015 過剰な休暇
約二日間の休暇を終えた俺とセレノは、帰省の間に必要な物資を確保するため、商業区に来ていた。といっても、移動のために乗る馬車は結構規模の大きいもので、数日分の食事くらいは用意してもらえるので、自前で用意するものは普段冒険するのに必要になるものくらいだ。街の外であるが故に、魔物が出たら動かなければならない。
というわけで、食事を考える必要のない俺達は、冒険用のアイテムを買い揃えていくことにした。内容を言えば、回復ポーションや魔力ポーション、装備品などだ。いずれも、自分達のペースで活動できていた間は不要だったが、今回はそうではないので、もしもの時の対策をしておく。
購入するものを見ていて思ったが、消耗品の類は少ない。その理由は簡単、攻撃魔法を多用したり、激しい近接戦闘になったりすることがないからだ。初手で眠らせて行動不能にし、一気に叩く。こんな事ができるおかげで、戦闘では無駄に疲れないし、金にもそんなに困らない。かなり省エネな行動ができるため、そういう点ではこの睡眠魔法には割と感謝している。
……まあ、自分に効果があれば百点だったんだけど。というか、それがないと五十点もいかないくらいだ。このことに関しては一生恨み続けることになるだろう。
結構時間が必要だと思っていた準備が昼時にならずして終わってしまい、時間を持て余した。実質今日も休暇となるわけだが、それはもう堪能して終わってしまっていた。だから本当にすることがないが……そこで俺はあることを思いついた。
「セレノの好きなものって何?」
「えっ突然なんですか」
「いや、セレノが何か興味があるなら、それを目的にしようと思って」
セレノはいい子過ぎて、なんでも俺の言うことに合わせてくれる。それにはとても助かっているのだが、自分の意思をあまり出さないのもどうかと思う。
だから、無理やりセレノの興味のあることを聞き出して、俺がセレノについていくという状況を作ろうと考えたのだ。
「うーん、好きなものですか……」
そう言って、俺のほうをまじまじと見つめる。……え?俺?
「どうかした?」
「あ、い、いや、なんでもないです」
顔を赤らめて、滅茶苦茶動揺するセレノ。うんうん、お兄ちゃん思いだもんねーって違う、そういう事を言ってるんじゃない。
「好きなものと言われても……強いて言えば、興味があるのは魔法ですね」
「魔法か」
流石に質問の意図は分かっていたようだが、それにしても魔法か。案外そういうのに憧れがあったとか?
「もっとレーブ兄の役に立ちたいんです」
「ああ、そういう……」
結局行きつくところはレーブ兄なのか。別に悪い気はしないが、あまりにも思いが強すぎるような気もする。
というわけで、魔法に関するものを扱う店を周ってみることにした。魔法に興味があるとはいっても、個人で魔法の適性が存在するらしく、適性がない場合は使うこともできないのだとか。こう言われると、自分に何か適性があるのか試してみたくなってくるな。
そう考えていた時に丁度、魔法適性診断所と書かれた看板を見つけた。金を払うことで、適性の診断をしてもらえるらしい。王国公認のちゃんとしたところみたいだから、でたらめなことを言われる心配もなさそうだ。
早速セレノを連れて、その店へ向かう。もし何か適性が見つかれば、そっちを鍛えるのもいいかも、なんて考えながら。結局俺が行きたいところに行っているが、セレノもワクワクしているみたいだから問題ないだろう。
診断所にたどり着き、セレノから先に診断してもらう。大本の目的はセレノが決めているし、割とワクワクしているようだったから譲ったのだ。大人の余裕、ってやつかな。
「あなたの適性は……お、珍しい、回復と風の二つですね!回復を含んだ2種類はかなり少ないですよ、すごいです!」
「風、あるんだ」
診断を担当した人は珍しい回復魔法に興奮していたようだが、セレノは言葉は冷静だった。回復魔法はそうだろうと思っていたが、風魔法もあるのか、いいな。
「次は俺を頼む」
セレノに知らなかった適性があったことで、俺はどうなのか気になってきた。大人の余裕とかなんとか言っていたが、結果が出るのが待ち遠しい。こんなにワクワクしたのはこの世界に来て以来だ。
「あなたの適性は……あれ?」
「あれ?ってなんですか」
もったいぶらずに早く教えてくれ。
「適性ですが……ない、です」
そんな一言に俺は多大なるショックを受けた。
あまりのショックに店の前で立ち尽くしていると、セレノが励ましてくれた。
「元気出してください、レーブ兄」
「あ、ああ。まさか何もないなんて思わなかったからな」
「でもなんで何もなかったんでしょうか。レーブ兄は睡眠魔法使えますよね」
「まあ睡眠魔法が適性ではないのは予想していたことだ。生まれ持ったものではないからね」
睡眠魔法は貰い物だから、適性ではないのは分かる。元々のレーブの適性が何か別にあると思っていたのだが……まさか、何もないとは。レーブというより、俺で判定されたのか。異世界出身だから、ということなのかもしれない。
そういうことなら、それを受け入れるだけだ。現状不便には思っていないから、別になくても問題はない。……なんか強がってるみたいに聞こえるが。
「それより、風魔法に適性があったみたいだな」
「そうなんです。父が風魔法を使えるので、その影響かもしれないですね」
「なるほど、遺伝か」
父からは風魔法、母からは回復魔法をもらった、ということか。なんとも使い勝手のいい魔法同士だな。
「私だけ適性複数あってしまいましたが……」
「別に気にしなくていいよ、セレノにあれば十分だ」
「絶対に役に立ちますから」
「うん、期待してる」
珍しくやる気を見せるセレノ。その意気だ、もっと自分を出していってくれ。密かにそう願って、俺は歩き出す。




