002 第二の人生
俺は、暗い洞窟のような場所で意識が芽生えた。……洞窟、か。これは本当に初手から苦労確定だな。
なんでこんな所にいるんだよ……って、ああ、亡くなった者の身体に移植されたから、か。なにもこんなところで死んだ人に移植しなくてもよかったじゃないか。
いきなり文句を垂れつつ、周囲を見渡す。暗いが、一応松明が設置されていて、何も見えないわけじゃないから、脱出は何とかできるかもしれない。せっかく生き返った?のに、すぐ死ぬのはごめんだ。
近くの松明に近づき、装備、持ち物を確認する。防御力は無いであろう布の服に、切れ味の悪そうな剣と、カードのようなものだけだ。……新米冒険者か?あまりにも貧弱過ぎないか?なぜこれだけの装備でこんな洞窟に侵入した?
一応俺はRPGが好きで結構やっていた。そして、慎重に、失敗しないように物事を進めるタイプだった。幸か不幸か、寝れない時間があったからその分もやり込んでいた。準備万端で冒険するのが俺のモットーだから、これだけの物資で洞窟に入るなんて絶対にしない。
呆れながらも、俺はカードに目を向ける。これは……冒険者カード的なやつか。……レーブ、これがこの身体の持ち主の名前か。これから俺はこの名前で生きていくのかな。
冒険ランクは石、と書かれている。石……まあ、下のほうだよな。そうじゃないと、持ち物がこれだけなわけがない。
とにかくここを脱出しないと始まらないので、とりあえず歩き出す。今のところ特に支障はないので、移植は成功したということでいいのだろうか。神とか名乗ってたが、実際こんな状況だし、信じていいかな。
そうだ、大本命の睡眠の類の魔法ってのはどうなんだ?類ってなんだろうな。普通に考えたら眠らせる魔法とかだろうけど。それだったら普通に使えるようになれそうだな……もっと詳しく要求すればよかったかな。
『……ギ?』
「あ?」
……
目の前の人間ではない生命体と目が合った。考え事をしていて気づかなかった。これって……魔物?あれ、まずいかもしれない。
『ギギッ!!』
「うおっ!?」
太めの木の棒を掲げてこっちに向かってきた。これはやばい。
とりあえず、後ろに走って逃げよう。見た感じ、追いつけはしないみたいだな。で、どうすればいいんだ。このまま走り続けるわけにもいかないし……。装備はこの弱そうな剣だけだ。それに、いきなりアクションゲームのように動けるわけはない。近接が無理なら遠距離で……でもそんな選択肢ないし……いや、あるか?
先ほど考えていた睡眠魔法の事を思い出す。しかし、どうすれば発動できるのか分からない。魔法名も分からない。……いや、分かる。なぜかピンとくるものがある。これを言えば発動できるのか?
とにかく俺はその魔法をその生命体に向かって言い放つ。
「〈麗夢〉」
淡い光が現れ、そいつを包み込む。
『ギ!?ギ……』
やがてその生命体は、うつ伏せに倒れ、そのまま動かなくなった。いや、よく見ると呼吸はしている。どうやら本当に眠ったようだ。
「……おーい」
一応反応があるか見てみるが、特に返答はなかった。いや、こんなやつからまともな返答があったら逆に怖いか。
というかこれって、絶好のチャンスだよな。このまま剣をぶっ刺せば、倒せるかもしれない。眠ったところを殺される、か。なかなか残酷なことだが、そうするしかない。俺にはそれしか確実な方法がないのだ。
ただ、幾ら異質であろうが、生き物であることに変わりのないこいつを何も思わずに殺すというのはちょっとキツいな。ここがこいつの住処だったとして、急に住処に侵入されていたら、そりゃ怒るよな。いくらゲームのような世界とはいえ、ここまでリアルだと、自分の人としての観念が働く。
ここまで考えて、再び俺はそいつを見る。まだぐっすりと眠っているようだ。心なしか、幸せそうに眠っているような……クソ、なんか腹立ってきた。そもそも俺が寝たいからこの魔法をもらったのに、なんで先にこいつが寝てんだよ。……まあ、かと言ってこんなところで寝る訳にいかないしな。どうしようもないか。で、こいつはどうする?
正直この幸せそうに眠っている顔を見ていると、殺す気なんかなくなる。このまましばらく起きないなら、放っておいてもいいかもしれない。俺には特にまずいことはないし、俺も気持ちよく寝ているときに急に殺されるとかなったら嫌だからな。って、誰でも嫌か。
というわけで、最終的に俺はこいつを殺さずに放置していくことにした。
さて、気を取り直して、さっさと脱出しなければ。まさかの食い物すら持っていない状況なので、長居をするとスタミナ切れで動けなくなりそうだ。
ひたすら洞窟を進んでいると、本当に住処だったのか、同じ生命体に数体出くわしたが、こいつらも先ほどと同様に眠ってもらった。……ただやっぱり、幸せそうな顔をして眠る。麗夢という名の通り、ただ眠らすというより、夢を見せるという事なんだろうな。俺も早く夢を見るほどの睡眠をしたい。
だが、ここまで進んできたが、一向に出口に近づいているような気がしない。ずっと同じような光景が続いている。これ、本当に出口に向かっているのかな。むしろ、奥へと進んでいるような……
『グギギギ!!!』
突然前方から思わず耳をふさぐほど大音量の叫び声が聞こえた。なんかさっきまでのやつとは違う気がする。
声が聞こえたほうをこっそりのぞくと、そこには一回り大きな、屈強な個体がいた。そして周りには、眠らせてきたやつと同種のやつが複数。おそらく、あいつがリーダーかなんかだろう。殴るように作られた棍棒を手に、怒り狂っている様子だ。眠らせてきたやつらが戻ってこないからか?
『……ギ?ギギ!』
『……グギ!グギギギ!!!』
……ん?なんかこっちを見ているような……バレてしまったか……まずいな。




