表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/126

001 奇跡の体験

 今日も俺は、夜の街に繰り出す。


 ……と、聞こえの良いように言ってはいるが、ただ仕事に行くだけだ。かれこれ三年以上、このネットカフェの社員を続けているが、正直限界が来ている。

 今日は夜からの出勤だが、人員が少ないのに二十四時間営業のため、朝から出勤することもある。人間は生活のリズムを作れないと、心や体に障害が出てしまう事がある。そして、俺はまさに不眠症を患ってしまっている。


 仕事場に着き、俺と同じく負のオーラを漂わせているシフトメンバーに挨拶する。


「おはようございますー」

「……ああ、おはようございます……」


 この人、意識飛んでたな。まあ、仕方ない。俺にも痛いほどわかる。何しろシフトを作るのに人数が確保できていないので、勤務日数は通常より多くなっているのだ。むしろそうならないはずがない、と言ってもいい。


「今日も眠れませんでしたよ」

「えーそろそろやばいんじゃないですか」

「どうなんですかね」


 俺の寝れない発言から始まったたわいもない話を終えたところで、さっさと引継ぎを済ませて帰ってもらおう。帰宅途中に倒れられても困るからな。って、全然たわいなくない気がする。


「じゃ、お先です」

「お疲れ様でした」


 お先もクソもないけどな、と心の中で呟いて、インターネットを見始める。幸いにもインターネットは見ていい環境だったので、そこまで退屈はしなかった。調べものし放題、漫画小説読み放題だ。その代わり、起きていなければならない。



 気づいたら、次のシフトのメンバーが来る時間になったので、同じようにさっさと引継ぎを済ませて帰る。


 建物の外に出ると、目を開けなくなるほど明るかった。昼から仕事がないのは良いが、夜よりも寝にくいんだよな。まあ、夜も寝られないから大して変わりはないが。


 ボーっとした頭で、夜来た道を帰っていく。しばらくまともに寝付けていないので、そろそろ本当にやばいのかもしれない。ぶっ倒れる前に、さっさと帰ろう。



「おい、どいてくれ!!」


 急いで帰る事に集中して角をさっと曲がると、すごい勢いの自転車がこっちに向かってきていた。


 え、どいてくれって言われたってどけない……


 ガシャン……


 そんな音とともに、俺は自転車に突き飛ばされた。


 勢いよく倒れたせいで、頭を強く打ったようだ。なんだか意識が朦朧とする。



 ん?これって、寝られるんじゃないか?



 なぜこんな場面でそう思えたのか自分にも分からないが、最後にそんなことを思って、俺は意識を手放した。そして、意識が戻ることはなかった。



 この世界、では。




ーーーーー




 俺は死んだんだろう。ちょっと死に方が残念とは思うが、それはおそらく事実だろう。それ以上、俺は自分の死に思うところはなかった。


 そんなことより、なぜ今俺はそんなことを考えることが出来ているのか。死人に物事を考える事なんてできるんだろうか。そこが疑問だった。が、その理由となるであろう事象が発生した。



『お主、まだ生きたいか?』



 そんなことを俺に対して話しかけてきた者がいた。これはなんなんだ。そして、生きたい、と言ってなんとかなるものなんだろうか。


「……えーっと、これはどういう状況ですか?」


『お主は、一度死んだ。しかし、お主の魂が還る前に、儂がこちらに呼び寄せたのだ』


「……なるほど、で、生きたいと言ったら、生きられるんですか?」


 正直理解できない。このままでもいいような気がする。もう寝れずに起き続けるのは苦痛なんだよ。


『今なら試すことができる。お主はそれを望むか?』


 ……試すことができる?曖昧だな。怪しすぎる。


「……なにか裏がありそうですね」



『裏、という言い方は間違っている。ただテストをする必要があるのだ。これから、こちらの世界に勇者なるものを召喚しようとしているのだが、失敗するのはまずいのでな。いろいろ試すことがあるので、テスト要員が必要なのだ』


「……なるほど」


 なんか、ゲームみたいな話だな。全く現実味がない。それと、俺に求められているのは勇者、ではなく、そのテスト要員らしい。失敗したくないのはわかるが、テスト要員に選ばれたのはなんだか癪だ。


『テストの内容兼詫びとして、お主の要望をスキルにして応えさせてもらうが。なにか好きなこと、やりたいことはないか?』


 お詫びがあるらしい。しかもやりたいことを実現できるのか。


「じゃあ、寝たいです」


『……寝たい……睡眠、か。なら、お主にはその類の魔法を付与してみるか。で、そう答えたということは、承諾した、ということでよいのだな?』


「……はい、お願いします」


 すでに死んでいる身だし、こういう提案をしてもらえるなら、それに乗るのも悪くないと思った。そもそもこんな提案あること自体奇跡だし、内容も好待遇なんだよな。寝られるというのがでかい。あれ、なんか急にワクワクしてきた。寝られるだけなのにな。


『分かった。では、こちらの世界で生きてもらおう。さて、これから召喚を始めるわけだが、お主を召喚した後は、しばらく様子を見て、特に問題がなければ、勇者の召喚を始めようと思う。なので、お主は基本的には自由に生活してもらって構わない』


「自由なんですね?それはありがたいです、ありがとうございます」


『よい、こちらの都合だけで決めている部分が多いからな、それは当たり前のことだ。ただ、亡くなった者の身体に魂を移植するという方法をとるため、最初は少々苦労するだろう。それについては申し訳ない』


「そ、そうなんですね。まあ頑張ります」


『よろしく頼む。……とにかく、お主が受け入れてくれて助かった、礼を言う。それでは召喚を始めるぞ』


「お願いします。あ、ちなみにあなたは誰なんですか?」


『言っておらんかったな。儂は、この世界の神だ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ