表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/126

017 危険な帰路(前半)

 翌朝、俺達はロベールやエミリーの見送りを受け、馬車の停留所へと向かった。早朝から外に出ることはなかったので、澄んだ空気がひんやりとして心地いい。

 この時間は人も少ないと思っていたのだが、そこは商業王国というか、案外起きている人は多いようだ。もっとも、夜からずっと起きていて、これから寝るような人もいそうだが。

 とはいっても、やはり昼よりは人通りは少ないので、スムーズに停留所まで行くことができた。出発時間より早めについてしまったが、先に乗っていていいとのことだったので、まだ誰も乗っていない馬車に乗り込んで待つことにした。


 他の乗客が一人も来ないまま出発時間まで待っていると、ギリギリで男女の二人組が乗り込んできて、馬車が動き出した。


「はあ、間に合った……」

「何とかなったわね……」


 肩で息をしながら、俺達の向かい側に座る。必然的に俺達と目が合う。


「あんたらもフレンに行くのか?」

「ああ、少しの間よろしくな」

「おう、よろしく。俺はカイル、こっちは彼女のエマだ」

「よろしくね。お二人もカップル?」

「俺はレーブ、こっちは妹のセレノだ」

「っ!……よろしくお願いします」


 セレノが何かに反応した後、平然と挨拶をする。聞いても何でもないと言われたので、気にしないことにした。


 カイルとエマは結婚を考えていて、フレンの町で家を探す予定なのだという。セレノから聞いた話だと、フレンは冒険者ではない一般の人々が、住んでみたい街と言われて挙げられることが多いのだそう。

 前にセレノが言っていた、父の事業とやらがそうさせているのだろうか。だが、よくない噂の件もあるし、なんとも言えないな。


「それにしても、客は俺ら二組しかいないんだな。もっと乗ってると思ってたんだが」

「あー……なんでだろうな」


 十中八九噂のせいだと思うが、どうやら知らずに今日を迎えたらしい。ここで伝えることもできたが、折角楽し気にしているのに、変に空気を悪くしたくなかったので、敢えて知らないふりをした。



ーーーーー



 初日は特に何も起きることはなく終了した。昼食も夕食も大したものではなかったが、それは承知の上なので何も問題はない。

 ちなみに、同行している料理人は魔物の調理もできるとのことで、道中で食べられる魔物を狩れた時は、無料で食事がグレードアップするらしい。それならむしろ積極的に狩ってもいいかもしれない。


 そんなことを考えているのは、皆が寝静まった馬車の外でのこと。野営をするにあたって、見張り番の人数が少なくて困っていた様で、俺が名乗り出てやった。どうせ寝られないので、暇つぶしに丁度いい。それはいいのだが。


「セレノは寝ててもいいんだぞ」

「いや、私もやります」


 セレノも一緒にやると言い出した。見張りを俺だけに任せるのは申し訳ないとか思ったのだろうが、俺としては全く気にしないし、むしろ休んでいてほしいとまで思っている。

 でもまあやりたいっていうなら無理矢理寝かすこともない。焚火の前で二人並んで座って、時間が過ぎるのを待つ。



「家、大丈夫かな……」


 隣から、不安そうな呟きが聞こえた。


「大丈夫だよ。まだそうと決まったわけじゃない。そもそも噂が本当かも分からないし」

「……そうですね。考え込むのはやめます」


 俺の言葉を飲み込めたのか、セレノの顔に不安の色は無くなっていた。こういう時いつも思うようにしていたことを口に出しただけだが、うまく伝わったようだ。



「それにしても、昼から何も襲ってこないですね」

「そうだね。暇ではあるけど、何も起こらないに越したことはない」


 ただ、こういう話をすると、大体何か起きてしまうんだよな。いわゆるフラグが立った、というやつだ。俺はフラグを立ててしまったのに気づいた時、ま、そんなことは起きないけどな、と付けてから思考をやめるようにしている。そのおかげかどうかは知らないが、フラグをそのまま回収したことはあまりない。


 一人で持論を心の中で語っていると、セレノの頭がこく、こくと動いているのが視界の端に見えた。だから寝てていいと言ったのに、と口から出かかったが、まだ頑張っているようなので、その言葉は引っ込めた。

 それに、うとうとしている時が一番気持ちいいんだよな。俺も学生時代は居眠りをしてしまいがちだったから、それを強く認識している。その上で、今なお眠れない日々を送っていることに苦痛しか感じない。


 やがて、俺の肩に重いものが載せられる。結局、セレノは睡魔に負けてしまったらしい。すうすうと寝息を立てて、もはや起きる気配もない。俺もこんな風に寝たい……


 今の現状にしょんぼりしていたその時、数メートル先に何かがいる気配がした。結局フラグを回収してしまった、と溜息を漏らしながら、目を凝らして見てみると……


「プレインウルフか?」


 暗くてよく見えないが、恐らくそうだろう。プレインウルフなら、俺にも簡単に倒すことができる。だが、隣で俺の肩を枕に寝ている人物がいるため、その場を動くことができなかった。


『グルル……』


 そろそろ襲ってきそうだから、何とかしないとな。でも、俺としては寝ている人を起こしたくはない。それが今の俺を邪魔している状態でも。


「この距離で魔法当たるかな……」


 動かずに倒す方法を考えていると、結局これしか浮かばなかった。うまくいったらそれでよし、そうでなくてもどのみち眠らせることはできる。セレノを起こしてしまうが。


「〈麗夢(ドリーム)〉」

『グル……クーン……』


 普通に一体眠らせることに成功した。それを見た他の個体達が驚いて立ち尽くしている。今のうちか。


「〈麗夢(ドリーム)〉、〈麗夢(ドリーム)〉、〈麗夢(ドリーム)〉」

『……ガルルッ!!』


 次々と眠らされていく仲間を見てまずいと悟ったのか、残った一体が突っ込んできたが、


「〈麗夢(ドリーム)〉」

『ガル……グル……』


 一メートルかそこらの距離のところで、ついに倒れた。なんとかこの場から一歩も動かず、なんなら座ったままで動きもせず勝つことに成功した。本当に使い勝手がいいな、この魔法は。

 ……まあ俺に効果があれば……って、流石にしつこいか。いやそもそもの目的を果たせていないんだから、しつこいのは許してほしい。


「おうい、そろそろ交代だ……って、なんだこれは!?」


 眠気眼でふらふらと出てきた護衛の騎士が、目の前にウルフの群れが転がっているのに目を剥いた。


「ついさっき襲われかけたが、行動不能にした」

「いや、行動不能にしたって……こいつら、シャドウウルフだぞ」

「シャドウウルフ?」

「え、知らないのか……シャドウウルフの群れは銀級適性の大物だぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ