冒険者ギルドに行く
カゲマルが帰ってきたので、三人で一緒にお風呂に入る。ジョシュは湯船にプカプカ浮いている。
「カゲマル、いいのかい、二回目だろ?」
「ムムッ、な、何を言っているんですか?」
「まぁ、いいや、それより明日はどうする?、カゲマルはきれいな西の海はまだ見てないだろ、一緒にいくか?」
「父上、それよりも先に冒険者ギルドに一緒に行ってもらえませんか?」
「冒険者ギルド!、あるのか?、この世界に」
「ハイ、あるんです、ですが、冒険者ギルドに登録するには十二歳以上で無ければならないそうで、私の姿では登録出来ないんです。」
「姿を変えれば良いじゃないか十二歳くらいの少年だったら、上手くごまかせるんじゃないか?」
「なるほど、それはいい考えです。ですが、いいのですか?、不正行為をすることになりますが」
「いいよ、それくらいは気にしないよ、俺にとってもその方がやりやすいから」
カゲマルは自由に姿を変えられる。本来の姿は十二歳くらいの少年の姿なのだから別に気にする事もないし、むしろ、これまでのカゲマルの姿は自分の欲望を叶えるためやり易かったんだろう。
「カゲマルは俺の息子で、十二歳になったばかりの我流の魔法使いという設定でいいな?」
「はい、父上、それでお願いします」
フフフ、カゲマル、もしも登録が上手くいったら、カッコイイ名前を付けてあげるからね。
「登録が面倒なら早めに行ったほうがいいな、よし、明日一緒に行こう。」
「はい、父上、一緒に行きましょう」
「ジョシュはどうする?、勿論一緒に行くよね?」
「はい、ご主人様に張り付いていきますから、よろしくお願いしますね」
冒険者ギルドに行くには、カゲマルに転移魔法で連れて行って貰うか、もしくは歩いて行くか、の二つの選択肢があるのだが、今回は歩いて行く事にした。また俺の年齢は何歳くらいが良いのかと尋ねたら二十五歳くらいがいい、と言われ、それに従う事にする。
それと、糞食い村の人々に俺も話し合いに行くことをカゲマルに話して、汚れにくい服や簡単な洗い場が欲しい、という事になり風呂から出た後、ジョシュに探してもらい注文した。
「あぁ、明日は、冒険者ギルドに行くんだから、俺の目立たない服も用意しなくちゃ」
「それなら、もう注文してあります、ご主人様」
「へぇ~、どんなの注文したの?」
それを観た時、俺の心に衝撃が走った。肩に金色のモップが乗ったような服、そして背中に孔雀の羽の様な飾りが付いていた。いやいや、ありえないから~、これは流石にムリだから~、ジョシュには悪いけど断ろう。
「ジョシュ、これは嫌だ、俺は着ないからキャンセルしてくれ」
「ご、ご主人様ぁ~、着てくれないんですかー?、うわぁぁぁん」
「父上、良いではないですか、着てあげ上げれば!」(ニヤニヤ)
このやるぉ~、カゲマルぅ~、自分事じゃないから、余裕ぶちかましやがって~、でもカゲマルがこの変な服を着て欲しいと言われたら喜んで着そうだしなぁ~、うおぅ~どうする。
「ジョシュ、お、俺は着ないけどレオン君なら着てくれると思う、だからキャンセルしなくていいから、レオン君にプレゼントしよう。」
「え、本当ですか!、ご主人様ぁ、ぅ、ありがとうございます。うう」
すまないレオン君、本当にすまない、仕方なかったんだ、ただ、レオン君が嫌だと言ったら、金を払うから着てくれ、それでも嫌だと言ってもムリだから、無理やりにでも着てもらうから。
その後、ジョシュの選んだ服の中で地味なのを選んだ、でも、この世界ではかなり派手なんだけどね。
「おはようございます、父上」
カゲマルに起こされる。ふと見るとカゲマルの身長が高くなっている。いつもの姿だが、この世界では初めて見る、本来、この姿がカゲマルなんだけどね。
何時でも身長は変えられるはずだが、念の為、基地からこの姿で街まで行くらしい。
「ヨシッ、それじゃぁ行くか」
「父上、クリエイトルームに汚れにくい服と洗い場があるので、まずそちらを倉庫へ移動させませんか?」
「そういえば注文してたっけ、よしっ、移動させよう」
俺は久しぶりに大勢の人前に出るという事で、顔を洗い、身なりを整え冒険者ギルドに行こうとしていたが、汚れにくい服と洗い場を注文したのをすっかり忘れていた。
ちなみに服は選んでボタンをポチっと押すだけで作れるクリエイトキットが、洗浄装置に付属しており、ふだんは注文して買う事はない。デザイン料を支払う仕組みになっている。下駄箱にも似たような物が付いてるので、靴に関しても似たような仕組みだ。
「ジョシュ、この洗い場はどうするんだ?」
「トンネルの入り口の近くに取り付ける事ができます。ちょっと待っててください。直ぐ取り付けますから」
そう言ってジョシュが簡単な洗い場を[トンネルン]でトンネルに繋げた。どうやら簡単な洗い場は[トンネルン]の拡張キットのような仕組みになっているらしい。それを見ているとカゲマルが俺に言う。
「父上、レオン君の服は私が持っているので、安心してください」
カゲマルの体は別次元と繋がっていて、いわば自身の体がアイテム保管庫のような役目が出来る。さらに闇の精霊としての力があるため汚れや穢れを吸収することができる。
その他にもエルダードワーフとヴァンパイアとカッパの血が入ってるので、まだ知らない特技があると思う。
「いや、必要ないだろう、レオン君はまだ子供だし」
「いえ、父上、レオン君は今日が誕生日の十二歳です」
「マァジデェェ、そんな歳だったの、レオン君」
「そうです、父上、サプライズプレゼントですぅ、グフフ、素敵ですぅ」
やっべぇ~、レオン君に服を渡さなきゃいけなくなった、レオン君、泣いちゃうかも嫌だぁ~って!、はぁ~、どうしてこうなった。
そして、俺の肩にジョシュ乗っかってきた、どうやら洗い場の取り付けが終わったようだ。
「カゲマル、この金貨一枚で、この世界では結構暮らして生けるんだよな?。」
「はい、安い宿なら、ひと月は泊まれるくらいだそうです。」
「ま、なるようになるか、行こう冒険者ギルドに」
「はい」
「はぁ~い」
冒険者ギルドに行く途中、レオン君の話になって、レオン君の火傷を負った酷いケガが、グリフィンに乗った聖騎士にやられたと、レオン君が言っていたという話になり。
「グリフィン?、あの顔の白いワシみたいな奴、この世界には居るんだな」
「そうです、あの顔の白いの居るらしいです」
「ご主人様、悪いグリフィンはぶっ殺していいですよね」
ジョシュの言葉に頷きつつ、聖騎士が子供に暴力を振るう世界なのか、この世界は、それを聖騎士と呼べるのか?、聖騎士と呼ばせてるんじゃないのか!、と、ほんの少し、心が熱くなった。
「父上、ここが冒険者ギルドです、ささ、入りましょう。」
カゲマルに促されて、冒険者ギルドに入る。うおぉ、なんだ、あの服、恥ずかしくないのか?。そこに居たのは冒険者達だが男性冒険者よりも、気になるのはエロい鎧を着た女性冒険者である。エルフや獣人、そして子供のような背丈の少女はドワーフなのだろう。人間の冒険者より亜人種族が多い。
「カゲマル、向こう側に仕事依頼の掲示板があるんだよなぁ?」
「父上、昨日は急いでいたので、実は私も向こう側は見ていないのです。」
「じゃあ、ちょっとだけ、見に行こう」
仕事依頼の掲示板は俺が想像していた掲示板とは全然違っていた。その掲示板は、俺の知っているもので似ているのがあるとすれば、電車の時刻表を表す駅の掲示板か、バスターミナルのバス運行予定表とかである。
「なんか、ガッカリだな」
「ムッ、父上もですか、私も同感です」
「それじゃ、冒険者登録してもらいに行こう」
冒険者の階級は六つに分かれており、先ほどの掲示板は、上、中、下、でいうところの、下、に当たる掲示板らしい。みすぼらしい冒険者が多くて、こちらの方は高ランク冒険者の休憩所と、冒険者登録をするギルドカウンターが併設されている。新入り冒険者に見せつけるため同じ所に併設しているんだろうな。
「すいません、冒険者登録したいのですが」
「はい、こちらにお名前をお願いします。」
「あ、すいません、字が書けないんですが」
「あ、そうですか・・・ではお名前を言ってください」
「あの息子も一緒に登録したいんです」
「はい、では息子さんのお名前も教えて下さい。」
あ~、そういえば言葉は判るけど、字は書けないんだった。
「え~、私の名前がマルス・チチノマで、息子の名前がセロ・チチノマです」