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018 危険な帰路(後半)

「え、知らないのか……シャドウウルフの群れは銀級適性の大物だぞ」

「そうだったのか」


 銀級適性というのは、冒険ランクが銀級の冒険者が四人のパーティを組んで倒すのが想定されている、ということだ。今回の俺の場合、冒険ランク銅級の冒険者がソロで倒したことになっているから、驚くのも無理はない。

 というか、プレインウルフではなかったのか。通りで暗闇で見えにくいわけだ。シャドウウルフは体毛が黒に近い暗い色で、闇夜に隠れて狩りをするため、その名がついている。プレインウルフの上位種に位置付けられている分適性レベルが上がっているのだ。


「お前すごいんだな」

「そんなことはない、偶々だ」


 俺としては、プレインウルフを眠らす感覚で対応したので、いまいち実感が湧かない。一体目を眠らせた時に他の個体が驚きで硬直したから間に合っただけで、本当に偶々にすぎない。

 それに上位種なら、消費する魔力も多そうだ……そう考えれば、かなり危なかったな。俺もギリギリだろうし、無防備なセレノを危険に晒していた。


「んん……レーブ兄……え?」


 今更自分が置かれていた状況に気づいたのか、焦りだすセレノ。


「これは……?」

「ああ、さっき襲われかけてな。まだ死んでない。一応下がっといて」


 肩の重りがなくなった俺は、おもむろに立ち上がり、急所である首に一気に剣を振り下ろした。ランク差で火力が足りなかったのか、一発では入りきらず、苦しみだすシャドウウルフ。……それでも目を覚ましはしなかった。


「これで起きないのか……恐ろしいな」


 倒しきれなかった時のことを考えてセレノを下がらせたのだが、その必要はなかった。自分の力だが、初めてこれを恐ろしいと感じた。


 セレノや起きてきた騎士が呆然と見ている中、眠りこけているシャドウウルフを無言で殺して回る俺。なんとも狂気的な絵に見えるが、俺はただ魔物を倒しているだけだ。


「終わったぞ。後はよろしく頼む」


 素材を回収し、辺りを見回した後、交代の騎士にそう告げる。


「……もうずっとお前でいいんじゃないかな」

「いや、そういうわけにはいかない。俺も疲れるからな」

「そうか、そうだよな……失礼した」


 特に眠くはないが、かといってずっと見張りをやっていたいわけでもない。俺はあくまで数合わせ兼冒険者の義務として参加したまでなので、本来の自分の仕事は放棄しないでほしい。



 一仕事終え、そそくさと馬車に戻ると、俺の出した音で起きたのか、カイルとエマが起き上がっていて、こちらを見つめてきた。


「おい……魔物、出たんだろ」

「ああ。でも倒したから問題ない」

「まだ来るかもしれんだろ……」


 カイルのその言葉に同意するように、コクコクと隣で頷くエマ。どうやら魔物に襲われないか不安で眠れなくなったのだろう。セレノがフォローしてくれていたようだが、どうにもできなかったらしい。


「俺、睡眠魔法使えるんだけど……どう?」

「……どうって、それ、大丈夫なのか?」

「問題ない。セレノもこの魔法で何度か寝たことあるし。お二人が寝ている間も俺は警戒しているしな」


 セレノの方を見ると、カイル達に向かって頷いてくれた。……目はどこか申し訳なさそうにしていたが。


「……すまん、お願いしてもいいか」

「私もお願い」

「あいよ」


 受け入れてくれたところで、魔法を使って二人を眠らす。さっきまでの不安が嘘のように、幸せそうに眠っている。自分から提案したことだが、そんな寝顔を見ると、どうにも辛くなって目を逸らしたくなる。


 気持ちを切り替えようとしていた時、今度はセレノが。


「すみません、寝てしまって……かなり危なかったですよね」


 さっきの申し訳なさそうな目の理由か。


「大したことなかったから、気にしなくていいよ」

「ですが……」

「大丈夫。今なんともなってないからいいんだよ。さて、もう寝るぞー」


 ぽんぽんと頭を撫で、そう言っておく。責任感が強すぎるのは、セレノの良い所であり、悪い所でもある。もう少し気楽にできればいいのだが、どうアドバイスしていいかは分からない。

 だから、とりあえずは俺が余裕を見せておいて、俺に対しては必要以上の心配をかけさせることのないようにしたい。


「レーブ兄……」

「なんだ?」


 まだ食い下がってくるか、と思ったが、そんな考えはセレノの顔を見た途端、一瞬にして吹き飛んだ。



「隣で、寝てもいいですか?」


 顔を真っ赤にして、恥ずかし気にそう言った。


「え……」


 なんでそんなに顔を赤くしているのか分からなくて、こっちまで恥ずかしくなってくる。というかさっきまで隣で寝てたし、兄妹なんだから変に意識することもないと思うんだが……


「……ウルフを見て怖くなって……レーブ兄が隣にいてくれると安心できます」

「……ああ、そういうことね。いいよ」


 ただ怖くて眠れないだけか。それなら別に恥ずかしがらなくたっていいだろ。すぐそこに同じような人達がいるんだから。


 そうして俺は、その言葉の真意に気付かず、夜を過ごした。



ーーーーー



 二日目以降になって、漸く昼も魔物が出だした。昼に出てくる魔物は、やはり夜とは比較にならないぐらい弱いらしく、シャドウウルフにビビっていた騎士も余裕な顔で捌いていた。そして、割と出現に期待していた食べられる系の魔物、レッドボアにも遭遇したので、ささっと倒してドロップした肉を料理人に献上した。これで夕食は多少豪華になるだろう。



 夕食時。


「美味いな。これ、あんたが倒した魔物なんだろ?」

「ああ」

「美味い飯といい、魔法といい……あんたには感謝してるよ」

「そりゃどうも」

「昨日、俺もエマもお互いの夢を見たんだ。すごく幸せだったよ。そのおかげでまた一つ仲を深めることができた」

「……そうか、良かったな」


 まあ夢を見るなら、内容はそうなるだろうと思った。満足に寝ることすらできない俺の前で呑気にのろけやがって、とも思ったが、それはカイル達には関係ない。それより、俺の魔法が役に立ったと喜んだ方が、精神衛生上断然いい。



 そんな多少豪華な夕食も終わり、また夜の見張りの時間がやってくる。セレノにどうするか聞くと、やっぱり一緒にやりたいとのこと。眠くなったら馬車で寝ろよとだけ伝えて、再び焚火の前で並んで座る。


「晩御飯、美味しかったな」

「そうですね。ですが、大分前に食べたたれ付けの串焼きのほうが好きです」

「ん?そんなの食べたっけ」

「はい、……レーブ兄が記憶を失った次の日ですよ」

「……ああ、あれか。確かに美味かったな」


 俺がこの世界に来て、初めて冒険者稼業で金を稼いで、その金で最初に買った、初めての魔物肉を使った串焼きだ。言われれば鮮明に思い出す。

 あの頃はセレノに気を使いまくりだったが、今はだいぶ慣れてそんなこともなくなっている。セレノのほうはどうなんだろうか?


「……あの日から大分経ったけど、俺はどうだ?」

「……どうだ、って?」

「はっきり言うと、記憶を失くす前と後で、思うことはあるか?ってこと」


 あんまりこういうことは聞くべきではないんだろうが、今俺がどのように思われているのかは気になる。嫌われることのないように接してきたつもりだが、実際のところは聞いてみなければ分からない。


「……レーブ兄は、変わってないですよ。……私は変わらず、レーブ兄のこと……いや、何でもないです」

「……そうか」



 肝心なところは聞けなかったが、前と変わっていないなら、問題はないのかもしれない。そう思うことにしよう。


 そうして、夜は静かに更けていく。

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