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013 少年の麗夢

 父の背中は、大きかった。それは、憧れ的な意味でもあるし、そのままの意味でもある。


 父は、このセンブル王国の冒険者ギルドでギルドマスターをしている、優秀な人だ。父の他にも屈強な男達はたくさんいるが、父は特別だった。父から聞かされる冒険者だった頃の話は、どれも目を輝かせながら聞いていた。


 僕はそんな優秀な父に認められたかった。別に見放されているとかそんなことは全くないが、とにかく自分のことを特別扱いしてほしかった。


 だから、特別扱いしてもらえるように、はやく冒険者になりたいと思った。父も冒険者として活動することで、強い男となったのだから、同じように自分も冒険者になるのがいいと考えたのだ。だが、冒険者になるには十六才以上であることが必要であり、当時それを考えた僕は、まだ年齢が足りず冒険者にはなれなかった。


 そこで僕は、こっそりと街を出て、魔物を倒してみることにした。この年で魔物を倒したなんてことはこの街では聞いたことがないから、父も注目してくれるに違いないと思ったのだ。でも流石に一人では怖かったので、いつも遊んでいた友達を三人ほど集めて、街の外へ出かける計画を立てた。



 街の外に出た僕達は、子どもだけで街の外に出られたという解放感から、気が大きくなっていた。魔物を倒したこともない、ましてや遭遇したこともない子どもが、広大な平原を駆け回った。僕も、一見して魔物と呼ばれるような生き物はいないように思ったので、大丈夫だろうと油断していた。


 だが、実際はいないように見せかけて、岩陰に隠れてこちらをうかがっていたのだ。一人の仲間がその岩に近づいたその時、三匹ほどの気味の悪い生き物が一斉に飛び出していた。

 素早く気づいた彼は、驚きながらも何とか身体をひねり、致命傷は免れた。だが、腕に魔物が振るった棒が当たってしまい、血を流してしまっていた。他の仲間もその光景を見て、呆然としている。まずいと思った僕は、即座に近くに転がっていた石を投げつけ、その魔物の気を逸らした。


「早く逃げろ!!」


 お世辞にも、意気揚々と魔物を倒しに来た人間の台詞とは言えなかった。離れたところから石を投げつけることはできたが、近寄って持ってきていた武器で直接攻撃するなんてことはできなかった。複数魔物がいるのに、一人では対処できない。



「おい、大丈夫か!?」


 そんな時、遠くのほうから男の声が聞こえてきた。その方向をみると、数人の冒険者らしき人影がこっちの様子を伺っていた。そして彼らは、瞬時に今の状況が大丈夫でないことを察したのか、返事を返す前に何やら行動を始めた。


「〈炎球(ファイアボール)〉!」


 微かにそんな言葉が聞こえた次の瞬間、火球が魔物めがけて飛んでいった。むごく炎上する魔物を僕達は呆然と眺めながら、その場に座り込んだ。気づけば、その魔物達は冒険者に倒されて消えていた。



「返事も待たずに倒してしまってすまない、大丈夫か……って、君達冒険者か?」


 仲間の命を助けてもらっておいて、何も答えないわけにはいかなかった。その冒険者の当たり前の疑問で、僕達の初の冒険は幕を閉じた。



 当然、父には報告が行き、鬼の形相で叱られた。何事もなく帰って来られればまだマシだったかもしれないが、ただ危険を冒しただけでなく、実際に負傷者も出してしまったのだ。ギルドマスターとしては、この結果は最悪だと言っていい。これで僕は、父に認められるどころか、失望させてしまうことになるだろう。僕はこれからどうすればいいのだろうか。


 と、怒られている間は思っていたが、案外父には失望されていないようだった。というのも言い訳をしていると父は、


「とにかく、今日みたいなことは冒険者になってからしろ。後、お前の都合で他人に迷惑をかけるな。分かったな」


という言葉で説教時間を終わらせたのだ。

 僕は、冒険者になれば今日みたいなことをしてもいいのだ、と解釈した。まだチャンスはある。今日は焦りすぎて失敗しただけだ。

 冒険者になってすぐ大きなことを成し遂げれば、きっと父は今度こそ僕のことを認めてくれるはず。

 僕はそんなビジョンを見据えて、父もといギルドマスターの部屋から退出した。



ーーーーー



 十六才となった僕は、すぐに冒険者となり、功績を上げようと活動を始めた。前に誘った三人のうち、一人だけは僕のところにやってきてくれたので、ともに活動することに決めた。だが二人では人数が少ないので、他の冒険者とパーティを組む事にした。


 そう考えて周囲を見渡した時、とても可愛らしい女の子と地味な印象の男の二人組に目が留まった。とはいっても、男のほうはあまり視界に入らなかった。

 説明をしていて、男のほうがメインに話を聞き、男が良い反応を見せると、女の子のほうも頷いた。ちょっと癇に障るが、パーティ結成の交渉は成立したのでまあいい。男のほうはいいように使ってやろう。



 そうして意気揚々と洞窟へやってきた。討伐対象以外のことを考えるのは面倒だったため、勧誘した男のほうに任せた。

 のだが、その男は不注意か崖から滑り落ちていき、その姿は見えなくなった。その瞬間、昔傷を負った仲間の姿と、父の言葉を思い出した。他人に迷惑をかけるな、と。いや、これは僕のせいではない、はずだ。なぜかそこで断言できなかった僕は、よく分からない感情が押し寄せ、その場を逃げ出した。


 何とか女の子は撒くことが出来たが、元からパーティメンバーだった仲間はついてきていた。なぜ逃げた、見損なったなどと言われ、ついてきたお前に言われたくない、と言い返すと、そいつはパーティを抜けるといって去って行った。どいつもこいつも使えないやつばかりだ。


 一人になってしまい、パーティメンバーをどうするかとギルド周辺をうろついていると、あの洞窟で記憶を失くしたやつがいるという話が聞こえてきた。ピンときた僕は、残されているであろう女の子の再勧誘を思いつき、その場を後にする。


 翌日、ギルドで例の女の子を見つけたので声をかけると、記憶を失くしているにも関わらず、例の男が会話に割り込んできて、僕が心のどこかで気にしていたことを遠慮なく叩きつけてきた。言い返そうにも、父のことを持ち出され、バレてしまうことを恐れて撤退したが、やつが報告したのか、結局父にはバレてしまった。


 僕は覚悟して父にあったが、前ほどは怒られなかった。ついに、僕に失望したのだろうか。僕は、ちゃんとまともに功績を上げようと頑張ったのに、評価してくれないのだろうか。


 さほど怒られはしなかったが、代わりに叔父の家に監禁され、地獄のような鍛錬を強制的に受けさせられた。父は、もう僕の相手もしてくれなくなった。

 これは、誰のせいなのか。あの依頼を受けた僕が悪いのか?違う、あんなことで記憶を失くしたあいつが悪いんだ。あいつのせいで、僕が悪者になってしまったんだ。



 そう思った僕は、地獄の鍛錬の日々の中機会をうかがってこっそり家を抜け出し、記憶喪失男に決闘を吹っ掛けた。地獄だったとはいえ、実のある鍛錬は行なったから、口だけのこいつに負けるわけがないとふんだのだ。父からも許可を貰え、何ならここで父に僕の力量を見せつけることも出来る。そう思って、決闘に臨んだ。


 しかし、結果は惨敗だった。僕は全力を出していたのに、やつは舐めた態度で、勝利をさらっていった。今までの何よりも、悔しいと思った。思ったが、それを受け入れられる頭はなかった。



 ……僕が正しいと思ってしたことは、今まで何一つ正解だったことがなかった。今回も、上手くいくことはなかったのだろう。もう何をやっても上手くいかない。……僕は、どうやっても成功できないのか。

 今までの記憶のすべてが蘇り、様々な負の感情が織り交ざって、僕は我を忘れ、力の限り暴れた。



 ふと我に返ると、そこには、僕が憧れ続けた父の大きな背中。名前を呼ぶと、笑顔で振り返り、両手を広げて、こちらを待つ。僕が何よりも求めた、偉大な父からの、称賛の証。……そんなものを、こんな僕に向けないでくれ。



 僕にはもう、それに答えることはできないのだから。

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