月下の人魚
ネタバレ注意。
高虎が夜の巡回に回っていたある日。高虎は珍しい人物と会った。
「おや。セイレーン様。」
そこにいたのは、小学校高学年ほどの身長の少女。だが、高虎は彼女が見かけそのままの人物ではないことを知ってる。
セイレーンは所謂【人魚】である。陸で生活するために、彼女は特殊な代物を使っている為、見かけからでは判断はできないが。ただ、【人魚】の言葉と人間の言葉では発音の仕方が変わるため、彼女はあまり、陸上での言葉の発音は良くない。
「珍しい…。貴女が悟里屋屋敷以外の場所で月を眺めているなんて。」
「…?たまにはそんなひもいいでしょ?たかとらくんもさんぽにきたの?」
幼い声とたどたどしい言葉で首を傾げながらそういう少女は、満月の月の光のせいか、神秘的な雰囲気を醸し出している。
「俺の方は、巡回をしているだけどね。しかし、たしか貴女は基本的に屋敷の外には出てはいけないはずではありまんでした?」
「しらさわにきょかはもらったよ。」
彼女の嬉しそうな顔でそう言う姿に、高虎は笑顔になる。
「それは良かった。本来、貴女は外の世界が大好きですからね。」
高虎がそう言うと、何か気に入らなかったのか、セイレーンは高虎の方を向いてほっぺを膨らませる。
「むー!おさなごにたいするいいかたみたいにいわないで!たかとらはいつもそうだよ!」
「すみませんね。俺はいつもそういう性格なもので。」
「んー?まあいいけどさ。」
高虎の言いように機嫌を直し、再び嬉しそうにこう言う。
「ねえ、きいて!こんどのしゅうまつは、うみにいくの!ひさしぶりにうみのなかにもぐるの!たかとらもいかない?」
「ほうほう、それはいい。で、それは白沢さんと一緒に行くやつだったり?」
「うん。さとりやとしらさわとあと、はくたくもくるっていってた!」
「うーん…。では、俺は行かないほうが良さそうだな…。と、言うわけでごめんね。」
「むー!なんで?」
セイレーンのいいように高虎はやれやれといった態度になる。
「俺が白沢と非常に仲が悪いのは君も知ってるでしょ?迷惑になりそうだから遠慮しておきたいんだ。まあ、君の旅行が楽しいものになるように祈っておくから、それで許してくれないかな?」
高虎がそう言うと、セイレーンはしぶしぶだが、納得したらしい。
「むー…。わかった。じゃあ、かえったらおみやげばなしするからたのしみにしててね。」
そう言うとセイレーンは悟屋屋敷の方向に去っていく。それを見送りながら高虎は呟く。
「帰ったら…。君にとっての家とは海の、君の本当の家ではなくあの悟屋屋敷なのか…。」
彼女のその言葉は、家を失った者であるからこそ言えること。そう思うと、彼は少し悲しくなる。
彼女の生まれ育った海はもう、存在しないのだから。