性がないと踏んだのか、セレノは聞いたこともない声量で叫び、何とか声が通じるように試みた。


「セレノだと!?」


 セレノの言葉はしっかりと伝わり、上でガタゴトと物音がし始める。やがて天板が持ち上げられ、そこから顔を出したのは……


「セレノ!」「お父さん!」


 セレノの父、この町の町長だった。



ーーーーー



 しばらくの抱擁を交わした後、父はセレノの後ろにいた俺に視線を向ける。


「おお、レーブも一緒だったんだな」


 セレノを上に引き上げた後、俺にも抱擁をしてきた。なんとなくその言葉に違和感を覚えたが、俺は地下室を覚えていないはずなので、ここにいることが不自然に思えただけだろう。そう取ることにした。


「お父さん、この状況は何なんですか」

「ああ、すぐに話す。廊下ではなんだから、リビングに行こう。エレーヌもいるぞ」


 そう言われ、二人の後をついていく。するとそこには、セレノによく似た、白い髪の美人が座っていた。この人がエレーヌ、母であることは間違いないだろう。


「セレノ!?こんな時によく帰ってきたわね……」

「お母さん……」


 再び抱擁を交わす。美人親子が抱き合っているのは、なんとも絵になるな……って、何を考えているんだ。

 ほどなくして抱擁をやめ、先ほどのロランと同じように、後ろの俺に目を向けるエレーヌ。


「レーブもよく無事だったわね」

「ああ、なんとかなったよ」

「あら。記憶を失くしたと聞いた時はどうなることかと思ったけど、その調子なら問題なさそうね」

「……まあ、そうかな」


 ……うーん、やっぱりどこか違和感がある。実の息子が記憶喪失になっているのに、他人事っていう感じがする。


「二人が無事に帰ってきたことを喜ばしく思う。……それはいいんだが、ちょっとタイミングが悪かったな」


 笑顔だったロランが急に顔を暗くする。それにつられて、エレーヌも。


「何が起こってるんですか」


 そうか、町のことで手一杯で、俺のことを考えている時間がないという事か。それを解決しないと、心から喜んではもらえないようだ。


「ああ、まずはそれを話そうか」


 咳ばらいをして、ロランは今この町に起こっていることを話し始めた。



 事が起こったのは、今から十数日前。いつものように事業の末端を任せている組織との話し合いに奔走していた時、一人の町民がいきなり殴りかかってきた。町民の怒りは収まるところを知らず、暴力より話し合いで解決したかったロランは、一旦撤退して屋敷に戻り、どうすれば怒りを鎮めてもらえるか考えていた。

 どうするかと悩んでいたところ、その翌日から、屋敷の周りに町民が集まりだした。全員ではないものの、それでも大勢と言える数だった。あまりの異様な光景に、外に出ることも出来なかった。

 ただ、外から聞こえてくる罵声は、日頃からよく伝えられている内容だった。事業をするのに、町民の意見が少なからず必要なため、目安箱を設置しているのだ。実現できそうなものは何とか実現してきたが、どうしても中には実現不可能な意見もある。無理なものは無理、というやつだ。

 しかし、それでも屋敷を大勢に囲まれてまで言われたことなど、今までになかった。だから、それだけの理由でここまでする必要性があるのか、というところに疑問を持った。だが、他に理由が考えられなかった。


「……と、こんなところだ」

「なるほど。つまり、大勢で囲んだ本当の目的が何なのかは分かっていない、ということか」

「……そうなんだよ」


 単純に日頃のストレスが爆発した、と考えてもいいのだが、それだとここまで大勢になるか微妙なところだ。まあ最初に怒り出した町民がほかの同じような意思を持った町民を集めてきたのかもしれないが……あくまで推測でしかない。


 結局、起こっている事は分かったが、なぜ起こっているのかは分からなかった。……これでは、解決のしようがない。

 しかし、それは逆に言えば、目的さえ分かれば、なにかできる事が見つかるかもしれない、ということだ。ここは俺の出番だ。


「俺が直接聞いてくるよ」

「……レーブが?危険だ。お前を危険に晒すことはできない」

「この中で、一番立ち向かえるのは俺だ。父さんは町長本人だから、下手に怪我をすることはできない。母さんもセレノも、男の力には対抗できない可能性がある。俺はそれらに当てはまっていない。それに、俺には他に魔法という対抗できる手段がある」


「「……」」


 ……あれ?俺変なこと言ったか?何故誰も言葉を発さない?何故そんな呆然とした目で此方を見つめてくるんだ?


「……レーブ、お前、何か勘違いしていないか?」

「え?」

「レーブ……レーブと私達は、家族では、ないよ」

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